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傭兵稼業の裏事情  作者: シンカー
第二章
22/46

第二十二夜 エルの初戦



 三人の中で一番最初に試合があるのは、エルヴィネーゼだ。彼女は四つの山の内、No.3『機動艦隊オールマイティ』ヴァドレッド・フラムのいるブロックに割り振られている。

 それに比べ、クラウドは運が良いのか、一桁ランカーがいないブロックに割り振られていた。

 それについてエルヴィネーゼはブーブー文句を言っていたが、当然の事ながらクラウドはこれを聞き流した。



 今回の大会の会場はクリスティアにある最大の運動場だ。運動場と言っても全面が砂地のグラウンドというわけではなく、陸上競技用のラインが引かれていたり、トラックがぐるりと囲んでいたりと、本格的なスポーツをするための施設だ。

 だが、現在はこの大会のために地面が全面張り替えられている。簡単に言えば、岩地だ。大きな岩がそこらにゴロゴロと転がっており、視界を遮る要因となっている。


 このギルド大会は、年毎にステージが異なる仕様となっている。去年は森林ステージ、一昨年は街中ステージであった。このステージをどう有効活用するかによって、実力を十二分に発揮出来る傭兵もいれば、半分も出せない傭兵もいるのだ。

 傭兵は定められた戦闘地がないため、どのような状況に置かれても冷静に対処出来る能力が必要であり、故にバトルフィールドを限定していないのだ、というのが中央ギルド連合の言い分だ。



 会場に辿り着いたクラウド一行――クラウド、エルヴィネーゼ、リン、シャイナ、カイル、フィオナの六人――はエルヴィネーゼを残して全員観客席へと移動した。

 観客席は競技場を円形に囲む典型的な形をしており、クラウド達はその半ば辺りに席を見つけ――初めは埋まっていたが、何故か急に人数分の席が開いたのだ――腰を下ろした。

「結構たくさん人が入ってますね〜」

 カイルが辺りをキョロキョロしながら呟いた。

 彼の言う通り、観客席は八割方埋まっていた。その空席も後ろの方の上段席だけであり、クラウド達がこの位置に座れたのは幸運だった――と言うのは当然嘘であり、主にシャイナが周囲に圧力をかけたおかげ(せい?)である。

「それだけ人気があるってことよ。それより……」

 シャイナがカイルの呟きに答え、そのまま疑問を投げかける。

「それは何?」

「あ、これですか?」

 そう言って席と席の間に挟んであった棒状の包みを指差した。

「そうそう」

 シャイナが頷くと、カイルは照れたように顔を赤らめながら包みの先を開く。

「えっと、その……このギルド大会のことを聞いて、直ぐ様クラウド先生のことを思い浮かべたんですよ。それで……」

 開いた包みの中身を少しだけ取り出す。

「……槍? いや、これは……パルチザンかな?」

「凄いですね。握り手だけで分かっちゃうなんて」

「まあね」

 えっへんと胸を張るシャイナ。

 カイルが持っていたのは『王国軍養成学校』でクラウドと闘ったときに使っていたパルチザンであった。

「あ、もしかして……」

「はい。運が良かったら先生とまた闘えるかなって……」

 パルチザンをいそいそと仕舞いながらチラとクラウドを見るカイル。

「……男に上目遣いされても何も嬉しくないんだが……」

「うっ……」

 クラウドに冷たく言い放たれてたじろぐカイル。

「ア、アハハ……」

 リンも思わず苦笑いをする。そして、それによりガクッと肩を落とすカイル。

 それを見兼ねたのか、フィオナが優しくポンとカイルの肩に手を置く。

「フィー……」

 そんな同級生の暖かさにカイルは俯いていた顔を上げ、

「……まあ、あたしでもカイルの上目遣いはキモいと思う」

 更に深く深く項垂れた。

「まさかの追い打ち……しかも上げてから落とすなんて……テクニシャンね」

 シャイナが顎に手をやりながら冷静に考察する。完全に他人事である。

「カイル……」

 そんな状況の中で、クラウドがカイルに話しかける。

「は、はい……?」

 なんとか顔を上げるカイル。精神的ダメージは絶大だ。

「何時でも挑戦しに来い……お前の自信が満ちたときに。オレは、何時でも受けてやる……」

「――ッ!!」

 だがしかし、それもクラウドのセリフで全快。驚いたように目を見開き、唇をワナワナ震わせる。

「あ、ありがとうございますッ!!」

 思い切り頭を下げるカイル。喜びが全身から溢れだしているようだ。

「良かったわね、カイル」

「ありがとう、フィー……ってかキミも貶したよね?」

 優しく笑いかけるフィオナに、カイルは若干恨みの篭った眼差しを返す。

 あはは……と乾いた笑い声をあげる彼女にクラウドは話しかける。

「フィオナ、お前もだぞ」

「え……?」

 突然のことに驚いたようで、クラウドの方へ振り返る。

「お前も、何時でもかかってこい。ボコボコにしてやる」

「ボコボコにされちゃうんだ……」

 苦笑いをしながら肩を落とす。

(確実に下に見られているのが意外とキツい……。あたしはクラス内では一番の実力者だ。これは事実。同学年、それどころか高学年の中でも上位である自信がある。けど…………)

 知らず知らず奥歯を噛み締めるフィオナ。

 その様子を、クラウドとシャイナは薄く笑みを浮かべながら見ていた。

「あッ! お姉さん出てきたよ」

 リンが競技場を指差して皆に伝える。全員がそちらを向けば、確かにエルヴィネーゼが姿を現していた。

「ホントだ」

「流石ですね、緊張してるようには見えないですね」

 カイルとフィオナは直ぐ様観察するために視線を強める。

《さァ、先程の戦いの興奮が冷めぬまま次の試合だァ!!》

 実況の大きな声に促され、エルヴィネーゼとその対戦相手が岩地フィールドに一歩踏み出す。当然観客達は過剰な反応と言って良いほどの声援を送る。声の波動で会場が揺れているように感じる。

《兎に角選手の紹介に行こうか! 先ずは東側! ソートフェース大陸からの出場、No.52 グレイ・ルーマーァァ!》

 グレイと呼ばれた青年はひきつった表情で佇んでいた。体もガチガチで、緊張しているのが端から見ても分かる。

「いきなりエルちゃんが相手とはね……可哀想に」

 シャイナが同情の眼差しでグレイを見る。本当に可哀想な程ガチガチだ。

《そして西側! 皆さんお待たせ致しましたッ! “二つ名”の登場ですッ!!》

 ドォッ!!

 二つ名の登場に会場は更にヒートアップ。もう隣の人と会話するのも難しい。

《ローレンシア大陸からの出場! No.17『吸血姫ビフォーアフター』エルヴィネーゼ・マクスウェルゥゥゥ!!》

 最後巻き舌で紹介されたエルヴィネーゼは緊張とは無縁の満面の笑みで観客達に大きく手を振る。

「先生だァ!!」

 すると、ある一角で叫び声が響いた。様々な声の中でそれを耳に捉えたクラウドは聞こえてきた方を見る。するとそこには十代前半程の子供がキャイキャイはしゃいでいた。

「アイツらは……」

 そしてその顔ぶれに見覚えがあるクラウド。思い出すのは二つの出来事。

 クラウドとエルヴィネーゼが一日だけの先生を演じた時と、オープンカフェでのカイルの言葉。



『いえ、クラスの大半は来てます。あと、低学年はクラスの授業として全員来てたかな……?』



「『二―二』の奴らか……」

 僅かに目尻を下げて呟く。彼ら彼女らが未だに先生と呼んでくれるのが嬉しいのだ。


 一方、エルヴィネーゼの紹介に反応した人物がもう一人いる。

「No.17……まさかあちらの女性の方が高ランクだったとは」

 貴賓席に座っているユリア王女だ。彼女は周りに護衛を四人付かしてゆったりとした柔らかい椅子に座っている。このような貴賓席は五つで一スペースとなっており、ユリア王女以外にも各国の貴族王族が同じように腰を落ち着けている。

「あちらの女性の方が、とは? 対戦相手の方がランクが上だと思っていたのですか?」

 護衛の内の一人で、今回は彼女の身の回りの世話をする女性が呟きに反応した。

「え? ああ、あの無礼な男と比べてってことよ」

 視線の先ではエルヴィネーゼとグレイがフィールドの中央まで歩いていき握手を交わしていた。これは、正々堂々精一杯とやりましょうという誓いの握手――なんてことはあるわけもなく、お互い何があっても恨むなよという脅しに近い握手なのだ。

「……この前と言い、今回もやけにあの傭兵のことを話題に出しますね……」

 護衛の女性がユリア王女にボソリと耳打ちする。ビクンと体を震わせ反応する王女。だが、それも一瞬で直ぐ様元の上品な、洗練された居住まいに戻る。

「しょ、しょん、んんッ! そんなことありましぇんわよ!!」

 まあ、戻ったのは見た目だけで、内心の動揺は全く抑えられていないが。見事に噛み噛みである。

「……姫様……」

「う、うるさいッ! 余計な詮索はしないで下さいッ!!」

 顔を真っ赤にして叫ぶユリア王女。今の彼女には上品さなど皆目見当たらない。

 そんな可愛い王女に、護衛の女性は顔がにやけるのを止めることが出来なくなりそうだったので、咄嗟に下を向くことで表情を見られないようにした。

「な、なにが可笑しいんですか!?」

 しかし、肩の震えまでは誤魔化すことは出来ず、結局詰問されてしまった。

「い、いえ……別に……フフッ」

「今、確実に笑いましたよね!?」

「いえいえ、まさかそんな……プフッ」

「絶対に噴き出しましたよね!?」

 暫くの間、貴賓席には似合わない可愛い絶叫が響いていた。






(さてと……何であれ初戦というのは緊張するわね)

 エルヴィネーゼは握手のために中央へ行っていたが、今はまた最初のサイドに戻ってきていた。

 最後のコンディションチェックだ。ホルスターから拳銃を抜き、丁寧に、しかし素早く点検を終わらせると、もう一丁もあっという間に完了させる。

 マガジンも咄嗟に取り出しやすい位置に微調整。

(この戦いではとっておき・・・・・は使わないから持ってきてないし……あとは合図待ちか)

 ストレッチをしながら、スタートを今か今かと待ち構える。

 その様子からは、緊張の気配など微塵もさせていない。ただ淡々と準備をこなしていくように見える。

 膝当て、肘当て、胸当てのベルトも確り締まっているか調べ、遂にやることは無くなった。

(クラウドは、心構えをする必要はないとか言ってたけど…………あたしはまだそこまで傭兵には成れていない・・・・・・。やっぱり、精神統一は必要だ。この、試合が始まる直前の独特な雰囲気……いつも通りとはいかないよ、ホント)

 眼を閉じて心を落ち着かせる。周りの音も一切合切切り捨て、自分の心音でリズムを刻み、身体からだ精神こころを統合させていく。次に、呼吸法で体を動かすのに最適な数値まで体温を上げる。握っている掌にじんわりと汗が滲んでくる。

(オッケー……大丈夫。あたしはやれる)

 一言、自己暗示のように自分に語りかけ、眼を開く。それと同時に五感が復活し、観客の歓声が鼓膜を震わす。


 緊張は、既にない。


 ビーッ、とブザーが鳴り、フィールドに足を踏み入れる。正面の相手も同じようにフィールドに立っている。そして、同時にフィールドを駆ける。

 最初のブザーは位置取りのブザーである。次のブザーが鳴る三十秒の間に、この岩地フィールドに身を隠すのだ。勿論、トラップを仕掛けても良い。この三十秒で何を行うか。これもこの大会で勝つための一つの要因となる。

 エルヴィネーゼは一つの大きな岩の裏に身を隠す。ホルスターから一丁拳銃を抜き、銃身を額に当てる。

(5……4……3……2……1……)

 息を深く吸い込み、止める。

(……0!!)

 ビビーッ!!!!

 先程より大きなブザーが国営運動場に響く。

 試合開始だ。




(ふぅ~……始まった。さてさて、相手はどんな戦い方をするのかな?)

 胸の前で銃を構え、相手の出方を待つ。視角ではなく聴覚を研ぎ澄ませ、フィールドの全容を把握する。幸い、歓声は試合開始と共に止んでいるため聞き辛いということはない。

(…………物音一つしない。相手もこちらの動きを探ってるのかな? そんじゃ、一丁誘い出されてみますか)

 胸の前にある銃を右手で構え、狙いなど全く付けずに無造作に一発。

 ターン!

 銃声が中空に響き渡る。試合開始のブザー後、初めての人工的な物音である。

「そう言えばお兄さん」

 観客席で固唾を飲んで試合を見ていたリンは、今の銃声で一つ、あることに気が付いた。

「ン? 何だ?」

「みんなが使ってる武器って、全部本物なの?」

「刃物類は全て本物だ。刃を潰しているわけでも、ましてや木刀を使っているわけでもない」

 そう言いながらクラウドは懐から一本のナイフを取り出す。その刃は確かに鋭利で、フィールドの岩でさえ切り裂いてしまいそうな程である。

「へぇ〜……じゃあ拳銃は?」

「銃類は、使用弾が全てゴム弾になっている」

 ナイフを仕舞いながら説明を続ける。

「ゴム弾?」

「嗚呼。その名の通りゴムで出来た弾だ」

「……それってどうなの? 殺傷力低くない?」

 首を傾げて、不満そうに問うリン。

「否、そうではないぞ」

「そうなの?」

「嗚呼、一度喰らえば分かる。あれは、死ぬ程・・・痛いぞ」

 眉間に皺を寄せ、脅すようにリンに言い放つ。

「死ぬ程…………」

「まあ、命を殺す威力はないにしてもヤル気を殺す威力はある代物だ」

「…………ある意味本物より厄介だね」

 それだけ呟いて、苦笑しながら観戦へと戻っていった。






(来たッ! 銃声だ)

 グレイ・ルーマーは大型拳銃を構えながら、銃声の聞こえてきた位置を素早く推測する。

(銃声はそれほど重くはなかった……俺のより口径が小さいんだな……)

 それだけ確認してから、グレイも行動に移した。

 自分の姿を隠してくれていた岩に手をつく。

(岩地フィールドで助かった。ここは、俺の領域だ! 『牙岩砕ががんさい』!)

 瞬間、グレイの支配下に置かれた岩が一気に砕け散り、拳程の礫となる。

 しかも、それらは。

「浮いてる!?」

 観客の一人が、驚きの声をあげる。他の観客達もザワザワと騒ぎ出す。

 その様子に、グレイは一人ほくそ笑む。観客達の反応が嬉しいのだ。

(行けッ!!)

 念じると共に腕を大きく振る。すると、無数の礫が一斉に飛び出す。それはまるで散弾銃ショットガンのようである。

 礫は様々な軌跡を描き、銃声の発信源に次々と着弾する。

 ドドドドドド……!

 着弾の衝撃で砂埃が発生する。振動が会場全体に響く。

 最後の一石が着弾し、周囲には静けさが戻った。物音一つしない。

(……………………勝った?)

 グレイが砂埃を注意深く見ながらも、心の片隅で希望が光り出す。

(…………俺は勝ったのか?)

 砂埃は未だに晴れないが、粉々になったであろう地面を靴で踏みしめる音も、荒い呼吸音も聞こえない。気絶したか、もしくは――。

(勝った? 勝った!)

「ヨッシャァアアア!」

 勝利を確信し、雄叫びをあげるグレイ。



「よしッ」

 ソートフェースギルドの本部長、No.6『王家の武器庫クリエイター』セルドリッツ・ターナーは拳を固めてガッツポーズをした。

 ここは、貴賓席とは別で、No.10以上の出場していないランカーとゲイル・トーラスが腰を落ち着かせている。貴賓席よりは位置が低いが、それでも高所にあるテラスのような場所だ。

 セルドリッツはガッツポーズをしたまま、共に座っているナタリアに視線をやる。

「どうやら、勝負あったな。悪いな、岩地フィールドが幸いしたよ」

 セルドリッツがニヤニヤしながらナタリアに話しかけるが、彼女は何の反応も示さない。

「どうした? ショックで声も出ないか?」

 すると、ナタリアは怪訝そうな表情でセルドリッツを見る。

「何を言っている?」

「何をって……お前が何の反応もしないから……」

「当たり前だろ――」

 ナタリアは視線を、フィールドに戻した。

「――勝負はまだ終わってはいない」

「――ッ!?」

 セルドリッツも視線をフィールドにやる。そこは未だに砂埃が舞っていて、視界が悪すぎる。

未だ・・……!?)

 セルドリッツが眼を見開く。

「まさかッ……!?」

 それを聞き、ナタリアの唇の端が吊り上がる。

「そのまさかだよ」






 一頻り雄叫びをあげた後、落ち着いたグレイはもう一度砂埃を見る。

(………………ん?)

 そして、気付く。己の過ちに。

(砂埃が晴れない……どころか、どんどん濃く……!?)

 そして、一つの声が響き渡る。

「『霧塵・散むじん・さん』」

「――!?」

 グレイの体が強張る。聞こえる筈のない声が静かに語りかけてくる。

「アンタの過ちは三つ。一つ、自分の力を過信したこと。二つ、身を隠すなり追撃を行うなりの行動の欠如。そして――」

(ヤ、ヤバい!!)

 そこまで聞いたグレイは、直ぐ様近くの岩に手をやる。

「『牙岩砕』ッ!!」

 岩が砕け散る。だが、先程より大きさに均等性がない。焦りによってイメージが正確に出来ていないのだ。

「――三つ」

「行けェエエエエ!!!!」

 腕を目一杯振り、未だに姿が見えないエルヴィネーゼへと礫を飛ばす。

「二つ名を嘗めすぎだッ! 『霧塵・削むじん・さく』!!」

 エルヴィネーゼの号令により、砂埃がグレイ目掛けて前進する。そして、既に放たれていた礫と空中でぶつかり合う――ことはなく、礫が何の障害もなしに突き抜けていった。

 ガリガリガリガリッ!!

 だが響くのは、モノが削られる音。グレイが放った礫は砂埃の中を一直線に進みながら、その大きさを徐々に小さくしていった。そして、砂埃を抜ける頃には大半が消滅してしまい、辛うじて残った礫も指先大にまで規模を落としていた。

「なッ!?」

 手応えのなかった自分の魔術。自分の目の前に文字通り広がる砂埃。

 それらに恐れをなしたグレイは、自分の右手にある拳銃を滅茶苦茶にぶっ放す。だが、放たれたゴム弾は全て砂埃により削られ、消滅した。

「あ……あ……」

 そして、遂に砂埃がグレイの鼻先に到達した。

 咄嗟に顔を腕でガード出来たのは、経験のお陰か。

 砂埃は容赦なくグレイに牙を剥いた。

 ジャリジャリジャリジャリ!!

「――!!」

 服が削がれる。肌が削がれる。そして露出した肉も、滲み出した血でさえも削られていく。全身を鑢で削られる痛みを今、グレイは体感している。

 砂埃に赤色が混ざる。鑢の霧は容赦なく血液を吸い上げていく。

 正に『吸血姫』の魔術である。

 長い長い拷問の時間が過ぎて、砂埃を抜けたグレイは膝をつき、血だるまになっていた。ピクリとも動かないが、それでも死んでいないのは、攻撃そのものが表面にのみ作用する代物だったからである。

「口を開けなかったのは見事ね。開けていたら、体の中もグチャグチャだっただろうに。流石ね」

 エルヴィネーゼが微笑みながら呟く。

「…………俺の、『牙岩砕』を、どうやって……?」

 この声を発したのは、満身創痍のグレイである。

「まだ喋れるんだ……タフね。まあ、簡単なことよ。全て防いだのよ、あたしの土術でね」

「相性……最悪だったか……」

「相手があたしでなければ、最初の一撃で決まってたかもね」

「く……そ…………」

 ドサリ……

 全ての力を使い果たし、グレイは倒れ臥した。

《試合終了ォオオオオ!! 下馬評通り、エルヴィネーゼ・マクスウェルが二回戦進出だァアアアア!!》

 観客達から歓声と惜しみ無い拍手が、両選手に送られた。救護班が直ぐ様駆け付けてグレイを担架で運び出した。

 エルヴィネーゼは観客達に手を振りながら、捌けていく。

(しかし、『牙岩砕』……砕いた岩に自分の土術で生み出した土を表面に付着させ自由に操る術……か。素晴らしい魔術ね)

 頭の中で先程の戦いを反芻させながら、反省点や及第点を自分で出していった。


エルヴィネーゼ・マクスウェル、初戦突破








「な、なんとか更新……」

ミレイ(以下ミ)「ギリギリだったね」

「ん? 君は?」

ミ「ミレイだよ。ミレイ・アシュリード」

「おお、あとがき専用キャラかッ!」

ミ「……それなんだけどさ、本当にあとがきだけなの?」

「そうだよ」

ミ「なんてこと……あたしはここでしか生きていけないなんて……」

「え? 初っぱなからそこまで落ち込みますか? ちょっ、元気出してよ!」

ミ「暫く立ち直れそうにありません……」

「……出したの失敗だったかなぁ?」

ミ「ヨヨヨ……」

「……クラウドもエルも今回は呼んでないし……参ったな……久しぶりのあとがきがこれだけで終了ですか?」

 何もないなら終わらせますよ?

「誰ッ!? 今の地面から響いたような声は誰ッ!?」

ミ「あたし、帰ります」

「えぇええ!? ちょっと待ってよ!」

ミ「待ちません。サヨウナラ!」

 ミレイは にげだした

「だから誰だよ、この地の文!? あぁ、じゃなくて! 待てってミレイ! くそぅ、読者の皆様、申し訳ありません。今回のあとがきはここまでと言うことで……待てミレイ! 何処へ行く!?」



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