第三十六夜 四回戦、開始
風邪が長引いてます、シンカーです。
やっとこさ四回戦が始まります。
なんかもう、グダグダになってきたような気もしますが、気のせいだと認識して頑張っていきたいと思います。
それでは、第三十六夜です。
どうぞ。
~四回戦の組み合わせ~
〈第一試合〉
No.15
『至高の剣装』
カルロス・シェイパー
VS
No.17
『吸血姫』
エルヴィネーゼ・マクスウェル
〈第二試合〉
No.12
『雷電』
アクセル・プライム
VS
No.77
『暗殺者』
クラウド・エイト
〈第三試合〉
No.18
『重量戦車』
リゼルグ・バージェスト
VS
No.19
『二重身体』
メアリー・アストレス
〈第四試合〉
No.21
ローラ・アルザス
VS
No.11
『無限の檻』
セシル・フローラム
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「こうやって見てみると、No.21の人が一番弱そうに見えるのに、ランクから言えばクラウド先生が圧倒的に低いんだよなぁ……」
四回戦進出者が映されている画面を見ながら、カイルは誰に言うともなしに呟いた。
「確かに……。実況の人が言ってたけど、先生は本当に異端児なんだね」
隣にいたフィオナも、同じく見ながら同意する。
二人は今、クラウド達とは別行動していた。
四回戦が始まる前のお昼休みに、エルヴィネーゼからお昼のお誘いがあったが、断ったのだ。その時は理由を明確に言わなかったが、二人とも四回戦の重要さを識っていたので、部外者は立ち去ろうと思っていたのだ。
そのため、集合時間を決めてこうして二人でいるというわけだ。
「んで、第一試合の勝者が明日の初戦でNo.3と……」
「第三試合の勝者がNo.5と、そして第四試合の勝者がNo.4のシャイナさんと闘うわけか……」
二人は既に昼食を終え、集合時間には少しばかり早いが、もう戻ってきていた。当然クラウド達はまだ帰ってきておらず、待ちぼうけを喰っている。
「まあ、セシルさんの四回戦突破はある程度間違いないと見て……」
「気になるのは、第一試合と第三試合ね。どっちもそこまでランクに差はないから、勝敗がよく分かんないわ」
「エルヴィネーゼさんには是非とも勝ってほしいけど、シャイナさんの話だと、ランクの一つの違いが、実力では物凄い差らしいし」
「二つ名にも当てはまるのかしら、その法則?」
「二つ名にこそ、当てはまりそうだけど……」
カイルは腕を組んでうーん、と唸る。
「正直、さっぱりだ」
「ふふ、確かにね」
軽く微笑んでから、フィオナは何となく周囲を見渡した。集合時間にはまだあるので、クラウド達の姿形は見当たらない。
それに気付いたカイルが、フィオナに尋ねる。
「どうした?」
「ん? んーん、別に」
フィオナは首を振って、視線をカイルに戻した。
「それにしても、あ〜あ……」
突然、カイルが嘆きだしたので、フィオナは目を見開いた。
「どうしたの、急に?」
「……この溜め息には二つの意味が含まれてる。どっちから聴く?」
頭は項垂れたまま、視線だけフィオナに向ける。
「何と何があるの?」
「僕のことと、先生のこと」
「んじゃあ、先生のことから」
即決だった。悩むそぶりすらなかった。
ちょっと悲しそうな目をしながら、カイルは頭を上げた。
「いやな、先生は勿体ないなって……」
「勿体ない?」
「ああ。先生は、シャイナさんの言ってた理屈が通じないわけじゃん?」
訊かれたフィオナは首を縦に振る。
「そうだね。シャイナさんも、先生は例外だ、みたいなこと言ってたし……」
「だろ? だからNo.12にも勝てるんじゃないかって期待してたんだよ」
そこまで聞いて、フィオナはピーンときた。
「なるほど。先生が棄権しちゃうのが嫌なんだ」
フィオナの閃きに、カイルは少し悩む。
「んー、嫌と言うよりは……ムカつく、かな」
その答えに、フィオナは目を僅かにピクリとさせた。それに気付かず、カイルは人差し指を立てて続ける。
「折角持っている実力を存分に発揮しないってのは、弱い者から見たら何やってんだ、って言いたくなるんだ」
「………………」
フィオナは黙ったまま、カイルの話に耳を傾ける。
「己の実力を見せないで、適当にやってる感じ……。勿論、先生が適当にやっているとは思わないさ。だけど、やっぱり、なんかイラつくんだよね……」
カイルは自分の左掌を見つめる。
「僕は、体格に恵まれている。自分でも、そこが自慢だ。だから、周囲も凄く期待してくれてた。養成学校を首席で卒業して、ゆくゆくは近衛兵になれたらって、夢を見ていた。でも──」
掌を力強く握り締める。
「現実はそう甘くはなかった。首席どころか、クラス内ですら一番を取れない」
それを聞いて、少し怯んだ様子のフィオナ。それには、カイルも気付いた。
「あ、気にしないでくれ。フィーが、物凄く努力しているのは知ってるから」
「う、うん……」
おずおずとだが、フィオナは頷いた。
「そこで、自覚したんだ。僕は弱いって……」
「そんなこと……!」
フィオナは反論しようとしたが、言葉が出てこなかった。何故なら、自分もカイルにとっては“実力のある者”だから。
「……ありがとう、フィー」
「あ……」
カイルは、フィオナのその心遣いに感謝した。
「大丈夫だよ。僕は、僕の夢を諦めてはいないから。いつか、必ずフィーを抜いてやる」
その言葉は、真っ直ぐだった。そこに弱気な部分は一切含まれていなかった。
「……やってみなさいよ、絶対に抜かれないんだから」
対するフィオナも、不敵に笑って応えた。
「あ、それじゃあムカつくって言うのは……」
「うん。先生は僕にとっては雲の上みたいな人なんだ。その絶対的強者が、絶対的強者たらしめている実力を隠してると、なんだか弱い僕がバカにされてる気分になるんだ」
「……私も、カイルの言いたいこと、分かる」
今度は、フィオナが拳を握り締める。
「先生が授業をしてくれた時、初め、軽く流すつもりだったらしいの……。でも、ギルドから急報が来て、だから少々本気を出したんだって……。その少々で、あたしは手も足も出なかった。……物凄く、悔しかった……!」
フィオナはぶるぶると拳を振るわせ、表情を険しくしていた。カイルは、そんなフィオナを見ていた。
「ま、つまり、そういうこと。これが、一つ目の溜め息の理由」
「ふぅー……。じゃあ、もう一つのカイルの理由って?」
息を吐いてなんとか気を落ち着かせたフィオナ。カイルはそれに気付かないふりをして、椅子と椅子の間に立て掛けてある細長い袋を叩いた。
「先生に相手してもらう暇なんてないなぁって……」
「……なんて軽い溜め息」
思わず言ってしまったフィオナだが、彼女に悪気はない。だが、そんなこと知る由もないカイルは、当然噛みつく。
「軽いとは何だ、軽いとは!? めっちゃ重要だぞ、これ! そのためだけにわざわざ持ってきたんだからな!」
思わぬ勢いに、つい引いてしまったフィオナ。
「そ、そんなに怒らないでよ……」
カイルも、ハッと我に返った。
「ご、ごめん……、なんか、つい……」
急に黙ってしまった二人。どちらも、空気が重いと感じつつも何も言えなかった。
何か言おうにも、何を言えば良いのか。先程感情的になってしまったがために、なかなか次の言葉が見つからない。
重苦しいその雰囲気の中、二人が待ち望んでいた一団が帰ってきた。
「ゴメーン! 待たせちゃった?」
「「ッ!!」」
慌てて二人が振り向いてみれば、そこにはエルヴィネーゼを先頭に、クラウド、リン、シャイナが近付いてきていた。
「先生ッ!」
「エルヴィネーゼさんッ!」
二人の思わぬ大声に、きょとんとするエルヴィネーゼ達。
「どしたの?」
「あっ、い、いえ……、なんでも、ないです、ね?」
「うぇ!? あ、は、はい! なんでもないです!」
挙動不審な二人に、頭を傾げるエルヴィネーゼ達。
「そ、それより! エルヴィネーゼさんはそろそろ試合ですよね?」
それに気付いたカイルが強引に話題を変えてきた。エルヴィネーゼは疑問に思いつつも、それに答えた。
「ん? うん、まあね……」
「絶対に勝ってください! 応援してますから!」
カイルの声援に、疑問をキッパリ頭から捨て去って、エルヴィネーゼは力強く笑った。
「勿論! 敗けるつもりなんて毛頭ないわ!」
「頑張って下さいッ!」
「ええ!」
フィオナの激励にも確りと頷く。
「エルちゃん、そろそろよ」
そこへ、シャイナが後ろから話しかけた。
「分かりました」
エルヴィネーゼは一つ頷いて、皆を見渡した。
「あれ? ソラリスは?」
「そう言えば、まだ来てませんね、あの子」
フィオナも辺りを見回すが、見当たらない。
「大方、まだ昼食じゃないか?」
カイルの推測に、エルヴィネーゼは「そうかもね」と納得する。
「んじゃ、改めて。──」
順に、皆の顔を見ていく。そして、全員見渡してから、言い放った。
「いってきます」
***********
《サァ、四回戦の始まりだぜェエエエ! ついにここまで来たッ! ここからは全ての試合がメインイベントッ! テメェラには息つく暇すら与えないぜ!!》
ワァアアアアアア!!
観客のボルテージは、初めから最高潮。皆、これからの試合に期待しているのだろう。
《そんじゃあ第一試合ッ! 東側、クードルト大陸からの出場ッ! No.15『至高の剣装』カルロス・シェイパーァアアアアア!!》
呼ばれたカルロスは、悠然とフィールド脇まで歩いてきた。その背中には、三回戦で使用したあの長剣、〈鎧断つ無情の剣〉を背負っていた。
《続いて西側ッ。ローレンシア大陸からの出場ッ! No.17『吸血姫』エルヴィネーゼ・マクスウェルゥウウウウウ!!》
対するエルヴィネーゼも、同じく落ち着いた感じで出てきた。その手首には、確りと〈血風舞う蹂躙の爪〉が装着されている。
両者はフィールド中央まで歩いてきて、がっちりと握手した。
「よろしく」
「こちらこそ」
カルロスはエルヴィネーゼの〈血風舞う蹂躙の爪〉を興味深そうに見つめる。
「面白い武器ですね。当然、固有兵装なんですよね?」
「当たり前じゃない。こんな突飛な代物、ベリアルのお爺さんしか創ってくれないって」
爪を掌側に回転させて、カルロスに見せる。
「そうかもしれませんね。だとしたら……」
「だとしたら?」
「俺の〈鎧断つ無情の剣〉でも簡単には真っ二つには出来ない、か……」
カルロスは右肩の後ろから出ている柄をさすりながら呟いた。
「アンタなんかと斬り合いなんかしたくはないんだけどねぇ……。残念ながら、あたしは接近戦の方が得意なのよ」
エルヴィネーゼは自分のポシェットを軽く叩いた。
「『吸血』ですか?」
「ええ。流石にこれ使わないと、あっさり敗けちゃうからね」
ニシシ……と恥ずかしそうに笑うエルヴィネーゼ。
「でも……」
「ん?」
そこで割り込んできたカルロス。
「例え『吸血』を使ったとしても、試合時間が延びるだけですよ」
「……言うじゃない」
共に、ニヤッと不敵な笑みを浮かべる。不穏な気配が二人の周囲に漂い出した。
「悪いけど、下剋上させてもらうわ!」
「返り討ちにしてあげますよ」
二人は、最後の決め台詞を言ってから互いに後ろに振り返る。そして、フィールドラインまで下がった。
ビーッ!
最初のブザーが鳴り、エルヴィネーゼとカルロスはフィールド内を駆け始めた。
共に隠れ場所を見つけて、そこに潜む。
そして、三十秒後……。
ビビーッ!
二度目のブザーが鳴った。
四回戦第一試合が、始まった。