第五夜 消えた犯人
『ドルムック王国』
代々ドルムック家が治めてきた古参の王国の一つである。大きさはツェツァリ王国には及ばないが、それでも他国を圧倒するほど。
ツェツァリ王国とドルムック王国は共に古くからある大国同士で、更に隣国ということから昔から協力体制を執ってきた。
その内容は軍隊による相互防衛に始まり、貿易の際に発生する関税の値下げ、新製品の開発方法の公開等、多岐にわたる。
その中の一つに、『どちらかの国内で不利益を生む事件が発生した場合、もう一方の国は極力それの解決に協力する』という項がある。
これは、発生した事件にツェツァリ、若しくはドルムック王国が関与していないことを証明するために存在する条約だ。条約内に“極力”という記述がある理由は、その協力を行う際に、その国があまりにも被害を被ると判断された場合、それを拒否することが出来るようにするためだ。
例えば、『ドルムック王国内で発生した事件を解決するために、ツェツァリ王国の王族の一日スケジュールが必要なので、提供してほしい』という要求があった場合、それを提供するのは明らかにツェツァリ王国に不利があるため、その要求を断る、と言った具合である。
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「分かったか? この無能」
ツェツァリ王国とドルムック王国の関係をエルヴィネーゼに説明し終えたクラウドは、そう締めくくった。
「む、無能は言い過ぎでしょ!? せめて世間知らずって言ってよ!」
「……あまり変わらんと思うのはオレだけか……?」
ここはドルムック王国内にあるツェツァリ大使館の一室。ここにはクラウドとエルヴィネーゼの二人だけが存在する。
あの後クラウドは、ものの数分で準備を終わらせ、第一城壁――ツェツァリ王国の城壁は外側から順に第一城壁、第二城壁、第三城壁、第四城壁と呼ばれている――の城門に用意されていた自動二輪に股がり、一路ドルムック王国まで走り出した。その道中でエンカウントした害獣や盗賊等の類は大抵スルー、無理な時でも直ぐ様蹴散らし、ほぼタイムロスすることなく半日でドルムック王国に到着した。
入国もそれほど時間を要する必要はなく、クラウドは依頼を受けたその日にエルヴィネーゼと合流することに成功したのだ。
「それで、エルはどうして犯人を追跡することが出来たのだ?」
二人が合流して最初に話した話題は先のツェツァリ王国とドルムック王国の関係についてだった。クラウドはまだエルヴィネーゼから詳しい内容を聞いていないのだ。
「ああ、それはね、犯人の特徴を聞いたから」
「聞いた……? 誰に?」
「グラハさん」
「は……?」
エルヴィネーゼの予想外の答えに口をポカンと開けるクラウド。
「実はね、クラウドが講義をしていた間、あたしは学校の探索をしていたの。その時――」
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校舎を宛もなくブラブラしていたとき、エルヴィネーゼの嗅覚が僅かな血の臭いを捉えた。
「ん……!? これは……、こっち!?」
その臭いがする方へ走り出したエルヴィネーゼ。進むにつれて血の臭いが濃くなる。その方向の先には、
「……校長室か!」
校長室は講師室や教室からは離れた場所にあるため、講義中のこの時間帯はこの辺りの人影は少ない。
「校長室の中から臭いが……! 鍵が! グラハさん、グラハさん!?」
扉には鍵がかかっており、ノックをしても一向に返事がない。
意を決して、エルヴィネーゼは扉を蹴破り室内に突入。そこで見たのは、
「グラハさん!?」
仰向けに倒れ、左胸から出血しているグラハだった。
「大丈夫ですか!? グラハさん!?」
慌ててグラハの側に駆け寄り頬を叩くエルヴィネーゼ。
「……うっ……」
「グラハさん!?」
僅かに反応し、薄く目を開くグラハ。それに気付いたエルヴィネーゼはその目を覗き込む。
「……君は……」
「エルヴィネーゼです! 今すぐ救護班を……!」
「ま、待て……」
直ぐ様駆け出そうとするエルヴィネーゼに制止をかけるグラハ。
「でもっ……」
「構わん……。それより……、犯人を……」
「犯人? 誰ですか!?」
最初は渋ったが、犯人の情報が手に入るならそれに越したことはない。エルヴィネーゼは傷口に、着ていたスーツのジャケットをあてがい止血をしながら訊く。エルヴィネーゼも何となく気付いていたのだ。今から救護班を呼んでも、間に合わないだろうことを。
「……顔は見てないが……、子供だ……。黒いローブに、金髪の……十歳ぐらいの……ガハッ!」
「グラハさん!?」
思い切り吐血をしたグラハは、その後二度と呼吸をしなかった。
「グラハさん……」
グラハの死体に冥福を祈り、気持ちを入れ替え情報を纏めるエルヴィネーゼ。
(黒いローブに金髪の子供……? ……! もしかして……!?)
その容姿にぴったり一致する人物をエルヴィネーゼは先ほど見た。
(あの子が……!?)
初めは怪しんだが、その子供しか心当たりがないので、取り敢えず行動をするエルヴィネーゼ。
(まずは講師室に行ってグラハさんの死体の処理をお願いして、今日、黒いローブを着た金髪の子供が他にいないか訊いて、もしその子供が他国の人間だった場合を考えて城門兵にそういう子供が通らなかったかを訊いて……、あ、それとギルドにも伝えてもらわなくちゃ! クラウドは……、後でナーシャさんが伝えてくれるハズ!)
基本方針を決めたエルヴィネーゼは大幅な変更もなしにそのように行動した。
黒いローブを着た金髪の子供はこの学校には居なかった。そもそも黒いローブというのが異質であり、そんなものを着てくる生徒は存在しないそうだ。
次に、城門兵にその黒いローブの子供のことを聞いたら、数刻前に何人かの商人のグループの中に、それらしい子供が居たことが判明した。その商人のグループはドルムック王国から来ていた者逹であり、進んでいった道もドルムック王国方面だったらしいので、エルヴィネーゼもドルムック王国へと向かうことを決めた。
城門兵に事情を説明し、自動二輪を借りて走り出したちょうどその時、ナーシャの部屋にグラハ死亡の情報が入ったのだが、それはエルヴィネーゼの預かり知らぬ所だ。
特に何ともエンカウントせずにドルムック王国に到着したエルヴィネーゼは、ここでも城門兵に事情を説明して、黒いローブの子供が入国したか尋ねたら、黒いローブは着ていなかったが、金髪の子供なら数刻前に入国した商人グループの中に居たことを聞き、自分は間違えていなかったことを確信した。その時、入国の際に撮ったその子供の写真を見せてもらったが、とてつもなく可愛らしい美少女顔だった。
そしてそのままドルムック王国に入国したとき、城門前でツェツァリ大使館の使いの者と出会い――
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「アンタが到着するまでここで待機してたって訳」
「フム……」
その話を聞き、思案するクラウド。
「何悩んでるの? 国王から正式な依頼が来たのはビックリしたけど、別におかしいことではないし……」
そう言うエルヴィネーゼの服装は、ジャケットのないリクルートスーツから、普段の服装に着替えていた。クラウドが出国する際、しっかり準備していたのだ。
「いや、特に気にするな……。今はそう関係ない」
「ふ〜ん……、まぁいいか……」
その物言いに納得してないエルヴィネーゼだったが、今はそれより重要な事柄があるので流す。
「で、どうする、これから?」
「フム……、取り敢えずあの写真の童が何処の誰かを調べなければな……」
「まさか、上層部の返答が『調べてみたが、そんな顔をした女の子供は我が国には存在しない』だなんて……」
そう。クラウド逹は早速大使館を通じて、ドルムック王国の上層部に写真の子の情報提供を求めたが、存在しないという有り得ない答えを貰ったのだ。
確かに城門兵は入国したのを確認しているし、何より写真があると言うのに存在しない……。つまり、その子供は忽然と消えてしまったのだ。
「……他の商人逹は確りと存在するんだったな?」
「ええ……。彼らは確かにドルムック王国の国民だって」
「そいつ等から話を聞くしかないか……」
「そうね……。ただ、今日はもう遅いし明日からにしましょ」
「嗚呼……」
そう言って退出し、自分が宛がわれた部屋に向かうクラウド。
エルヴィネーゼはシャワーを浴びて、直ぐにベッドに横になった。眠れる時に眠る。それは傭兵にとって大事なことなのだ。
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明けて次の日。
クラウドとエルヴィネーゼは提供された情報を頼りに、一日かけて商人逹全員の家に向かい写真の子の事を聞いたが、誰もその子供の詳細までは知らなかった。
そして今はクラウドが宛がわれた部屋に二人はいる。
「完全に手詰まりね……」
「…………」
どうしようかと頭を抱えるエルヴィネーゼと、手を顎に添えて考え事をしているクラウド。
「アンタは何を考えているの?」
エルヴィネーゼはついそう訊いてしまった。何故なら、クラウドからは焦燥感が出ていなかったからだ。
「ン……? 嗚呼……、何か釈然としなくてな……」
考え事をしながらそう答える。
「釈然としないって……、何もかもでしょ!? あの女の子は存在しないって言うし、商人逹も詳細は知らないって言うし……」
「そこだ……」
「えっ……?」
突然の事ですっとんきょうな声をあげるエルヴィネーゼ。
「あの商人逹が童の事を知らぬと言った……。あれは明らかにおかしい……」
「どうして?」
理解出来ないエルヴィネーゼにクラウドは横目で見ながら説明する。
「あいつ等が知らぬということは、あの童は商人ではないということだ……。そして、商人でない童を他国に連れていくというのに、その童の詳細を尋ねないというのはおかしくないか、否、おかしい」
「た、確かに……。でもそれなら、商人逹が嘘をついてるってことも……」
「確かにあり得る……、上層部まで存在を否定しているのだからな……。しかし、それなら城門兵は? そもそもあいつ等が、そんな童はこの国には入国していない、と言えばこんな面倒な事をしなくても済むではないか……」
「そ、それは……」
答えの出ない疑問は、時に凄まじいストレスとなって襲ってくる。エルヴィネーゼも今、それを体感していた。しかし、
「まァ、何となく理由は分かるのだがな……」
この男は、この疑問に彼なりの答えを弾き出していた。
「えっ……、分かるの!?」
当然驚くエルヴィネーゼ。その顔は教えてほしいと叫んでいた。
「確証はないがな……。故にまだ教えられぬ……」
「そんな〜……」
ガックリと肩を落とすエルヴィネーゼ。
「……まァ、今夜か明日辺りがヤマだろうな……」
「……何?」
クラウドは凄く小さな声で独り言を呟いた。それは隣にいるエルヴィネーゼにも聞こえないほどだった。
「エル、少し耳を貸せ……」
そしてクラウドは、二人しかいないのに何故かエルヴィネーゼと内緒話をし出した。
「えっ、何で? だって傭兵の心得では……」
「いいから……。頼むぞ」
その内容を聞いたエルヴィネーゼは困惑の表情をしたが、クラウドがごり押した。
「……しょうがないなぁ」
それをやる意味は理解していないが、渋々承諾する。
「では、頼むぞ……」
それだけ言ってクラウドはエルヴィネーゼを部屋から追い出した。
エルヴィネーゼは首を傾げながらも部屋へと戻っていった。
そしてこの夜、クラウドの想像通り、事態は急加速することとなる……
作「第五夜、読んで頂きありがとうございます!」
エ「今回は更新遅れたね?」
作「ちょっと私用でね……。これからも更新は少し遅くなると思います」
エ「ホントに~。ただでさえ話数も少ないってのに……」
作「スイマセン……」
ク「……ストックは何処まであるんだ?」
エ「わッ! 居たんだ……」
作「存在感薄いなぁ……」
ク「…………」
エ「わー! ゴメンゴメン! ウソウソ!! だからいじけないで~」
作「物静かな性格だと損だな、台詞だけのあとがきは……」
ク「まァ、構わん……。それで、答えは?」
作「ああ、ストック数だっけ? 一応第七夜まで出来てるよ。今は第八夜を執筆中」
エ「すぐ底を尽きそうね……」
作「……頑張ります」
エ「ホントにね! では、今回のあとがきはここまでということで。内容なくてスイマセン……」
作「平にご容赦を~」
ク「……あとがきに内容がいるか……?」