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鬼喰らう蛇  作者: 功野 涼し


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三十五、豪華な朝食の裏には……

 朝、目が覚めた壮介は枕元にあるスマホに手を伸ばす。時間確認の意味でスマホの画面を起動すると、上部にあるステータスバーに何件かの通知があるのに気づく。


「車の事故多発……今日もか。しかも近くなっている気がする」


 地元のニュースとして数件入っていたニュースを見て呟いた壮介は起き上がると、身支度をするために部屋のドアを開ける。


「うわっと」


「ひやぁ⁉ ごめんなさい、ごめんなさい!」


 開けた瞬間目の前に立っていた芽吹に驚いた壮介に、芽吹も驚き手をあたふたさせる。


「お、起こしに伺おうと思いまして、そのえっと……お邪魔してごめんなさい」


「邪魔じゃないよ、ありがとう」


 壮介のお礼の言葉にうつむいていた芽吹が目を丸くして驚きの表情をする。そんなに驚かなくてもいいのにと思いながらも、その言葉を口に出すと謝罪の言葉を連発するのが予想できた壮介は急いで話題を変える。


「そう言えばスマホ買ったって聞いたけど」


「そ、そそそそうです! お母様にお付き合いいただきスマホを買ってもらいました」


 ぱあっと明るく表情を変えた芽吹は大切そうに両手で持ってスマホを遠慮がちに掲げる。


「よかったね。あ、そうだ、連絡先交換しておこうか。お互い知っていた方が便利だし」


 話しの流れから連絡先交換を提案した壮介だったが、芽吹はまるで浮足立ったを体現したかのようにつま先でたち目を輝かせて壮介を見つめる。


「わ、わたし、わたしなんかの連絡先を壮介様に登録していただくのは、そのご迷惑……ではないですか」


「そんなことはないよ。僕は知りたいけど」


 その言葉を受けてしばらく壮介を見つめていた芽吹だが突然、ボンっと音がしそうなほどの勢いで顔を真っ赤にしてよろめく。


「うわわっ」


 壮介は倒れそうな芽吹を慌てて支える。


「いやぁ~朝から熱いですな~。新婚さんは見せつけてくれますなぁ」


 突然の声に芽吹を支える壮介が振り向くと、廊下の角から顔を覗かせる志乃が口元を押えてニシシと笑っていた。


「志乃、お前なぁ」


「まあまあそんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃん」


 恥ずかしいのは図星だった壮介は言葉に詰まり、志乃に不満そうな視線を精一杯送って抗う。


「まったくもう……学校に遅れるから朝ごはん食べに行くよ」


「はいはーい。芽吹ちゃんもいこっ」


「はっ、はい!」


 これ以上話を続けても志乃にからかわれるだけだと判断した壮介は足早にリビングへと向かう。先頭を歩く壮介がドアノブに手をかけ開ける。


「おはようございます」


「よっ」


 開けた瞬間そこにいたのはダイニングテーブルの椅子に座って新聞を読む柊依と、食事をテーブルに並べる穂香だった。壮介は予想もしていない展開に声もでず口を開けて固まってしまう。


「なんで柊依と穂香さんがここにいるの?」


「なんでとは心外だな」


「ええ本当に……わたくしたちも壮介様の妻であるのですから会いに来るのは至極当然のことです」


 不機嫌そうな柊依にわざとらしく目頭を押える穂香を壮介はジト目で見る。


「芽吹だけ住み込みでズルいからな」


「ええ本当にそうです」


「ひいっ⁉ ご、ごめんなさい」


 柊依と穂香の視線を前に芽吹は謝りながら壮介の後ろに隠れてしまう。その行為にさらに柊依と穂香の視線が鋭くなる。


「それよりもなんで朝から家にいる理由を聞いてないんだけど。そもそも柊依も学校に行かなきゃいけないんだから、ここでのんびりしてる場合じゃないよね」


「学校は休みだ」


「え? そんな話聞いていないんだけど」


 驚きながら尋ねる壮介が志乃にアイコンタクトを送ると、志乃も知らないと

 首を横に振る。ちょうどそのとき壮介たちのスマホから通知音が鳴る。


「え? なんで」


「うわっホントに休みになった」


 通知を開いた壮介と志乃が同時に声を出して驚く。そして通知が来るよりも先に知っていた柊依に目を向ける。


「この地区の学校は休みにしてやった」


「柊依お嬢様、相変わらず言葉が足りませんよ。壮介様方は昨晩に起きた連続交通事故の件は知っているでしょうか?」


「最近交通事故が多いのは知っているけど詳しくは知らないです」


「でしたらこちらをどうぞ」


 穂香はどこから出したのかわからないタブレットの画面を壮介たちに向ける。画面には潰れた車やなぎ倒された信号機、変形したガードレールなどの写真が並んでいた。


「昨晩だけで五件の交通事故が周辺で起きています。そしてどれもがこのように━━」


 穂香が説明しながら画面をスワイプし数枚の写真を壮介たちに見せる。


「潰れてる……しかも屋根の上から。まるで押し潰されたみたいに見えます」


「さすが壮介様、その通りです。これはただの事故ではありません。それゆえ、この事件が解決するまでは地域の学校をお休みにしましょうと提案させていただいたわけです」


「えっ、ちょっと待って。もしかしてそれって神坂家が言ったから学校が休みになったとか言うわけじゃないですよね?」


「そう言うわけだ。神坂家の一声なら市の行政を動かすなどわけない」


 微笑む穂香の代わりに柊依がドヤ顔で応える。


「うわぁ……神坂家って何者なの━━」


「お兄ちゃんって神坂家に跡取りなんでしょ!」


 壮介が言い終える前に志乃が興奮気味に壮介の背中を叩く。


「お兄ちゃんが偉い人になったら毎日学校休みにしてよ。あっ、毎日は友だちあえなくなるしいいや。ならテストは少なめにして、給食はもっと豪勢にしてよ。焼肉とかできない?」


「いや、まだなるとは言ってないし、そもそも候補であってなれるかもわからないわけだし」


 好き勝手言う志乃に壮介は呆れてしまう。


「それで? 二人とも学校を休みにして僕の家に遊びに来たってわけじゃなさそうですけど」


「察しがよくて助かります。町の安全を維持するのも神坂家のお役目ですので、危険因子は取り除かないといけません」


「芽吹、お前も手伝え」


「ひっ⁉ わたっ、わたしもですか⁉」


「今回は芽吹が適任だ。壮介の妻となるならいつまでも背中に隠れているわけにもいかないだろ」


 柊依の言葉に壮介の背中に隠れていた芽吹は壮介をチラッと見ると両手の拳を握りこくりと頷く。


「で、です。はっはい。がっ、がんばりますっ」


「えっ、なになに? みんなでなにをするの?」


 話しが見えない志乃がきょろきょろしながら尋ねる。


「神坂家のお役目で本来なら他言無用なのですが、わたくしの妹様である志乃様ですからお教えしないわけにはいきませんね。実はわたくしたちは治安維持のお役目を担っていまして一般人に紛れ巡回をしているのです。今回のように危険があると判断した場合、公共機関を通して学校をお休みにした方がいいですよと進言するのです」


「ふぇ~すごいです」


「警察が巡回する方が治安維持に効果的ですが、一般人目線でしか見えないものというものもありますから」


 穂香の説明する内容の多くは違うが、優しそうな笑顔と落ち着いて声もあって説得力があり、信じ切っている志乃は感心して「すごーい」とか「へぇ~」と感心の声をあげている。


「さて、お仕事の前に朝ごはんにいたしましょう。お母様にお願いをいたしまして今日はわたくしが作らせていただきました。お口に合うといいのですが」


 穂香が手をさした方を見た志乃がつま先立ちになって感激の声をあげ、壮介も驚き声がもれてしまう。テーブルに並ぶ朝食は品のあるワンプレートにパンケーキや付け合わせの野菜やオムレツ。鮮やかに飾り付けられたサラダや綺麗にカットされた果物と美味しそうに湯気をあげるカップスープなど日頃朝からお目にかからないものばかりであった。


「すごい……これを穂香さんが一人で作ったんですか?」


「はい、少しばかり料理の心得がありますので、壮介様にご満足いただけると嬉しいのですが」


「ちなみに柊依は皿を並べた」


「はいはい、柊依お嬢様も手伝ってくださいました。大変助かりました」


 新聞を置いて胸を張る柊依と穂香のやり取りが可笑しくて壮介がクスっと笑うと穂香が微笑む。


「それではお父様とお母様を待たせていますので、申し訳ございませんが志乃様、呼んでいただけますか?」


「うん、任せて!」


 スキップをしながら出ていく志乃を見送ったあと、柊依が口を開く。


「妖を斬る前に朝ごはん食べるぞ。特に二人は体力使うからよく食え」


「二人? もしかして僕も入っている?」


「ええ、この作戦の要は壮介様ですから」


 それだけ言うと口元を押えてクスっと笑った穂香に押され少し強引に椅子に座らされると、嫌な予感で胸がいっぱいの壮介は美味しそうな朝ごはんを前に食欲と不安の両方で喉を鳴らすのだった。

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