第二十五夜 一回戦終了
はい。二週間ぶりの投稿となっております。
お待たせしました、第二十五夜です。
それでですね。非常に言いにくいのですが、あとがきのことなんですが……。
暫くおやすみさせて頂きます。私事で申し訳ないのですが、時間があまり取れず、あとがきを考える余裕がないのが今の現状でして……。
そのため、無期限休養ということにさせて頂きます。
申し訳ありません。再会の目処は今のところたっておりませんが、どうかご容赦下さい。
あと、こんな場面で言うのも可笑しな話ですが、出来れば感想などを頂けると非常に嬉しい限りです。感想だけでなく、注意点やここをこうした方がいいんじゃないかといった意見でも結構です。やはり、自分一人でやっているとどうしても限界がありますので……。
どうかお願い致します。
それでは、長々と失礼しました。第二十五夜です。
どうぞ。
今回のギルド大会は、三日掛けて行われる。
初日の今日は一回戦と二回戦。二日目は三回戦と四回戦。
三日目は少し変則的で、まず残った四人の内三人が一桁ランカーと戦い、その勝者と残りの一人が準決勝へと駒を進め、決勝となる。
勿論この日程は不公平ではあるが、それに対して文句を言うような人物は大会参加者の中にはいなかった。
ただ単に、運が良かったか悪かったかのどちらかでしかない、という程度の分別もつけられない者はそもそも二桁になどなれないのだ。
クラウドとエルヴィネーゼは既に一回戦を終え、二回戦までの時間をどう過ごすかで協議していた。試合を観戦する、という意見はこの二人には全くないらしく一方は街に出て買い物を、もう一方はホテルに戻り睡眠を要求していた。どちらがどちらかは、推して知るべしだろう。
二人で別行動をすれば良いという提案もあったが、クラウドは一度寝ると余程の事がない限り、自分が満足するまで寝てしまうという悪癖がある。別行動をした場合、試合時間を見て誰かがクラウドを起こしにいかなくてはならなくなり、それは面倒だと別行動の案は切り捨てられた。
「先生は何で試合を見ないんですか?」
今までのやりとりを端から聴いていたカイルは、何時までも平行線を辿る主張の押し付け合いを少し止めるために質問を発した。
「ァ? 自分が戦う必要のない奴の試合を見てどうする?」
「いや、勝ち上がっていったらどこかで当たるかもしれませんよ」
カイルの言葉に、クラウドはククッ……と喉の奥で笑った。
「……俺、可笑しな事言いました?」
当然、状況が分からないカイルは首を捻る。
「否、生憎とオレは三回戦で敗ける予定なのでな。今戦っている奴らと当たることはないんだよ」
発せられた敗北宣言に、目を丸くするのはカイルだけではなく、フィオナとソラリスもだった。
「敗ける予定って……勝てない相手なんですか?」
フィオナはトーナメント表を見て確認する。クラウドが三回戦で当たるのは、順当に行けば──
「な、No.13『拍手』ムーバル・ヴァンガード……!!」
先程、圧倒的強さで相手を一蹴した二つ名であった。
「そうだ。恐らくオレはそいつに敗けるだろうな……」
「そんなあっさり……」
カイルはクラウドのその淡々とした様子に呆れを通り越して脱力しかかっていた。
「あっさりも何も、相手は二つ名だぞ?」
「いやいや、先生も二つ名ですからね!?」
何言ってるんですか、と呟くカイル。その目は他に何か言いたげであったが、どう言葉にして良いか分からないと困惑の色が浮かんでいた。
「その……先生は……えっと……」
「先生は『拍手』に勝てないんですか?」
言葉を探していたカイルの隣から、どストレートな質問を投げたのは、やはりと言うべきかフィオナであった。
「先生は、『拍手』の幻術を見抜いていると言っていましたよね? だったら、そんなキッパリと敗けるなんて口にする必要、ないんじゃないですか?」
真っ直ぐな視線でクラウドを見る──と言うより睨むフィオナ。クラウドは、それを涼しい表情で受け止める。
「誰も勝てぬとは言っていない……」
「え……?」
「だから、敗ける予定なんだよ、先程言った通りにな……」
「予定……? それってもしかして再会した時に言ってた本気を出さないっていう──」
「嗚呼、そうだ。ただのつまらん拘りだ。本当につまらない……やっている意味すら見失いそうになるほどの……な」
自嘲するように歪められた唇は、淡々と言の葉を紡いでいくが、その瞳には言い知れぬ光が宿っていた。
光と呼ぶには、少々澱んではいたが……。
閉口してしまったクラウドの後ろ姿は何も訊くなと語っており、それ以上質問を進める勇気のある人物はいなかった。
結局、クラウドとエルヴィネーゼがこのあとどうするかという話し合いもうやむやになってしまい、今は惰性的な流れで試合を眺めている。
《サァ、先の『暗殺者』戦でランクが下位の奴らにも色々期待はしていたんだが、やはりと言うべきか、そう簡単にサプライズは起こってくれはしないようだ! 今の試合も順当にランクが上の奴が勝っちまったしな!!》
実況の放送通り、クラウド以外の選手は順当に、順当すぎるくらいにランク上位が勝ち下位が負けていた。
「ランクが一つ違い程度ならどうにかなりそうなんだけどな……さっきの試合みたいに」
カイルが言っているのは、No.45とNo.46の試合の事である。一つ違いであるが故に、良い勝負になるかと思いきや、一方的な展開でNo.45が勝利を収めていた。
「いやいや、一つ違いっていうのはだいぶ大きい差だよ」
シャイナは手を横に振りながらカイルの呟きに答える。
「そうですかね……?」
「確かに、数字だけを見るとさっきの45と46は一つ違いだ。でもね、彼らは何万人の中の二桁なんだよ」
「──ッ!」
「こういう強さや実力っていうものはね、上に行けば行く程差が開くものなの。たった一つ上の段にいくだけでも、計り知れない程の汗と、涙と、血が、流されているの」
シャイナの熱弁は、いつの間にか周囲にも届いており、一種の演説のようになっていた。皆は一様に耳を傾け、シャイナの言葉の一つ一つを拝聴していた。だが、その中で一人だけ全くの無関心を貫いている人物がいた。
「まあ、そこでぽけーっとしている奴には分かんない話かもしれないけど……」
そう言ってシャイナは無関心の人物──クラウドを横目で見た。クラウドはシャイナの視線に気付きながらも無視を決め込んでおり、一切こちらを向こうとはしない。
「分かんないって……それって?」
「ん? ああ、ま、天才は存在するってことよ」
それを演説の締めにしたようで、シャイナはパンッと手を叩いて「さあ、お話しは終了!」と声高々に宣言した。
カイルやフィオナ、その他の生徒達もどこか釈然としない面持ちで試合に視線を移した。
「なんか、今回は色々曖昧な事ばっかだな……」
カイルは隣のフィオナに囁き、同意を求める。フィオナはチラとカイルを見て直ぐに視線を正面のフィールドに戻した。
「しょうがないわよ……人間、隠し事の一つや二つ、あるに決まってるわ。それに一々つっこんでいたらキリがないわ」
「そういうもんか……」
渋々ながら納得し、引き下がったカイル。その顔は既に今の事を引き摺っている様子はなく、目の前の試合に集中していた。
(口ではああ言ったけど……)
それを確認したフィオナは僅かに微笑んだ後、チラとクラウドを視界に収める。
(ハァ……あたしだって気になるわよ)
そう思いながらクラウドを見ていたら、当の本人に気付かれてしまった。
「あ、ン……? 何か用か?」
「へっ……? い、いえ、何でもありません!」
「……そうか?」
「は、はいッ」
「……なら良いが」
視線を戻すクラウド。フゥと小さく安堵しながら、自分も試合に目を向けた。
(焦った……。まあ、焦る必要はないんだけど……。でもやっぱり、クラウド先生の闇は多分だけど、大きい。あたしでは想像もつかない程の、そしてあたしでは抱えきれない程の、闇が……)
《さあ、一回戦も最後の試合となりましたッ! 見ているだけでも疲れる程の濃密な試合内容も、これで一応の一区切りッ! テメェラッ!! 気ィ抜くんじゃねぇゾッ!!!!》
ドォッと沸く会場。一回戦と二回戦の間には一時間の休憩が入るため、観客達は己の残り体力など気にせず叫ぶ。
《良いねぇ……好きだぜこの空気ッ!! んじゃ両選手登場だァァ!》
このコールに合わせて両サイドから選手が入場する。一方は男性で、もう片方は女性だ。
《東側! ジアト大陸からの出場! No.24 シューマン・フォルベルゥゥゥゥッ!!》
右手をあげてアピールするのは茶髪の男性。その二の腕は丸太のように太く、全体の体つきもガッチリしている。背中に抱えているのは巨大な大槌であり、どうやらそれを振り回して戦うようだ。
《対する西側はッ! ローレンシア大陸からの出場! No.11『無限の檻』セシル・フローラムゥゥゥゥッ!!》
もう一人の女性──セシルは自分の名前が呼ばれても微動だにせず、ただ真っ正面を見つめるだけ。肩口までの薄水色の髪は風に揺れ、それだけが生きているかのようだ。
「出たな、“氷の女王”」
「“氷の女王”、ですか?」
エルヴィネーゼの呟きを耳聡く聞いたソラリスが首を傾げる。
「『無限の檻』じゃないんですか?」
「ああ、えっと、“氷の女王”っていうのは通り名みたいなものよ。あいつ、何があっても無表情でさ。初めの頃は“鉄仮面”なんて渾名がついてたんだけど、それじゃあ流石に可哀想だってことで“氷の女王”になったわけ」
ニヤニヤと笑みを溢しながら説明するエルヴィネーゼに、少し疑問を覚えるソラリス。
「なんか、やけに詳しいですね……?」
「だってあいつの通り名つけたのあたしだもん!」
「ええー!?」
ブイッとピースをするエルヴィネーゼ。
「そんなに驚くことかな? セシルだってローレンシアを主な活動地域にしてるんだから、そこまでおかしなことではないんじゃない?」
「そう言えば、実況さんがそんなこと言ってましたね」
納得したソラリスがフィールドを見れば、二人の選手はちょうど握手を終えたところらしかった。
「やっぱり、強いんですよね?」
「当たり前じゃない。No.11よ、弱いわけがないわ」
「ですよね……」
二人の会話が終わった丁度その時、一回目のブザーが鳴った。
「あれッ? セシルさん、でしたっけ? あの人動かないんですか?」
ソラリスが言うように、セシルは一度目のブザーが鳴ってから一歩も動いていない。
「余裕って事ですかね? 相手の人もNo.24なのに……」
「ああ、違う違う」
「え……?」
「ただ単に動くのが面倒くさいだけよ」
「ええー……」
確かに、観客席から見えるセシルの後ろ姿は相手を見下した堂々とした立ち姿と言うよりは、ただぼーっと突っ立っているだけのように見える。ダウナー系か?
「面倒くさいって……」
「それでNo.11なんだから、嫌になっちゃうわ」
ハァっと溜め息を吐くエルヴィネーゼに、そっかと考え直すソラリス。
ビビーッ!
二度目のブザーが鳴り、試合開始だ。
「よく見てなさい」
「え……?」
「勝負は一瞬よ」
そう言ったエルヴィネーゼは、先程までの冗談顔が嘘のように表情が引き締まっていた。ソラリスもゴクリと喉を鳴らして試合を見始めた。
ここからではシューマンの居場所は分からない。何処かに潜伏しているのは確かだけど、それを探し出さなくてはならない。
と、ここでセシルが初めて動いた。両手を空に掲げて、ぶつぶつと何かを呟いた。すると、フィールドの上空に巨大な氷柱がところ狭しと現れた。
「はぇ!?」
驚き過ぎて変な声をあげたソラリス。それに微笑しながら、ボソボソと呟く。
「『氷柱軍隊』か……しかもそれを上から。いくら探すのが面倒とは言え、それは……殺すなよ」
セシルが挙げていた手を振り下ろせば、空中に停滞していた氷柱が一斉に地面に向かって降り注ぐ。それはさながら流星の如く。
「うぉわぁあああッ!!」
自分に向かってくる殺傷力抜群の弾丸に恐れを成し、シューマンは急いで隠れ場所から逃げ出す。
しかし、降り注ぐはフィールド全体。逃げ場所など初めから在らず。
(いやッ! 在る!)
シューマンはその巨体からは信じられない程のスピードで一直線に走り出した。
そう。セシルに向かって。
「そっか! 術の発動者の近くには氷柱は降らない!」
凄いッと興奮するソラリスだが、エルヴィネーゼは冷めた目で試合を見ていた。
(考え方は悪くないけど……ちょっと短絡的すぎやしないかな? セシルはそう甘くはないわよ)
シューマンは幾つかの氷柱にかすりながらも、ほぼ無傷でセシルの側に辿り着いた。
「ハハッ! 甘かったな! 俺は逃げ切ったぜ! んじゃ死ねよッ!!」
シューマンは背中に提げていた大槌を両手で振り回し、横から振り抜く。
「オラァッ!!」
ガキンッ!
「あ……?」
急に動かなくなった大槌に、きょとんとするシューマン。確かに大槌はセシルに当たっている。だが、セシルは身動き一つしない。
「何が……?」
未だに状況を把握出来ていないシューマンに、初めてセシルがチラリと視線を投げた。
「『紅蓮地獄』」
シャン──
セシルが呟いたのと同時にシューマンの体が氷漬けになった。
《…………あ。し、試合終了ォ! ちょっと待て! 死んでないだろうな、アレ!? 救護班急いでッ!!》
言われた通り救護班が走ってくる。彼らはシューマンに辿り着いたが、どうすれば良いか悩んでいるようだ。
すると、セシルがまたもやぶつぶつ言い始めた。
「『解除』」
その言葉を受け、シューマンを覆っていた氷がパリンッと砕け散り、空中に消えた。
ドサッと倒れたシューマンは確りと息をしていた。
「殺してはいない。ダメだと聞いたから」
それだけ言ってセシルはフィールドから立ち去っていった。
《どうやら生きているようですねッ! では改めて……勝者セシル・フローラムゥゥゥゥッ!!》
「やっぱ順当か……」
「ねぇ先生。どうしてセシルさんは大槌を受けたのにダメージが無かったんですか?」
ソラリスは唯一分からなかった点をエルヴィネーゼに訊いた。
「あれは、『氷の鎧』っていう氷術ね。セシルに触れた物体を凍らせる魔術よ」
「そんな魔術があるんですか!?」
「まあね。あれを展開されちゃったら、まず銃器は効かないわね。全部アレで遮られちゃうから」
「……やっぱり二つ名って凄いんですね……」
ほぇ〜と溜め息を吐くソラリス。
(甘いぞ。セシルもムーバルも、クラウドやあたしだってまだまだ本気なんか出してないんだから……。面白くなるのはこれからよ)
一回戦、全試合終了