第六夜 急襲と反撃
夜に活動する職業の人逹以外は皆、寝静まった日付も変わった深夜。
ツェツァリ大使館にある貸部屋の一つの窓の外に、小さな人影がいた。全身黒の服、顔には覆面をしているので性別は分からないが、背格好から年は十代前半辺りと窺える。
その人影は刃物で窓ガラスを丸く斬り、そこから手を入れ鍵を開け、室内に音もなく侵入した。
室内はとても簡素で、机が一つに椅子が二つ。後はベッドしかない。
そのベッドの中には、規則正しく寝息をたてる人物が一人。その人物は、掛け布団を顔まで覆っているので人相は判別しない。
小柄な人影はそのベッドに足音をたてずに向かい、側面に立った。そして、右手を振り上げ、そこにある刃物を降り降ろそうとして力を入れる、一瞬前に――
「!?」
――掛け布団から銃口が出てきて火を吹いた。
ターン!
それを半歩横にずれることで避ける人影。
「くそっ、外した!」
掛け布団を被っていた人物――エルヴィネーゼは飛び起きてすかさず二発、三発と撃つ。しかし、人影はそれを後方にジグザグステップをすることで避ける。そしてそのまま窓を突き破って外へと避難する。
しかし、そこには――
「逃がさん……」
「!?」
――クラウドが銀糸を翻しながら待ち伏せていた。
窓を突き破った直後であったため体制が崩れて、反応出来なかったのであろう、クラウドの銀糸によってあっさり手足を縛られてしまった。そのまま地面に倒れ伏す人影。
「捕まえた!?」
直ぐに破れた窓から出てくるエルヴィネーゼ。その両手には二丁の拳銃。
「抜りはない……」
それに返答して、人影、もとい小柄な暗殺者を見下ろす。その隣にエルヴィネーゼも立つ。暗殺者は言葉を発さず、身動ぎ一つすらしない。
「この体格……、もしかして……」
「嗚呼……、恐らく十中八九間違いないだろう……」
エルヴィネーゼの質問に答えるクラウド。
「しっかし、今夜と明日の夜は寝ないように、とか……。傭兵相手に何言ってるのか分かんなかったけど、こういうことね……」
「嗚呼……。必ず襲撃はあると思っていたからな……」
そして暗殺者に近付くクラウド。
「では……、顔を拝見……」
そう言い、被っていた覆面を剥ぐ。そして、その下の素顔が晒される。
まず目を引くのが月の光に映えるサラサラの金髪。月の光でここまでならば、陽の光の下では何処まで輝くのか想像出来ないほどだ。次に目立つのが髪と同じ色をした大きな瞳。しかし、こちらは少しくすんでいるように見え、本当の魅力は表れていないが、それでも綺麗なのには変わりはない。そして、この二つに隠されてしまっているが、他のパーツも一つ一つがしっかりしており、落ち度がない。正にその顔は美少女であった。
「…………」
その顔を生で見たエルヴィネーゼはつい息を呑んでしまった。
しかし、この男は――
「フム……、写真と同じ……。間違いないな、コイツだ」
――全く気にしてない様子。
「アンタ……、本当に男?」
つい口に出てしまった呆れた声。しかし、これも仕方がない。
「オレはそのつもりだが……」
「なら何でそんなに淡々としていられるのよ?」
「コイツが拘束対象だからだ……。敵に欲情してどうする?」
さも当然の如く言い放ったクラウド。それを聞いたエルヴィネーゼは呆れ顔。
「アンタスゴいわ……」
「だから何がだ……?」
一瞬、二人の意識が暗殺者から逸れる。
その一瞬をこの暗殺者は見逃さない。
スパッ
「「!?」」
何かが切れた音にクラウドとエルヴィネーゼは振り向いた。そこには、どうやったのか、銀糸を切断して自由の身になった暗殺者が立っていた。
「しまっ……!」
珍しく焦った声を出すクラウド。新しい銀糸で縛ろうとするが、避けられてしまう。
そして暗殺者は建物の屋上に飛び乗り、そのまま屋根伝いに逃走を図る。
「逃がすか!」
直ぐ様クラウドとエルヴィネーゼも追跡する。
幸いなことに、あの金髪は夜闇にもよく映えるので見失うことはなかった。
追跡を続けて数十分、疲れが見え始めた頃、暗殺者が一つの建物に入っていった。クラウドとエルヴィネーゼの二人はその建物の前で立ち止まる。本来は高さ三メートル程の塀とその上にある有刺鉄線が侵入者を防ぐのだが、クラウド逹は屋根の上から飛び降りてきたので意味を為さなかった。
「『第四兵器研究所』……?」
エルヴィネーゼは入り口の横にあったプレートを読む。
「デカいな……」
クラウドはつい呟いたが、それもその筈。この研究所は高さこそ二階程度しかないが、広さはツェツァリ王国の王国軍養成学校並の巨大施設なのだ。
「兎に角入るぞ……」
「う、うん……」
クラウドとエルヴィネーゼは共に、自分の武器を確認してから研究所内に足を踏み入れた。
中は明るく、一本の通路が真っ直ぐ伸びており、等間隔に曲がり角が両脇に存在した。二人は警戒しながら曲がり角の向こうを覗き込むと、入り口から見えた通路と同じ風景が目に飛び込んできた。
これにより、二人はこの階は碁盤目状に通路が敷かれているのだと理解した。
「あの子は何処に行ったのかな?」
尋ねるエルヴィネーゼを無視して目を閉じて耳を床に付けるクラウド。暫くして、ゆっくりと目を開いて呟いた。
「階段だ……、しかもこの音の遠ざかり方は……下だ」
「地下ってこと?」
「嗚呼……」
頷いてから駆け出すクラウド。それに続くエルヴィネーゼ。通路を真っ直ぐ一番奥まで走ってつきあたりを右に曲がる。そして、その先にある角の部屋の扉を開け、ようとして鍵がかかっていたので、エルヴィネーゼが拳銃の引き金を引いた。
ターン!
その音が響いた後、幾つもの部屋の扉が開き、顔を覗かせていた。どうやらこの階は研究者逹の仮眠室、若しくは寝床のようだ。
クラウドとエルヴィネーゼを見た研究者逹は悲鳴をあげながら一目散に逃げ出した。研究所内で拳銃をぶっ放している奴がいるので当然だ。
しかし、二人はそんな様子を気にせずに、一発では破れなかったので四発撃って鍵を壊し、扉を蹴り開けた。
その部屋には地下へと続く階段があるだけだった。階段の先は真っ暗で奥が見えない。
二人は各々己の武器を構えて、慎重に下り始める。
踊り場を三つ通過し、地下に辿り着く。階数で言えば地下三階辺りか。
そこは薄暗い広大なホールだった。しかし、実際にはホールのあちこちに何本もの柱が立っているので、感覚的にはあまり広くは感じない。そしてそのホールの奥の対面の壁には、背の高い自動扉があった。扉が真ん中で割れて左右の壁に収納されるタイプの物だ。
それを視認した二人は顔を見合せ互いに頷く。そして、辺りを警戒しながらその扉に向かう。
しかし、扉まであと半ばという所で――
「敵襲!」
――あの金髪の暗殺者が柱の陰から飛び出してきた。右手には薄暗いのでよく見えないが、刃物があるようだ。
クラウドが正面に周り右手のナイフで応戦しようとする。
ギーンッ
刃と刃がぶつかり合う嫌な音がホールに響く。
金髪の暗殺者は一度離れ距離を取る。しかし何処か焦っているように見え、その動きは先ほどよりスムーズさに欠ける。クラウドは動かず、エルヴィネーゼは暗殺者に向かって拳銃を撃つが避けられる。
その後、暗殺者はヒット&アウェイで様々な角度から攻撃をするが、全てクラウドに防がれる。しかしエルヴィネーゼの弾丸も避けられるので、膠着状態が続いた。そして、何合目かの打ち合いの後、クラウドが徐に声をあげる。
「フム……、嗚呼……、成る程」
うむうむ、と頷くクラウド。それを見た残りの二人は眉を潜める。
「貴様、どうやら余程オレ逹をあの扉に近付けさせたくないようだな……。常にオレ逹と扉の間に体を置いているぞ……」
「!」
声には出さないが僅かに肩をピクリとさせた。そして、クラウドにはそれだけで充分だった。
「エル、行け」
「分かった!」
クラウドの声に直ぐ様走り出すエルヴィネーゼ。その足は一直線に扉に向かっている。
「……!」
それを見た暗殺者はエルヴィネーゼの進路を塞ごうと動き出すが――
「!?」
「おっと……、悪いがさせぬぞ……」
――一瞬で目の前に現れるクラウド。暗殺者が振りかぶった刃物にナイフを当てて無理矢理鍔迫り合いに持ち込む。
その横を駆け抜けるエルヴィネーゼ。その体を掴もうと暗殺者が手を伸ばすが、逆にクラウドに服を引っ張られ失敗に終わる。そして今度はクラウドが暗殺者とエルヴィネーゼの間に体を入れて通せんぼをする。そしてまた斬り合いに発展。
一方、扉の前に到着したエルヴィネーゼ。扉の脇には開閉システムを作動させるパネルがあるのだが、それを拳銃で撃って破壊。電子回路が焼き切れてしまったため、誤作動を起こし開く扉。その先にあったのは、
「なっ、これは……!?」
明るい通路の両脇に設置されている巨大な試験管の中に、何かの液体に包まれ容れられた数多の生物逹。ちゃんと形を保って入っている試験管もあれば、体の一部分しか入ってない試験管もある。
「…………」
その光景を遠目で見たクラウド。暗殺者は苦々しそうな表情で動きを止めた。
「生物兵器だよ……」
初めて声を発する暗殺者。子供特有の高い声だった。
「生物兵器……?」
クラウドの眉が寄る。エルヴィネーゼも一瞬振り向いたが直ぐ様向き直り、その試験管群を見やる。
「そうだ……。そこに“ある”のは全て『生物兵器研究機関』が開発した生物兵器、若しくはその残骸だ……」
エルヴィネーゼはその説明を背中に聞きながら研究施設に足を踏み入れる。
「入り口のプレートにあった研究所の名前はフェイクか……。それにしても、酷い……」
試験管群は両脇に据えられているが、通路の行き止まりに一つだけ、一際大きな試験管があった。
「あれは……」
エルヴィネーゼはそれに向かって走り出す。
「そいつに近付くなっ!!」
突如叫びだした暗殺者が今まで以上のスピードで駆け出す。
しかし、そのスピードにもクラウドは反応する。
ギーンッ
「どけぇっ!!」
「そうはいかん」
そうやって打ち合っている内にエルヴィネーゼはその試験管に辿り着いた。そこに容れられていたのは、
「女の……人……」
女性だった。口の呼吸器以外は何も付けていない裸体が、液体に浮いていた。
「……綺麗な人」
その髪の色は金色で、肌は真っ白だ。瞳の色は目が閉じられているので判別出来ない。
「でも、この顔……何処かで……」
そう、エルヴィネーゼはこの女性の顔を見たことがあるような気がするのだ。
「でもこの人じゃなくて……、似たような雰囲気を……」
「ほォ……、これはまた……」
「くっそ! 放せよ! 見るなっ!!」
その時、クラウドが後ろから近付いてきた。その背後にはまたもや銀糸で縛られた暗殺者が引き摺られている。
その子の顔を見たエルヴィネーゼは、弾かれるように女性の方へ振り向いた。
「似てる……」
「あ、ン……?」
呟いたエルヴィネーゼに反応する二人。一人は片方の眉を上げ、もう一人はその端正な顔を苦々しく歪めた。
「この人、その子に似てる!」
エルヴィネーゼは暗殺者と女性を交互に指差した。
そう、年齢による差があるため、そっくりそのままというわけではないが、女性の顔には暗殺者の面影があった。
「まさか……!」
「…………」
クラウドとエルヴィネーゼは揃って暗殺者を見る。見られた当の本人は重々しく口を割った。
「そうだよ……。そいつは俺の唯一の肉親だよ……!」
暗殺者の一人称は“俺”のようだ。
「俺達二人は小さい頃に両親を亡くし、孤児院に預けられていた……。だけど、その孤児院は経営難になったとかそんな理由で、俺達をここに売ったんだ!」
語られる暗殺者の過去。体の自由が効かない状況と、唯一の肉親のこんな姿を見られたことにより平常心を失ったのかもしれない。
「そんな過去が……」
エルヴィネーゼはその話に同情していたが、クラウドは無表情のまま武器を構えた。
「クラウド……?」
「“『生物兵器研究機関』”に売られた……。つまり、貴様は人体実験の“検体”としてここに来たハズだ。しかし、貴様は施設の外にいた……。これが意味するところは……」
「!!」
クラウドの言葉にハッとして暗殺者に目を向ける。
暗殺者はさっきまで叫んでいたとは思えない程、静かに薄ら笑いを浮かべていた。
「貴様は“成功例”だな……!」
「……ふふっ、よく分かったね」
暗殺者はその推測を認めた。つまり、この子供は生身の“兵器”なのだ。
「どんな人外な力を手に入れたのだ?」
クラウドは構えを一切緩めずに訊いた。生物兵器と分かれば油断は出来ない。何が出てくるか分からないからだ。
「そこまで可笑しな力はないよ。この世界の何処かには、俺と同じ力を、しかもこんな実験を行わずとも手にしている奴はいるハズだよ……」
「何……?」
「……どういうこと?」
暗殺者の言葉を理解出来ない二人。
それもその筈。態々実験までして付属させた兵器級の力を、何もしていない誰かが持っていると言っているのだから。
「し・か・も、その力はさっきからずっと使ってるんだけどなぁ……」
「嘘ッ!?」
更に既に使用してる宣言。
「でも、今までのアンタの動きには特段変わった所はなかった筈よ! 人体に不可能な動きをしてたわけでもなし、毒を撒き散らしてたわけでもなし……」
「だからぁ、この力は別に特別ではないんだってば」
精神的に優位に立っているためか、何処か余裕が見える暗殺者。さっき、クラウドが暗殺者の正体に気付いた時に急に大人しくなったのは、その部分が大きい。
「あの時か……」
「えっ……?」
その子供の様子に何かに気付いたクラウド。
「銀糸から脱け出した時だ。あの時、手足は確り縛ってあったハズ……。だが、この童はその銀糸を“切断”して脱出した……」
「黒いお兄さんは凄いねぇ……。連続正解だよ」
暗殺者はまたもやクラウドの考察を認めた。それを聞いたエルヴィネーゼは暗殺者から一歩離れる。
「ならば、貴様の力は……」
「ご推察通り。俺の力は……『トランス能力』だよっ!」
エ「……展開早いわね」
作「えぇ、まあ……」
エ「ちょっと急ぎすぎじゃない?」
作「自分でもそう思うんだけど……」
エ「けど?」
作「自分の文才の無さに凹みまして……」
ク「バックボーンが確りしてないからな……」
作「失礼なッ!? ありますよ!」
ク・エ「じ~……(疑いの眼差し)」
作「…………」
ク・エ「じ~……」
作「………………」
ク・エ「じ~…………」
作「……………………しっかりありません」
ク「やはりな……」
エ「そんなグダグダに出演させられてるあたし達の身にもなってよね」
作「面目ない……」
エ「んで、今回は何があったの?」
作「そのですね、ある程度のプロットは確かにあったんですよ。これは本当です! その疑わしいものを見る眼差しをヤメテッ!!」
ク「……それで?」
作「えぇ、あったにはあったんですが……。いざ文章化してみると矛盾のオンパレードでして……」
エ「そうよね、最初とかあたしあの暗殺者の娘に誘拐されてるもんね……。意味が分からないわ」
作「ですよね~。それと、暗殺者の“娘”、ね……」
エ「? それがどうしたの? 可愛い顔じゃない」
作「いやまあ、そうなんですけどね……。読者の皆様が暗殺者の顔が可愛いことを覚えてらっしゃるかと思うと……」
エ「ああ、あの口調だとね……」
ク「言葉遣いは完全に餓鬼だしな……」
エ「一人称も“俺”だからね」
作「まあちゃんと理由があるからいいんですけどね。因みにこの口調でも一悶着ありましたけど、それは後日放送ということで」
エ「んじゃそろそろ締めますか」
ク「オレは構わん」
作「それじゃお開きということで。それでは読者の皆様、お読み頂きありがとうございました。次話も楽しみに待っていてください」
エ「てか、もうストックあるし」
作「余計な事は言うなッ!」