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鬼喰らう蛇  作者: 功野 涼し


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十九、中心にいるが蚊帳の外

 周囲が家に囲まれていることから中庭であろうと思われる場所を通る長い廊下に、時代劇で見るようなお屋敷のようだと思いながら壮介は前を歩く桂木について行く。


「失礼ですが壮介様は、柊依お嬢様とはどのようなご関係でしょうか?」


 足音もなく優雅だが歩く速度の速い桂木について行くのが精一杯だった壮介は乙全の質問に驚き足を止める。


 いつの間にか足を止め振り返った桂木の表情こそ笑ってはいるが、目は笑っていないどころか殺気すら感じてしまう。


「クッ、クラスメイトです」


 圧に押されながらも答えた壮介が、額に流れる汗を拭うこともできずにじっと見つめ返すと桂木は目を細めふっと笑う。


「もっと面白い答えが聞きたかったのですが、でもちゃんと答えることができて良かったです」


 桂木の言っている意味が理解できない壮介が(ほう)けていると、桂木は口元を押えて上品に笑う。


「試すようなことをして申し訳ございません。私の圧ごときで受け答えができない軟弱なお客様であればここでお引き取りいただこうかと思ったのです」


 なんと答えて良いのかわからず戸惑う壮介に桂木は言葉を続ける。


「当主様は神坂家の将来を担う柊依お嬢様が連れてきた壮介様に大変ご興味があります。ゆえに壮介様に対する当りは強くなると思われますのでお覚悟をお願いいたします」


 一方的に言い切った桂木は前を向くと再び歩き始める。ただプレッシャーをかけられただけの壮介は逃げ出したい気持ちを必死に押えながら桂木について行く。


 やがて奥にあった障子が横並びに並んだ部屋の前で止まると桂木が廊下に座り障子をそっと開ける。


「どうぞお入りください」


 桂木に言われ日頃慣れない場面に遭遇し戸惑う壮介は、ぎこちない動きで中へと入る。壮介に続いて入った桂木が障子を閉めスッと前に出ると畳が敷き詰められた広い部屋を先導して案内してくれる。


 部屋の端に並べられた行燈(あんどん)の中で揺れるろうそくの炎が揺れ、部屋の中を優しく照らす。


「当主様、お連れ致しました」


 正座をして深々と頭を下げる桂木の言葉に反応するかのように、目の前の薄っすらとした闇にほのかに光が差し込み人の形が現れる。


「ご苦労」


「はい」


 いつの間にか一人の老人となった影は座布団に座って壮介の目の前にいた。鮮やかな所作で立ち上がり後ろに下がった桂木の代わりに前に出ることになった壮介は老人と向かい合うことになる。


 体は細く背丈も低く座布団に片膝を立てて座っている老人は、かなりの年齢を重ねているようだと思いながら初対面の印象を心の中でまとめる壮介を老人が長い眉毛の下から覗く目を向ける。


「名を名乗れ」


 しわがれた声であるが鋭い眼光と相成って言いようのない迫力を感じた壮介は印象をまとめるのも忘れ慌てて座るとお辞儀をする。


藍鞣(あいなめ)壮介です。この度は助けていただきありがとうございます」


 自己紹介とお礼の言葉を述べた壮介を老人は黙って見つめ続ける。ただ見つめられているだけなのに、胸を抉られ直接肺を掴まれているような息苦しさを感じる壮介の頬に伝った汗が畳に落ちる。


「柊依が連れてきたと聞いたからちと期待していたがつまらんな。もう動けるなら帰るがいい」


 老人は興味はないと言った感じで冷たく言い放つ。ここに来るまで柊依のことを含め妖とはなんなのかなど聞こうと思っていた壮介だが、今は解放されることの安堵感でいっぱいで早くこの場から去りたいと思ってしまう。


「当主様、壮介様には鬼の血が流れております」


 桂木の言葉に先ほどまでの雰囲気が一転、壮介に興味を持った老人がまじまじと見て観察し始める。


「違いないか?」


「はい、輸血をする際に血を調べたので間違いありません。先ほど辰池(たついけ)家より検査結果が上がってきましたのでこの場で合わせてご報告いたします。ご報告が遅れましたことお詫び━━」


「よいよい、それよりも血は天然か?」


 興奮した様子の老人が桂木の言葉を遮り前のめりになる。


「はい、天然でございます」


 桂木の答えに鼻息を荒くした老人が手招きをして壮介に近づくように促してくる。自分のことながらも全く状況が理解できずに、戸惑いながらも逆らうことができない壮介は老人の元に恐る恐る寄っていく。


 近づくなり老人に手を取られ撫でられることにぞわっとした嫌悪感にも似た寒気が背筋を走るのを耐えながらされるがままの壮介を見た老人がニヤアっと口角を大きく吊り上げて笑みをこぼす。


「なるほど、なるほど。他人に興味をもたないはずの柊依が気になるわけだ。そうか、そうか」


 喜びが抑えきれないと言った様子の老人が壮介から手を離すと、長い眉の下から鋭い目で覗く。だがその目は先ほどまでとは違いどこか優しささえ感じ、逆にそれが不気味さを感じさせる。


「わしは神坂家当主、神坂統吾(とうご)だ。壮介と言ったかお前を神坂家に向かい入れたいが柊依を……いや桂木、此度選ばれなかったなかで女児は何人いる?」


戌咲(いぬさき)家と丑見(うしみ)家の二人でございます。あとは寅霧(とらきり)家の代表には妹がいます」


「ほう。では桂木、お前も含め四人で鬼の血を残せ」


「はい承知いたしました」


 統吾の発言に深々と頭を下げ了承する桂木だが、当の本人である壮介は置いてけぼりで意味がわからず二人を交互に見るだけで精一杯である。


 そのとき障子が開き番傘を手に持った柊依が入りつかつかと歩き、統吾と壮介に間に割り込むと座り込んで正座をする。


「なんだ? お前を呼んだ覚えはないが」


 訝しがな表情で睨んで圧をかける統吾に怯むことなく、いつもと変わらぬ表情で見つめ返す柊依と統吾の間に言いようのない緊張感が走る。

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