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鬼喰らう蛇  作者: 功野 涼し


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二十、逆らえぬもの

「柊依は壮介の手当てをお願いしたが当主様との面会をお願いしてはいません」


 視線をぶつけ合った末、柊依から出た言葉に統吾は眉をひそめ不機嫌そうな顔をするがすぐにニタリと笑みを浮かべる。


「他人に興味のない柊依がよそ者を連れ込み手当てまでしてくれと頼む。興味が湧くのが自然と言うもの。まさか鬼の血が流れていたとは思いもせんかったがな。知っておって連れてきたのか? それとも自己満足のためか?」


 言葉を投げかけられるも、ただ黙ったまま見つめ返す柊依を見た統吾は鼻で笑う。


「あ、あの……」


 気まずい空気だとわかっていても話しに入らないわけにはいかないと口を挟んだ壮介だが、統吾に視線を向けられその圧に後悔する。


「僕の血が鬼とかってどう言う意味なんですか?」


 恐る恐る尋ねる壮介は、統吾が柊依を押しのけて壮介の手を取る。


「壮介、お前の中に流れる血はとても貴重なものだ。これは生まれや血筋など関係なく突然現れる才能のようなもの。だがその血を持つ者が子を産めば2,3世代は似たような血を持つ者が生まれる確率が高いと言われておる。ゆえに神坂家に迎えてやるから子を残せ」


「え、えっと話が見えません。そもそも血が貴重だと言われてもよくわからないんですが」


「妖に襲われたことがあるだろう? お前の血はあやつらにとって馳走なわけだ。そしてそれはわしら神坂家にとっても貴重なものとなる」


 答えてはくれるが今いち意味が理解できない壮介を見て統吾はニヤリと笑う。


「深く考えなくていい。お前はわしの言う四人を()ればいい」


 娶るなど普段聞くことのない言葉ながらも、なんとなく意味を理解した壮介が慌てる横で、目を細める柊依を見た統吾がニタリと笑う。


「柊依よ、不服そうだな。お前がそのような目でわしを見るとは面白い」


「不服などありません」


 頭を下げて目を逸らす柊依を見て統吾は自身の片膝を叩いて可笑しそうに笑う。


「隠さなくてもよい。お前がそんな表情を見せることに驚いているだけだ。そうだ、これまでの成果と壮介を連れてきた褒美に婚姻を許してやらんこともないぞ」


 更に頭を下げ唇を噛んで応えない柊依を、ひとしきりニヤニヤと見つめていた統吾はにやけた表情のまま壮介の方に顔を向ける。


「壮介、聞いての通りだ。神坂家に入るゆえ準備をしておくのだ。近々迎えを寄越そう」


「えっ、そんな急に⁉ 両親と相談もしないといけませんし、それに僕はまだ高校生ですし……そもそも柊依の気持ちを無視して話を進めるのはそのっ、良くないと思います」


 突然の展開に慌てて思いつく限りの言い訳を並べる壮介を統吾は鼻で笑う。


「学校や年齢などそんなものどうにでもなる。それに気持ちなど関係ない。鬼の血を神坂家に迎えることが大事なのだ」


 法はもちろん、人の気持ちなどはどうでもいいことだと言い切る統吾に、これ以上の会話は無駄だと諦める壮介にトドメの一言が放たれる。


「壮介よ、お前にも拒否権などないことを理解しておけ。お前の家を潰すことなど造作もないのだからな。家族は大切であろう?」


 ニヤッと笑う統吾の表情から、発言に偽りがないのだと悟った壮介は背中に伝う冷たい汗を感じ背筋を伸ばしてしまう。

 顔を引きつらせ言葉の出ない壮介を見て、嬉しそうににやける統吾に向かって顔を上げた柊依が口を開く。


「当主様。壮介は柊依が責任を持って預かりますので━━」


「ならんな! 血は均等に分けるゆえ戌咲、牛見、寅霧の三家に加え桂木を壮介の嫁となす」


 自分の言葉を遮られたことに、口をぎゅっと閉め不服そうな表情を見せる柊依を見た統吾が大きく口を開け笑い始める。


「ぬははははっ、嫌か! そうか、そうか嫌なのだな。くっははははっこいつは愉快だ!」


 膝を叩きながら大声で笑い始める統吾を壮介は唖然として見てしまう。その隣でじっと見つめる柊依が唇をグッと噛んで耐えているのが見て取れる。


巳波(みなみ)家の最高傑作が己の感情を前面に出すか。そんなにその男が気に入ったか? ええっ?」


 尋ねている途中でスッと真顔になった統吾が見つめる先では、いつの間にか桂木が畳の上に置かれていた柊依の番傘を手で押えている。


「柊依お嬢様、殺気が漏れてますよ」


 笑顔だが目を細くして見る桂木の視線には明確な殺意を感じさせられ、柊依よりも隣にいた壮介の方が体を強張らせてしまう。


「よいよい、わしは嬉しいのだ。あの無表情で何にも興味を示さなかった柊依がわしに反抗の意志を見せるとは思わなんだ。これが笑わずにいられるか」


 再び愉快そうに笑い膝を叩いていた統吾が大笑いをやめ、ニタアっと張り付くような笑みを浮かべ柊依見る。


「そう構えるな。柊依の望み通り壮介と夫婦(めおと)となることを許可してやると言っておるのだ。これ以上なにを望む」


「いいえ、ありません」


 頭を下げた柊依に対して満足そうに笑みを浮かべる統吾が桂木に目配せすると、桂木は番傘から手を離して壮介の真横に座る。


「桂木穂香(ほのか)、当主様の命を受けこれより壮介様の妻として尽くすことを宣言いたします」


 両手を付き鮮やかな所作で頭を下げる桂木の宣言を受け満足そうに頷く統吾に対して、出会って数時間も経っていない相手から妻となると言われ困惑する壮介の頬を柊依が指ではじく。


「いたっ!?」


 突然の攻撃に驚く壮介を無視して柊依が両手を畳に勢いよくつけ頭を下げる。


「神坂柊依、壮介の妻となることをここに誓います」


 さらに柊依に宣言された壮介は傷の痛みも忘れてしまうほど、混乱が深まってしまうのである。

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