十三、思い出の味と冷たい目
「僕にとってわらび餅と言えばこれなんだけど」
スーパーの和菓子コーナーに並ぶ、丸く小さい透明の餅と袋に入ったきな粉の入ったわらび餅と書いてある商品を壮介が指さす。
「ほう、丸くて透明だ」
あごに手を当てて感心したように頷く柊依が壮介を見つめてくる。
「はいはい、買いますよ。まったくもう」
出費の多い日だと不満を持ちながらもわくわくが抑えきれないと言った感じで、自分が持つわらび餅を覗き込む柊依の姿に壮介の表情が緩んでしまう。
元居たベンチに再び座った壮介がトレーのラップを外してきな粉をかけると、いつの間にか手に持っていたプラスチックの串でわらび餅を突き刺す。
「むむっ、引っ付くぞ」
一個だけでなく連なってしまったわらび餅を怪訝な表情で見た柊依だがすぐにそのまま口に放り込む。
「ふむぅ、これな気がする」
「そうなんだ」
口の中にあるわらび餅を確かめるように噛む柊依から出た言葉に、ホッとした壮介の目の前に串に刺さったわらび餅が現れる。
「壮介も食べて確かめてみてくれ」
「いや、僕じゃ分からないでしょ」
そう言いながら柊依がグイグイと押してくるわらび餅を口に入れる。
「久しぶりに食べた。あぁなんか懐かしい味」
「そうだろ。そうだろ」
なぜか嬉しそうな上に満足気な柊依が可笑しくて表情を緩めて笑みをこぼしてしまう。
「へぇ~本当に仲いいんだね」
壮介の周囲に漂う浮かれた空気を切り裂くようなどこか冷たい声に、思わず顔を上げた壮介の視線の先には笑顔のクラスメイト蒐場の姿があった。
表情は笑っているが目が笑っていない、そんな風に感じた壮介が言葉を発する前に柊依が串に刺したわらび餅を差し出す。それを見下ろす蒐場だったがすぐに微笑むと串を手に取って口に入れる。
「久しぶりに食べたなぁ。はいっ」
蒐場はトレーからすくったわらび餅を壮介に差し出す。
「私からは食べられない?」
「え、えっと」
壮介は自分の唇に触れそうなほど近いわらび餅を目の前にして戸惑ってしまう。
「ふ~ん、やっぱ彼女じゃなきゃ食べてくれないんだ」
冷たい目で見下ろす蒐場に壮介は背筋が冷たくなるのを感じてしまう。手に持った串を投げてわらび餅に突き刺した蒐場が柊依を見つめる。
その瞳はどこまでも冷たく、直接向けられていない壮介ですらぞくっとしてしまうほどだった。だが向けられた当の本人はいつもの眠そうな目で見返す。
「神坂さんって可愛いよね」
「ほう、壮介と同じことを言うんだな」
まったく空気を読まない答えに頬をわずかに引きつらせた蒐場だが、すぐにふっと笑う。
「小さくて可愛いから潰したくなっちゃう」
「そんなものなのか?」
「ええ、そんなもの」
それだけ言って壮介に目を向けた蒐場が微笑む。
「また後でね」
「え? あぁうん?」
蒐場の言う「後で」の意味が分からない壮介だが思わず返事をしてしまうと、蒐場は笑顔を見せてその場を去って行く。
「今の誰だ?」
小さくなる蒐場の背中を見送っている途中で、柊依が発したセリフに壮介は危うくずっこけそうになる。
「クラスメイトの蒐場さんだって。ほら、この前ファミレスで出会ったぁ」
「んーそうだったか?」
全く興味なさそうな柊依だが小さな鼻をスンスンと動かす。
「それにしても蒐場さんなんだか機嫌悪かったのかな? 日頃はもっとやんわりした感じの人だった気がするんだけど」
「壮介、柊依は用事ができた。ここで帰る」
壮介の呟きに被せてきた柊依がベンチから勢いよく飛び跳ねて立つと、立てかけてあった番傘を手に取る。
「わらび餅美味しかったぞ。礼を言う」
「あ、うん、どういたしまして」
ほんの僅かに口角を上げて微笑んだような表情を見せお礼を言う柊依は、壮介返事を最後まで聞かずにその場から足早に立ち去ってしまう。




