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鬼喰らう蛇  作者: 功野 涼し


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二十二、変化した日常の裏を求めて

 帰って来ないかと思えば怪我をして包帯を巻いて帰って来る。それだけでも驚きなのに、黒塗りの高級車から降りてきて、和風メイドの姿の女性を先頭に屈強かつ強面の男性と囲まれての帰還となれば、驚きを通り越して言葉を失い、ただ説明を聞いて頷くことしかできないのは仕方のないことだと思われる。


 昨日の両親と妹が自分を見て驚き、そのあと詳しいことは聞かれずただただ戻ってきたことを喜ぶ姿を思い出して心配させたことへの申し訳なさが込み上げてくる。


 そして今教室で空白となった机に皆の視線が集まる。


「突然ですが蒐場(ぬたば)さんは家の事情により転校となりました。荷物などをお家の方に届けますので、今日の放課後までにまとめてもらえますか?」


 担任の突然の宣言に皆が驚くなか、もうこの世にいない蒐場(ぬたば)のことを転校としてあつかい、事実を捻じ曲げる神坂家の力に壮介は背筋が寒くなる。


 ふと離れた場所にいる柊依に視線を移すと、机に番傘を立てかけた席からじっと蒐場(ぬたば)の机を見つめていた。


 壮介の視線に気づくと一度まばたきをしたのち視線を担任へ向けてしまう。つられるようにして視線を担任に向けた壮介はホームルームの終わりを待つ。


 ここ最近の出来事とこれから自分が成すべきことを考えうわの空だった授業を終え、放課後になると壮介は日頃は行かない上級生のクラスへと足を運ぶ。


 柊依がいては意味がないと一人で向かった壮介は、同じ校舎内であるはずなのに居心地の悪さを感じながら三年生の教室が並ぶ廊下を歩く。


「三年二組……」


 目的の教室の前で呟いた壮介がドアのガラスから中を覗き込む。中にいた数人の生徒を確認したのち、意を決してドアに手をかける。


 だが開けるよりも先に中にいた一人の女子生徒が壮介を見ると近づいてくる。手が触れていたドアを手ごと開けられ目の前に立つ女子生徒と目が合う。


「もしかしてだけどきみって二年の藍鞣(あいなめ)くん?」


「はい」


 知らない人の口から自分の名前が出てきて驚いた壮介は返事をしながら小さく頷く。


「合ってて良かった。ちょっと見かけただけで自信なかったんだけどね。あっ私は坂井って言うんだけど、ちょっときみに聞きたいことがあるんだ」


 初対面の人に聞かれることなど本来ならない話であるが、壮介も聞きたいことがあってこの教室に来たわけで心当たりがあった。


「藤井京香先輩のことですか?」


 ゆえに先に名前を口にした壮介を坂井は、驚いたと言うよりは確信を得たと言った表情で見つめ返す。


「ちょっと場所を移動しようか」


 そう言って坂井は廊下に出ると歩き始める。


「私はあの子と親友ってわけではないけど、家が近いのもあって昔から知ってるんだよね。幼馴染みってやつかな」


 歩きながら話し始めた坂井について行く壮介は見えてはいないだろうが坂井の背後で頷く。


「テニスに真剣に打ち込んでたけど、まあ彼氏ができてからちょっと素行悪くなったんだけどそれでも突然いなくなるなんてことはないわけ」


 非常階段の裏に着いた坂井は話を続けながら振り向くと壮介と向かい合う。


「二年の転校生の神坂さんだっけ。その子がムカつくってのは聞いてて実際にちょっかいをかけたのも知ってる。それでその日に家の事情で転校。転勤がある家でもないはずだし、そんな話も聞いたことがない。さらには同時に彼氏とその友達は無期限の謹慎と自主退学とかになって違和感しかないわけ」


 じっと見つめてくる坂井に押されまいと壮介も目に力を入れて見返す。


「クラスメイトの蒐場(ぬたば)さんが今日突然転校したと説明されました。坂井先輩の方と同じで突然転校なんてする人じゃありませんでした。まして藤井先輩と同日と言うのが腑に落ちなくて……」


「その蒐場(ぬたば)って子のことは詳しく知らないけど、京香たち三人の共通点として神坂さんの存在があるわけ。彼女の近くにいる藍鞣(あいなめ)くんは何か知っているんじゃないかなって思ってたんだけど……」


 お互いに言葉尻に余韻を残し相手の出方を見る。


 わずかな沈黙を破って先に口を開いた壮介が坂井を真っ直ぐ見つめる。


「なぜ藤井先輩たち四人が同時に転校や退学になったのか、つまり僕たちの前からいなくなったのかはわかりません」


 壮介の答えに眉をピクっと動かして不服なことをわずかに滲ませる坂井だが、黙って壮介の言葉を聞く。


「四人の共通点として神坂さんの存在があることは僕も気づいています。ただ本人は関係ない。彼女に疑いが向けられるのは望んでませんので、だからこそ別に関わっている人がいるんじゃないかって思って調べているんです」


 真っ直ぐ見つめる壮介をじっと見つめていた坂井だがふっと大きく息を吐くと肩の力を抜く。


「ふ~んなるほどね。彼氏として彼女の疑いを晴らしたいと言うわけだ」


 彼女とはそう言う意味で言ったのでないのだけどと思いながらも、話が逸らす必要もないと否定せず坂井の出方を待つ。


「きみなら知っていると思っていたけど簡単にはいかないか。そうだね、じゃあさ私は京子の周辺を探ってみるからきみはクラスメイトの子の周辺を探ってみる。それでわかったことを情報交換するってどう?」


「それは助かりますけどそのいいんですか?」


「ん? なにが?」


 壮介の質問の意味がわからないと坂井が聞き返す。


「いえ、僕から聞きに来てなんですけど、四人の生徒が同時に転校や退学になることって普通じゃないじゃないですか。危ないとか思わないかなって」


「んー聞ける人に聞くだけだし大丈夫でしょ。仮に怪しい人物がいたとしても警察に通報するし問題ないって」


 笑いながら応える坂井を見て少し安堵した表情で壮介は頷く。


「じゃあ連絡先交換しようよ」


「あ、はい」


 お互いのスマホを取り出し連絡先を交換し、坂井と別れた壮介が自分のスマホの画面に目を落とす。


「さりげなく新しい女の子の連絡先を手に入れるとはやりますね」


「うわっ⁉」


 背後からした声に驚き飛びのく壮介は、ニコニコと笑顔を向ける桂木を見て胸を押えて激しく動く鼓動を押える。


「まだ怪我が治っていないんですから過度な運動はお控えください」


「いっ、いやそれよりもなんで桂木さんがここに」


 いつもの服装で学校に馴染む気もない桂木にツッコむ壮介だが、当の本人は笑顔を崩さず首を横に振る。


「壮介様、穂香です。そう呼んでいただけなければ答えたくありません」


「うっ……穂香さんがなぜここにいるんです?」


 正直面倒くさいと思いながらも従う壮介を見て穂香は微笑む。

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