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鬼喰らう蛇  作者: 功野 涼し


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二十六、自信のない少女とフォロー下手な少女に挟まれて

番傘を抱える柊依とアホ毛を揺らしどこか不安気に歩く芽吹の二人を連れて歩く壮介は、自分が周囲からどんなふうに見えるんだろうと思いながら歩みを進める。


「芽吹、なぜさっきは逃げた」


「ひいっ!? ご、ごごめんなさい。突然来られたのでビックリして。その嫌いとかじゃなくてっ、ビックリしたんです」


柊依に話しかけられ芽吹は大きく後退りする。


「寅霧家の選抜代表はたしか雷蔵だったな」


「はっ、はいわたしのお兄様です」


聞いたことのない名前と、家の選抜代表と言うこれまた馴染みのない言葉が気になりながらも壮介は黙って聞き耳を立てる。


「本当にお前は棍棒を振り回し、うるさくてうっとうしい上に暑苦しいあの巨漢の妹なのか?」


「は、はい……」


散々な言われような雷蔵とやらに心の中で同情しながら、元気なく返事をする芽吹のことが気になった壮介は振り返る。


「わたっわたし声も小さくて力も弱くてそのっ……臆病なんで……お兄様とは似ても似つかないと思います。寅霧家に相応しくない恥晒しなんです」


今にも消えそうな声で話す芽吹になんと声をかけようか迷う壮介よりも先に柊依が口を開く。


「そんなことは知らん」


柊依が番傘の先端を地面に軽く叩きつけた音に驚いた芽吹がビクッと体を震わせる。


「寅霧家から出されたのだろ。そこでは恥晒しだと言われたのだとしても壮介の元に来た今は違うだろ。壮介からすごいと言われたのなら芽吹の評価はすごいだ」


「フォローが上手いのか上手くないのかわかりづらいセリフだね。伊吹さん困っているし」


壮介が柊依の発言に呆けている芽吹と自信満々に胸を張る柊依の二人にフォローを入れると、「ふむ」と一言発した柊依が芽吹を指さす。


「それに柊依から逃げたな。足の速さも大したものだ」


「そっそれは……逃げ足が速いだけですから……妖が怖くて逃げ回って臆病者だって言われて」


「それも才能だ。生かすも殺すも芽吹次第だ」


それだけ言うと先頭に出た柊依が振り返る。


「壮介早く行くぞ」


番傘を肩に担いで先頭を歩き始める柊依を見たあと、芽吹を見た壮介はふっと笑う。


「行こうか」


一瞬固まってしまうが、遠慮がちに小さく頷いた芽吹を見て壮介は微笑む。


「いやちょっと待てよ。なんで柊依は僕の家を知っているんだ」


迷うことなく先を歩く柊依に、ふと浮かんだ疑問を胸に壮介は芽吹と歩みを進める。


***


家に着いた壮介は自分の家だと言うのにどこか緊張した面持ちで玄関のドアを開ける。


「そっか……今日はみんな帰ってるんだ……」


土間に並ぶ靴を見てため息混じりに呟いてしまう。今からすることを考えれば家族全員が揃っているのは都合がいいことなのだが、いきなり三人相手と言うのも腰が引けてしまう。


振り返るといつもの表情で「早くしろ」と言いそうな柊依と、壮介よりも緊張しているではないかと思われる芽吹が唇を震わせて見つめている。


「ちょっと待ってて、事情を説明してくるから」


とにかく前に進むしかないとリビングへと入った壮介をソファーでくつろいでスマホを見ている妹の志乃(しの)がチラッと見て「おかえりー」と出迎えてくれる。


「ただいま」と応えた壮介はダイニングの椅子に座ってテレビを見ている母の(なごみ)が大きめのクッキーをくわえたまま壮介に目を向けてふがふが話しかけてくる。


「うん、ただいま」


たぶん「おかえり」だろうと察した壮介が応えると視線をテレビにもどしてしまう和にちゅうちょしながらも声をかける。


「あのさ、お父さんは?」


「ふぅ? ふえ、ひるひょ」


「ふ~ん二階にいるんだ」


クッキーをくわえたまま和が喋る内容を聞きとった壮介は翻訳した内容を呟く。眉間にしわを寄せて考えこむ壮介を見た和がクッキーを噛み砕くと飲み込む。


「なんからしくないけど、なにかあるの? 壮介がそんな顔するの珍しいじゃない?」


「ん、ん~。ちょっと言いづらいと言うか説明が難しいと言うか……」


「もしかしてこの間の怪我のこと? 神坂さん()のご令嬢を庇って怪我したんでしょ。大怪我には驚いたけどもう怒ったりしないから、そんなに気にしなくて大丈夫よ」


「あ、う~ん。それに関係あるって言えばあるんだけど」


神坂家の娘が歩道橋の階段を踏み外し後ろにいた壮介が身を呈して庇ったと、そこからどうやって肩をえぐられるんだという内容を強引に信じさせた穂香が説明した内容を和が言うのを聞いて壮介は歯切れ悪く応える。


「助けたご令嬢とかに惚れられちゃったとか? そう言えばお兄ちゃんって好きな人がいるんだよね。友達がお兄ちゃんと女の子が一緒にいるの見たっていってもん。モテ期到来なんじゃない!」


いつの間にかスマホではなく壮介を見ていた志乃が放ったセリフに和が反応する。


「好きな人がいるってそれ本当? なによ壮介、あんたが好きな子がいるとか言うの幼稚園以来じゃない? やぁ~懐かしいこと思い出しちゃった」


頬を押えて遠い目で昔を懐かしむ和を見て、幼稚園のことは関係ないとツッコミを入れる前に志乃が割り込んでくる。


「で? お兄ちゃんは誰を選ぶの?」


勝手に思い人と令嬢の間で揺れる男にされている壮介だが、これがあながち間違ってないから困ると妹の鋭さに感心しながらも、現実はもっとすごいのだと言いたくもある気持ちが芽生えてくる。


「選ぶとかじゃなくて……」


口ごもる壮介にいつもと違う雰囲気を感じた和と志乃が目を合わせたときリビングのドアの向こうで声が聞こえてくる。


「ひっ、柊依様ダメですって。待つように言われているんですから待ちましょう」


「もう待てん。どうせ言い出せないに決まっている。壮介のためにも強引にいくのがいいのだ」


「ひやぁ~っ⁉」


騒がしい声が聞こえたかと思うと三人が注目している目の前で勢いよくドアが開き、柊依とその腕を掴んだまま引きずられる芽吹が入ってくる。


見たこともない少女二人の登場に和と志乃は目を丸くして驚き、壮介は額を押えて苦悶の表情を浮かべてしまう。

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