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鬼喰らう蛇  作者: 功野 涼し


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三十三、あなたもわたしもサプライズ!

 黒い霧が立ち昇る中を壮介は走る。下から噴き出す黒い霧を避けた壮介の肩を手が掴む。それは黒い霧から伸びていて壮介の動きを止める。


 逃げようと振り払った壮介だが、あちらこちらで立ち昇った黒い霧から手や足が出てきて壮介に向かって伸びてくる。


 逃げることもできず立ちすくんでしまった壮介は自分に迫ってくる無数の手足を前にして助けを求め叫ぼうとするが、あえなく口が塞がれ声も出せずにもがく。


 手足に押さえつけられ地面の下に沈められるような感覚を感じる。それはまるで溺れるかのような感覚で、もうどうすることもできずに諦めて目をつぶろうとしたときだった。


 世界が揺れ始める。地震とかではなくゆさゆさと揺らされるような感覚。


「あ、あのっ! おっ起きて……くだしゃ」


 暗い世界に似つかわしくない明るいと言うよりはどこか自信なさげな声。だけれどもゆさゆさ揺れる度に壮介を抑え込んでいた手足がはがれて飛ばされていく。


「おっ、起きてくださーい。くぅぅはずかしぃっっ」


 体が軽くなり視界が開けた壮介は緊張感のない声がする方を見上げる。


(そうだ起きなきゃ)


 ふとそう思った途端壮介の周囲は光に包まれ、壮介は思わず目をつぶる。おそるおそる目を開けると「ひゃあっ⁉」っと小さな悲鳴が上げる。


 まだぼんやりとした視界には顔を真っ赤にした芽吹がいて両手の拳を握って小刻みに震えている。


「え? なんでここにいるの?」


「ごめんなさい、ごめんなさい! そのっ壮介様が学校に遅れると妹様……あっ! 志乃……ちゃんが言われまして。壮介様を起こす大役を任されまして……」


「学校⁉」


 なぜ自分の部屋にいるかよりも、芽吹が言った『学校』のワードを聞いた壮介は一気に覚醒し時計を見て飛び起きる。


「まずいっ⁉ もうこんな時間!」


 勢いよくベッドから降りた壮介に驚いて、よろける芽吹を壮介は慌てて支える。


「驚かせてごめん。芽吹さん助かったよ。起こしてくれてありがとう」


 壮介に支えられ真っ赤な顔した芽吹がお礼の言葉を聞いた途端、更に真っ赤になって体をピンと張って強張ってすぐにぐったりしてしまう。


「うわっ⁉ だだっ大丈夫?」


「だっだいじょうぶでしゅ」


 力が入らないのか、舌足らずになって倒れそうな芽吹を慌てて抱きかかえて立たせようとすると部屋のドアが勢いよく開く。


「サプラ~イズ‼ どう可愛いお嫁さんに起こされてぇええええっ⁉」


 満面の笑みで入ってきた志乃だが芽吹を抱きしめる壮介を見て志乃の方が驚いて叫ぶ。


「しっ、失礼しましたぁ~っ⁉」


「ちょっと待って! 志乃、これは⁉」


 逃げる志乃に壮介の声は届かず虚しく廊下に響く。


「きゅ~っ」


 残された壮介が自分の胸元で聞こえた声に目を向けると、壮介に抱きしめられ真っ赤な顔で目を回す芽吹の姿があった。


「あっ……」


 壮介の登校時間が更に切迫することが決まった瞬間であった。


 ***


 芽吹の介抱を母である和にお願いして全力で走った結果、なんとか遅刻を免れた壮介は無事に昼休みを迎える。朝から疲れたとぐったりと椅子にもたれかかる壮介は廊下から手招きをする坂井に気づく。廊下に出ると坂井と一緒に廊下の端へと行く。


「ほんっとごめん!」


 両掌をパチンと鳴らして合わせて謝る坂井を前に壮介が手を振って宥める。


「開いたと思ったドアに向かって走って、そのままバリケードにぶつかって、こけて気絶するとか私バカじゃん。あぁ~はずかしいぃ~!」


 頭を抱え悶絶する自分を宥め続ける壮介を見た坂井は恥ずかしそうに笑う。


「しかも安全なところまで抱えてくれて介抱までしてくれてさ。もう感謝しかないっ!」


「え、ええ救急車を呼ぼうと思ったら起きたんで安心しましたけど、あれから病院には行ったんですよね?」


「うん、色々検査してもらったけどなにも問題ないって。一応経過観察でもう何度か行くことになってるけど元気だし大丈夫!」


 拳に力を入れて元気アピールをする坂井を見て壮介は安堵のため息をつく。


「でさっ今度お礼に……」


 言いかけた言葉を飲み込んだ坂井が壮介の前に出てきた柊依を見つめる。


「ちぇ〜彼女さんのお出ましかぁ」


「彼女ではない。婚約者だ」


「ちょっ、ちょっと!」


 家族以外誰にも言っていない事実をサラっと宣言する柊依を壮介が慌てて止めに入る。


「へぇ~将来を見据えてるお付き合いってやつ? まあいいや、ところで藍鞣(あいなめ)くん、昨日行ったビルだけど結局なにもなかったんだよね?」


「あ、はい。突然坂井さんがドアが開いたと言って走り出して、バリケードに引っかかってこけた以外は特に……」


「ぬぅぅうっ、人の傷をえぐるとか鬼だ! 藍鞣(あいなめ)くんがそんな酷い人だったなんてぇ~」


 わざとらしく涙を拭うフリをすると、自分を見て慌てる壮介を見た坂井が笑い出す。


「じょうだん、じょうだん。絶対になにかあるって思い込んだ私の奇行なんだから。異常って言えばそれしかないし」


 本当のことを知っている壮介としては心苦しいが、そのようにして納得している坂井に対し苦笑いで応えることしかできない。


「んじゃ、またなにか分かったら連絡するから」


「え? まだやるんですか?」


「結局なにも進展ないし捜査続行に決まっているでしょ!」


 ウインクして応える坂井を唖然とした顔で見つめる壮介の額を坂井が押す。


「いい顔するね。ってことで今度も私がこけたらよろしくね」


 笑いながらそう言った坂井が隣に立つ柊依を見る。


「ごめんね、もう帰るからそんなに睨まないでよ」


 片手を上げて、ごめんっと言った坂井は足早に帰っていく。


「うっ⁉」


 坂井が去った方を見ていた壮介のわき腹を柊依が指で突っつき、見た目以上のダメージに壮介は思わずうめき声を上げてしまう。

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