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傭兵稼業の裏事情  作者: シンカー
第一章
3/46

第三夜 学校の先生―武術理論・応用編―

今回のあとがきではゲストを迎える予定です。

楽しみにしていて下さい。

「面倒だ……」

 クラウドはそう呟きながら、相手の剣による上段からの一撃をナイフでいなし、勢い余ってつんのめった相手の首筋に刃を当てる。

「取った……」

「くッ……、参り……ました」

 これでやっと半分、まだ半分、全生徒の半分である。

「次、トール・フー、いきますっ!」

 一息入れる間もなく次の相手。クラウドは溜め息を一つつき、ナイフを逆手に構えた。

 何をやっているのか。これは少し遡らなければならない。

 それは、エルヴィネーゼの講義が――授業と言っても差し支えないが――終わった次の時限。クラウドが受け持つクラスに入る直前までである。



***********



「いや〜、可愛かったなぁ」

 満ち足りた表情で歩くエルヴィネーゼ。それはもうほぼスキップと言ってもいいぐらいの軽さだ。

 その横で黙々と歩くクラウド。彼はエルヴィネーゼの様子を確認して、一度立ち止まり、

「……エル、一つだけ言っておく」

 エルヴィネーゼに話しかけた。

「ん、何?」

「次のクラスに入るまでに、その陽気な雰囲気を消し去れ」

「えっ、どして?」

「どうしてもだ。その雰囲気のままでは、落差に混乱するぞ」

 それだけ言い放ち、後はただ黙々と歩き出す。

 エルヴィネーゼは首を傾げたが、水をさされたためか、先ほどよりは随分低いテンションとなった。


 ガラッ

 『七―三』の引き戸を無言で開け、無言で教壇に着くクラウド。

 生徒逹は今まで雑談に興じていたが突然シー…ンと静まり返った。

 後から入ったエルヴィネーゼはこの雰囲気に挨拶も言えなくなった。

「……クラウド・エイトだ。今日の講義を担当する……」

「せんせぇー……」

 クラウドの台詞を遮り、一人の男子生徒が声をあげる。

「せんせぇって、“傭兵”なんですよね? しかも俺達とあまり年も変わらないらしいじゃないですか」

 そのバカにした言い方にムッとするエルヴィネーゼ。

「そうだな、オレは十八、貴様らは十六……。二つしか違わぬなァ……。で、それがどうかしたのか?」

 クラウドは意に介さず返答する。流石はグラハの嫌味を流す男。

「いえ、そんな年が近いあなたが俺達に何を教えられるのかと……」

 その言葉に他の生徒逹もクスクス笑い始める。

 それには流石にエルヴィネーゼも耐えられなくなり、注意をしようとして――

「エル、講師室で闘技場が空いているか訊いてきてくれ」

 クラウドに頼まれ事をされた。

「えっ……?」

 唐突に言われた言葉にうまく反応出来ないエルヴィネーゼ。

「早く……」

「わ、分かった……。ちょっと待ってて……」

 エルヴィネーゼは引き戸を開け、講師室に早歩きで向かった。

 それを見届けたクラウドは生徒逹に向き直り、

「フム、確かに……」

 男子生徒の質問に答え始めた。

「オレはあまり教養がないのでな……言葉にして伝えるのは出来ぬだろう……」

 それを聞いた生徒逹は更にクスクス度合いを増す。

「だが……」

 その言葉は決して強く言ったわけでも、況してや大声で叫んだわけでもない。しかし、その声を聞いた生徒逹から――嘲笑が止まった。

「今回の講義は『武術応用』だ。これは頭で覚えるより、体に叩き込んだ方が早いものだ……」

 ニヤリ……

 クラウドが挑発するような笑みを浮かべた瞬間、

 ゾクリッ……

 生徒逹は背筋に冷たいものが走ったような気がした。



 闘技場が空いているということで、クラウドとエルヴィネーゼと七―三の一同はぞろぞろと移動する。

「ねぇ、クラウド」

「何だ……?」

 エルヴィネーゼが小さい声でクラウドに訊く。

「どうしてみんな、こんなに態度が悪いの?」

「……お前、罰の意味が分かってなかったのか?」

 クラウドも小声で返す。

「えっ……?」

「ハァ……、そもそもここは何処だ?」

「何処って……、王国軍養成学校でしょ?」

「そうだ。そして、あの校長の態度を思い出せ……、然らば分かるハズだが……?」

 少しの間黙考し、はたと気付くエルヴィネーゼ。

「まさか……、そういう教育が為されてる……ってこと?」

「嗚呼……、そうだ。お前が担当した第二学年にはまだ教育が為されてなかったようだがな……。そして、この状況下で二つ名に相応しい態度を取り続ける……。それが今回の罰だろうな」

 それを聞き、エルヴィネーゼの表情は、

「じゃ、じゃあ今日のあの子達も……、いつかはあたし逹を邪険に扱うことになる……って、こと?」

 怒っているのか、困っているのか、泣きそうになっているのか、はたまたそれら全部か……、兎に角色々なものがごちゃ混ぜになっていた。

「……かもな。嗚呼……、過ごしづらい世の中になるなァ……」

 同意の後の呟きは、クラウドの履く下駄の音によって掻き消された。



 闘技場は普通の学校では運動場と呼ばれているのと大差なかった。ただし、校舎の目の前に有るわけではなく、少し離れた場所にある。

 闘技場に着いたクラウドは振り返り、こう言い放った。

「では、一人ずつかかってこい。一人でもオレに一太刀浴びせられれば、今日の講義は終了とし、その後は自由時間とする」

 その発言に七―三の一同は色めき立った。その雰囲気は、余裕余裕と言っているようだった。しかし、

「嗚呼……それと、使用する武具は真剣、真槍、鏃付きの弓矢、……、何でも構わん。勿論、魔術も使用可だ。ただし……――」

 クラウドの次の台詞にまたもや黙ることとなる。

「――殺す気で来い。もし、いい加減にやった場合……、講義後、五体満足でいられると思うな……」


 最初の一人がクラウドの前に立つ。それは長身の男子だった。百九十近くある。彼の手に握られているのは、突くより斬ることに特化された長槍の一種、パルチザン。長さは約二メートル。それを両手で持ち、刃を下向きにして構えていた。

 そもそも彼が一番槍に選ばれたのはクラウドの体躯と武器を見たからだ。クラウドは小さいというわけではないが、一般男子の平均身長並しかない。更に使用する武器はリーチが短いナイフときた。長身で尚且つリーチの長い槍を扱う彼は、武術理論から見れば勝利条件の塊である。

「フム……、先ずは貴様か……」

 クラウドが対面する男子を品定めするかのように上から下まで見た。

「僕の身体がそんなに気になりますか? スイマセンねぇ~、発育が良くって……」

 構えは崩さず、クラウドを挑発する。彼は既に勝った気になっていた。それはそうだ。前述した通り、彼は武術理論においてはクラウドに勝つ要素を満遍なく揃えているのだから。

 しかし、その思い上がりをクラウドは軽く断ち切る。

「いや……、貴様よりデカイヤツはごまんといる……。そして――」

「……!?」

 そこまで言ったクラウドの姿が長身の男子の視界から消える。

「――貴様より遅いヤツは、……そうはいないだろう」

 長身の彼の真後ろから聞こえる声。彼の首には刃が当てられている。

「…………!?」

「一人目、終了……」

 しかし、刃を外さないクラウド。彼はその体制のまま、背後にいる他の生徒に話し出した。

「貴様等……、何故コイツを一番手に起用した……?」

 その質問に困惑した生徒の中から、一人の男子生徒が答えた。初めにクラスでクラウドをバカにした生徒だった。

「それは……武術理論に則って……」

 その答えを聞いたクラウドはやはりな……、と口の中だけで発した。

「その貴様らが絶対的に信用している武術理論とやらには……、致命的な欠点がある」

「「「!?」」」

 生徒全員が目を剥く。それはそうだ。長年自分達が教わってきた理論に欠点があると言われたのだから。

「テメェ、デタラメ言ってんじゃねぇゾ!!」

 それを皮切りに様々な罵詈雑言がクラウドに飛ぶ。

「……では、何故コイツはオレに負けた?」

「そ、それは……」

 一斉に口ごもる。反論材料がないのだ。長身の彼の実力のせいにすることも出来るが、それをすると、では何故そんな死兵を出すような起用をしたのかと問われ、またもや口ごもる結果となってしまう。

「コイツは負けた……。それが、武術理論に欠点がある確たる証拠だ」

 その発言に奥歯を噛み締める生徒一同。

「じゃ、じゃあ何処に欠点があるって言うんだよ!?」

 そしてついに発せられる敗北の一言。これは欠点があるということを半分認めてしまった、ということだ。

「フム……、まあそこまで酷いものではないのだが……」

 そう前置きして語り始めるクラウド。未だにナイフは長身の男子生徒の首に当てられている。

「貴様らが習っている武術理論とやらには語られていない分野がある。それは、確かに集団戦闘においてはあまり重要視されるものではないやもしれん……。だが、事個人戦闘においては絶対的なファクター……。つまり、スピードだ。」

 クラウドは長身の男子生徒を見ながら、

「確かにコイツは武人として恵まれた身体を持っている……。しかし、スピードは凡人のそれだ……。

 個人戦闘は圧倒的な力が無ければ、スピードが物を言う世界だ。今のように小兵が小回りを効かし、敵兵を沈める事も少なくない」

 困惑の表情を浮かべる生徒一同。今まで習ってこなかった事なので混乱するのは当たり前である。なのでクラウドは分かりやすい例を一つ挙げる。

「……近衛軍は、少数精鋭軍団なんだがなァ……」

「「「!!」」」

「フム……、普段ならこんな愚策を弄した貴様らに見せしめとして手足の一つでも切り落とす所――」

 その発言にビクッとなる長身の男子生徒。

「――だが、まァ今回は知らなかった、ということで特別に五体満足で返してやろう」

 そう言ってナイフを外すクラウド。長身の男子生徒は弾かれたようにクラウドから距離を置く。

「だ、だが……!」

 最初にバカにした男子生徒が反論を始める。

「お前は合図も無しにいきなり斬りかかってきたじゃないか! そんな奇襲は卑怯だぞ!!」

 その発言に目が座るクラウド。彼にしては珍しく、苛ついていた。

「卑怯……? それは何処の国の言葉だ?」

「な、何っ!?」

「貴様らは何になりたいんだ…? 武道の達人か? なら済まなかった、詫びよう。先ほどの事は無しにして、今度はエルに始まりスタート終わりゴールの合図を送らせ、ルールがある試合ゲームを始めよう……。

 だが、違うだろう……。貴様らはそんなものになりたいわけではないハズだ。貴様らは泥臭くとも、見苦しくとも、故国のためにその身を削り、勝利を手中に収めるための武術の隷属……否、国王の下僕になりたいのではないのか?」

 それを受けた生徒逹の反応は二通り。一つは下僕という言い方にカチンときた者逹、もう一方は言葉の真意に気付きハッとする者逹。

「戦場では卑怯という言葉は通用しない……。勝った者が正義なのだ、過程など重要ではない。寧ろ奇襲程度、戦闘においては基本中の基本だ。それを卑怯等と罵るヤツは、今すぐこの学校を辞めて他の仕事を探すんだな……。正直言って向いていない」

 完全に沈黙する生徒逹。そんな中、長身の男子生徒がクラウドに謝った。

「スミマセンでした、クラウド先生! 自分の勉強不足でした!!」

「あ、ン……?」

 突然の事で少し驚くクラウド。これもある意味奇襲である。

「自分、傲っていました。でも、先生の言葉に気付かされました」

「……そうか」

「本当にスミマセンでした!!」

 そう言って踵を返す長身の彼。しかし、途中で止まり振り返り、

「あと、自分の名前はカイル・マグナスです」

「堅苦しいヤツだな……。そして何処へ行く?」

 長身の彼――カイルは生徒逹がいる方向とは逆に歩み出していた。

「いえ、己を高めるために鍛練をしに……」

「……それが、傲りだ」

「えっ……!?」

 驚き立ち止まるカイル。

「鍛練すること事態は良いが、時と場所を考えろ……。今貴様はオレに負けた、しかし死んではいない。リベンジの機会がある、と同義だ。そして、オレは此処で戦闘を続ける……」

 それだけ言って背を向けるクラウド。それを見たカイルは何も言わず一礼だけして生徒逹の所へ帰った。しっかり理解したのだ、今カイルがすべきことは鍛練ではなく観察だということに。

「ン……? エルは何処に……? まァ、良いか」

 クラウドは疑問を直ぐに頭の片隅に追いやり、対面に立った次の生徒の相手をする。そして、冒頭へと繋がっていく……。



***********



「まったく、クラウドの奴……。何だかんだ言いながら結局先生を楽しんでるじゃない」

 エルヴィネーゼは校舎の中を歩いていた。クラウドの講義(イジメ?)は見ていても結果が手に取るように分かるので、それならと校舎見学に乗り出したのだ。

「しっかし広いなぁ……。流石王国軍養成学校……あれ?」

 窓から外を見てみると一人の子供が走っていた。

 上の階から見ているので顔は分からないが、黒いローブにフードを目深まで被っていた。それが風によって少しズレ、そこから見えた髪は、

(うわ……、綺麗……)

 陽の光によく映える金髪だった。

(でもなんであんな所に? 今って授業中だよね……?)

 そう。金髪の子供が走っていたのは校舎裏なのだ。

(ん〜……、やっぱり遊びたい盛りだから授業抜け出しちゃったのかな……? フード被って顔もバレないようにしてたし……)

 その結論に納得したエルヴィネーゼは見えなくなった子供から意識を外し、校舎見学を再開したのだった……。






作者(以下作)「はじめまして、作者のシンカーです!」

エルヴィネーゼ(以下エ)「同じくはじめまして、エルヴィネーゼです」

クラウド(以下ク)「…………」

エ「コラッ、挨拶しなさい!」

ク「……クラウドだ」

エ「まったくぅ……」

作「まあまあエル、落ち着きなさい。大丈夫、クールを決め込んでるクラウドだけど、今回の話では大分熱く語っているからw」

エ「あ、それもそうねww」

ク「…………。まあ、貴様のシナリオにとやかく言うつもりはないが……」

作「作者に向かって貴様って……」

ク「こんな序盤でオレの性格を変えるのは些か拙いのでは……?」

エ「あぁ、それはあたしも思った。変えるにしても性格が定着した中盤辺りからの方が良かったんじゃないの?」

作「それは自分でも思った。ちょっと早いかなって。でもまあ、これにはちゃんと理由があるし……」

エ「本当に?」

作「…………。勿論だとも」

ク「何だ、今の間は……?」

作「うぐっ……」

エ・ク「…………(疑いの眼差し)」

作「だ、大丈夫! 僕に付いて来れば……」

エ「そんな風に語尾を窄められて言われても……」

作「うぅ……」

ク「……まァ、まだ序盤だからな。付いていくしか出来ぬ訳だが……」

エ「仕方ないなぁ……。ほら作者、しっかりやりなさいよね!」

作「お、お前ら……。分かった! 僕はしっかりやる!」

エ「うん」

ク「では、上手く纏まった所で……」

作「うん?」

ク「制裁を与える……」

作「えっ!? なんで!?」

ク「本編のオレの性格が気に入らなかったからだ」

作「さっき口出ししないって……」

ク「嗚呼……、勿論。口は出さない。だが、手は出す……」

作「そっちの方が尚悪いわぁぁぁぁぁ! あっ、待っ、それは出しちゃダメ! 本編でまだギャアァァァァァ……!」

エ「あ、あはは……。あ、これ以上はちょっと放送禁止事項に当てはまりますので今回はこの辺で……。このようなあとがきはこれからも続く予定(文句が来なければ)ですので、本編と共に次回も楽しみに待っていてください(ニコッ)」

作「エ、エル、助け……!」

ク「まだ生きていたか……(パチンッ)」

作「だからそれを使うなとウギャアァァァァァ……!」

エ「……ハァ」


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