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鬼喰らう蛇  作者: 功野 涼し


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十五、連れられた先にいた者

 どれくらいの距離と時間が動いたのか感覚を失った壮介を乗せた車が止まると腕を掴まれ乱暴に引っ張られる。

 暗闇のなか無理矢理立たされ、押されながら歩く壮介は、何度も転けそうになりながら必死に足を動かす。


 久しぶりの外に出され壮介の鼻をくすぐる香りが、潮風が運んで来たものだと知る間もなく重い扉が開く音と共に建物の中らしい場所へと強引に押し込まれる。


「連れて来ました」


「ごくろうさま」


 太い男の声が丁寧な口調で報告すると少女の声が応える。その声に聞き覚えがあった壮介が目隠しをされたたまま声の方へ顔を向ける。


 壮介は自分に近づいて来る気配を感じ身を強張らせながらも、頭にかぶされた袋ごしに触れられ、自分の頬に当たった指の柔らかさにふと優しさを感じてしまい緩みそうになった頬を気持ちで引っ張る。


 そんな気持ちを見透かされてか、くすっと笑い声が聞こえ目隠しが取られる。


 建物の中は明かりが灯っており暗いわけでは無いが普段の生活に比べると暗めの部屋。そんな部屋が持つ強くない光量であっても長い間暗闇の中にいた壮介には眩しく、しかめっ面になり目には涙がにじむ。


 ぼんやりした視界に映る情報から必死に自分がどこにいるのか頭をフル回転させる壮介はどこか無駄に広く、それでいて沢山の物であふれている。物置の中のようなそんな印象を持ったところで不意に声がかけられる。


「さっきぶりだね」


 眩しくて閉じかけのまぶたのせいで狭まった上に、涙でにじんだ壮介の視界に映る少女は口元を押さえおかしそうに笑っている。


蒐場(ぬたば)さん……? なんでここに」


「なんでって、壮介くんを連れてきてって頼んだのは私だから」


 さも当然のように答える蒐場(ぬたば)にまだ理解できていない壮介が後ろを振り返ると、三人の男性が立っていた。


 警察官の制服を着た男性と作業着を着た男性に自衛隊員なのか迷彩柄の服などバラバラな職業の男性たち。自分のことを押さえつけていたのが彼らであれば納得できる屈強な体つきをしているが、目はどこか虚ろでどこを見ているのかわからない不気味さを持っていた。


「強そうでしょう。この人達私のために働いてくれるの」


「働いてくれるって、なんで?」


 蒐場(ぬたば)の一言に驚き振り向いた壮介の質問に、蒐場(ぬたば)は口元を押えて可笑しそうに笑う。


「不思議でしょ。そうだよね。私ね……」


 笑みを浮かべたままゆっくりと近づいた蒐場(ぬたば)は壮介の頬に手を置く。


「他人を意のままに操ることができるって言ったら驚く?」


 突然のことに驚く壮介を見て蒐場(ぬたば)は口角を上げて微笑む。


「なんでもしてくれるんだよ。壮介くんを連れてきてって言ったらこうして連れてきてくれるし」


 壮介の頬を名残惜しそうに指で撫でながら手を離すと自衛隊員を指さす。


「ねえ、私のこと好きだって言って」


「はい! 自分は蒐場(ぬたば)様が好きです」


 気をつけをして真面目に答える自衛隊員を見て蒐場(ぬたば)は鼻で笑う。


「ふ~ん、でも私はあなたのこと好きじゃないから迷惑なんだよね。迷惑をかけたんだから反省してくれる?」


「はい!」


 自衛隊員は自分の頬を自らの拳で殴り鈍い音と共にその場に倒れ込む。ゆくっくりと口と鼻から血を流しなら立ち上がって気をつけをする自衛隊員を見て、満足そうな笑みを浮かべた蒐場(ぬたば)が壮介を見る。


「すごいでしょ。あっ、でも安心して壮介くんにはそんなことしないからね」


 壮介の鼻先を指で軽く押して蒐場(ぬたば)は微笑む。突然の行動に驚く間もなく蒐場(ぬたば)が壮介の体を押すと警察官が用意した椅子に座らせられる。そして作業員が用意した椅子に蒐場(ぬたば)が座ると壮介に密着し太ももに手を置く。


「ねえ壮介くん、なにか気づかない?」


「えっ、えっとなにかって……えーとわからないな」


 密着された上に自分の太ももに手を置き体重をかけて顔を近づけてくる蒐場(ぬたば)に壮介はキョドりながらも応える。


「えー壮介くんって鈍いでしょ」


 蒐場(ぬたば)はくすくす笑いながら壮介の胸元を突っつく。


「な・ま・え。気づかないかなぁ?」


「あっ……」


 自分のことを名字ではなく名前の「壮介」で呼んでいることに気づき声が漏れる壮介を見て蒐場(ぬたば)は口元を押えて可笑しそうに笑う。


「ひどいなぁ。結構意識して呼んでいるんだけど気づいてくれないんだ。結構恥ずかしいんだからね」


 両頬を膨らませてわざとらしく怒る蒐場(ぬたば)は壮介の手を取る。


「ねえ、壮介くん」


 相手から意識して呼ばれているとわかると壮介も意識してしまい、手を握られ蒐場(ぬたば)が近いこともあって顔を真っ赤にしてしまう。そんな姿を潤んだ瞳で見つめる蒐場(ぬたば)は壮介の胸に額を押し付ける。


「私のことも名前で呼んで欲しいな」


 胸元から額を離した蒐場(ぬたば)が壮介の肩に手をかける。さらにぐっと近づく蒐場(ぬたば)の顔に壮介は恥ずかしさのあまり体を反らしてしまうが、椅子の背もたれに阻まれて抱きつかれる格好になる。


「言っておくけどこうやってやるの恥ずかしいんだよ。でもねせっかく掴んだチャンス逃すわけにはいかないから頑張ってるんだから」


 頬を赤らめて戸惑いの見える慣れない手つきで壮介の首の後ろに手を回した蒐場(ぬたば)が、お互いの鼻先が触れるほどに顔を近づける。


「私ね壮介くんのことが好き」


 突然の告白と共に顔を近づけてくる蒐場(ぬたば)に抵抗できず固まったままの壮介は、自分の唇に触れそうな距離にある蒐場(ぬたば)の唇を見たときふと柊依の顔が過る。


 その瞬間だった。胸に強い衝撃がくわえられたかと思うと、背中に激しい衝撃が広がり痛みが続いて広がっていく。砕けた椅子の木片が散らばった床が視界に入り、自分が床に仰向けになっているのではないかと理解するよりも先に自分の両肩に走る痛みと衝撃で息ができない苦しさに身をよじる。


「今私じゃない子を想像したでしょ‼」


 空気を伝ってと言うよりは地の底から直接体に響くような声に、おおよそ人とは思えない力で自分の肩を押さえる蒐場(ぬたば)は馬乗りになり、上から壮介を睨みつける。その目には日頃殺気など無縁な生活を送っている壮介でさえ感じ取れる明確な殺気を宿していた。

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