第二十一夜 大会開催
スミマセン、まさかの二話連続のあとがきお休みです…………。
ちょっとリアルの方が忙しくて……。
あと、今回の投稿でお話のストックが完全に底を尽きました。しかも、リアルの忙しさで執筆も落ち着いて出来ない状況です。
そのため、次回から不定期連載という形にさせていただきます。
モチロン、基本的には毎週日曜日に更新する予定ですが、たまに更新日変更などをさせてもらいます。そうなった場合は活動報告で伝える予定ですので、気になる方がいらっしゃるならば、そちらを参考にしてください。
こちらの都合で変更してしまい、申し訳ありません。ただ、以前書いたように連載は続けていく気満々なので、これからもこの『傭兵稼業の裏事情』をよろしくお願いします。
小鳥の囀ずり、爽やかな風、暖かい日の光、そして突き抜けるような晴天。
朝の情景として、これ以上は中々お目にかかれないであろう。
そのような状況の時、人間は二パターンの行動を取る。
一つは、先に書いた風景を体全体で感じ、今日も一日頑張るぞと、気持ち良く覚醒するパターン。
そして、もう一つは……。
ドンドンドンドン!
「クラウド! 起きなさい! 時間だよッ!」
気持ち良すぎて、更に快眠(堕眠)を貪ろうとするパターンだ。
ドンドンドンドン!
ドンドンドンドン!
ドンドンドンドン!
「……うぬぅ」
もぞもぞとベッドの中で蠢くクラウド。何とかしてあの騒音を聞かないようにと色々体制を変えたりしてみたが、無駄であった。
「畜生が……」
仕方なく、上半身だけ起こして、扉の向こうにいる騒音発信者に文句を言う。
「五月蝿いぞ……扉を叩くな、迷惑だ……」
主にオレが……と心の中で付け足す。
だが、そんなことは一切気にしないで、騒音発信者――つまるところエルヴィネーゼは事実確認だけを急ぐ。
「やっと起きたわね!? ちょっとアンタ! 今何時か分かってるの!?」
ボリボリと腹をかきながら言われた通り、掛け時計を見る。
「……8時だな」
「そうよ! 開会式は9時からだって知ってる!?」
「ならば、未だ1時間もあるじゃないか……」
ふわぁああ〜、と欠伸を一つ。完全に覚醒とはなっていないようだ。
「やっぱ覚えてない……。大会出場者は開会式の30分前には集合でしょうが!?」
「あ〜……そうだったか?」
のそのそと動き出しながら、ゆっくりとベッドから這い出る。
「そうなのッ! ってか目覚ましセットしてなかったの!?」
言われて、そう言えばと辺りを確認する。
昨夜の記憶の中にある、セットした目覚ましを置いた筈の場所にはそれはなく、代わりに何かの部品と、何かの針と、更に何かの文字盤とが散乱していた。ついでと言ってはなんだが、それらの隣にはナイフが一本、無造作に放置されていたことも追記しておこう。
「…………」
「ねぇ!? ちょっと、返事しなさいよ!!」
何故か、昨夜の記憶より遠い位置にある今朝方の記憶を照査していく内に、靄がかかっていたモノが段々と明確になってきたクラウド。
「嗚呼……」
そして、全てを思い出したクラウドは溜め息を一つ。
それから、未だに騒がしいエルヴィネーゼに、事実を伝える。出来るだけオブラートに包んで。
「残念ながら、目覚ましさんはお亡くなりに……」
「アンタまた壊したのね!? 一体何個目よッ!?」
余計に騒がしくなってしまった。扉のおかげで姿は見えないが、声を聞くだけで、今にも口から火を吐きそうな様子が伺い知れる。
「そう怒鳴るな……悪気があったわけではない」
「当たり前でしょ!?」
「オレの安眠を妨げる莫迦が悪い」
「それ確実に目覚ましに悪意を持って殺ったよねぇ!?」
そうやって二人が口論していると、廊下の遠くから声が響いた。
「ちょっと、まだ準備出来てないのぉ?」
シャイナである。エルヴィネーゼ、シャイナと一緒にクリスティアに訪れていたナタリアは今回、中央ギルド連合側として行動するため、既にいなくなっていた。
本来ならば、ランク10以上のランカーはナタリアのように中央ギルド連合の手伝いとして行動しなくてはならないが、シャイナのような大会出場者に限り、その役目が免除される。
「あ、シャイナさん。クラウドのヤツ、今さっき起きたばかりで……」
エルヴィネーゼがシャイナに助けを求める。
「しょうがないわねぇ……」
シャイナはクラウドの部屋の前まで移動して、扉に向き直る。
「クラウド君、いい加減に起きなさい。もう本当にギリギリよ」
先程のエルヴィネーゼとは比べられない程落ち着いた声で語りかけながら、扉をノックする。
「分かりました」
そして、何故か素直に返事をするクラウド。
当然、こんなやりとりを聞かされてエルヴィネーゼは良い気はしない。「むっ……」と呟き、顔をしかめる。
そしてクラウドに一言文句を言ってやろうと息を吸った直後に、クラウドが扉を開けた。
「あ、え、う……」
出鼻を挫かれ、言葉に詰まるエルヴィネーゼ。
「……どうした?」
それを片眉をあげて見るクラウド。
彼はいつの間に着替えたのか、いつもの黒い着流しに黒い帯、そして下駄と標準装備であった。あの着流しの下に、無数のナイフが隠されていると考えると物騒極まりないが……。
「なあんだ、準備出来てるじゃない」
シャイナがクラウドの姿を確認して、拍子抜けしていた。
「ええ、会話をしながら着替えていました」
何故かシャイナにだけは敬語のクラウドが答える。
「よし。ならさっさと朝ごはん食べて出発しよっか!」
***********
ギルド大会はトーナメント形式で行われる。それぞれの出場者が出場登録をした際に、ランダムに番号が選択され、どこの櫓に入るかが決定する。
基本、出場者達にはシード等の措置は敷かれないが、今大会に限って言えば、特別シードが制定されている。
それは当然、一桁ランカー達に対してだ。
今大会は三人の一桁ランカーが出場登録をしているため、櫓の四つの端の内三つが彼らが入るスペースとなる。そのため、その他の出場者はそのブロックに入っていないように、と心の中で信じてもいない神に祈るのだ。
そんな出場者達の総勢は六十七名。運が良いことに、一桁ランカー三人を特別シードに据えると、ちょうど六十四名となりトーナメントが組みやすい。
本来ならば六十四名のトーナメントでは、決勝戦は通算六回戦目になるのだが、特別シードが入っている櫓では準決勝の前に一桁ランカーと一戦交えなくてはならない。つまり、もし、ではあるが一桁ランカーに勝利して決勝戦まで駒を進めた場合、それは都合七回戦目になる。逆に言えば、一桁ランカーはいきなり準々決勝からのスタートとなっているのだ。それでも誰からも不平不満が出ないのは、それだけ皆が一桁ランカーの実力を理解している事に他ならない。
そう、理解しているからこそ誰も化け物の潜む櫓になど入りたくないのだ。
開会式の終了後、自分の出番までは暇になる傭兵達は各々好きに行動をする――因みに、トーナメントは式内で発表された――ため、会場となっている国営運動場の周りは人で混雑していた。
クラウド達もご多分に漏れず、自分の出番まで何処かで茶でも一杯と思って、辺りをうろうろしていた。
「ねぇお兄さん、こんなことしてて良いの? 出番まで静かに集中とかしないの?」
クラウド、エルヴィネーゼ、シャイナの出場トリオに混じって、リンもそのパーティの一人として行動していた。
本当なら、リンはイヴの側にずっといたかったのだが、たまには息抜きも必要だとシャイナとエルヴィネーゼが無理矢理連れ出したのだ。
「精神統一と言うことか?」
下駄をカランカラン鳴らして歩くクラウドは、視線だけを隣を歩くリンに向けて問い返した。
「うん、まあ、そんなとこ」
普通ならあまり好ましくない返答だが、別段気にした風もなくリンは頷いた。
「ふぅむ……其処らの騎士ならばそういうこともしているやもしれん」
右手で顎を撫でながらクラウドは答え始めた。
「だが、オレ達は傭兵だぞ? 何時何時何が起こるかも分からんような生活をしている。心構えなど、|改めてするほどのものではない(・・・・・・・・・・・・・・)」
「……なるほど」
リンは呆気に取られながらなんとか頷く。
言われて思い出すが、最初、リンがエルヴィネーゼの寝込みを襲ったときも彼女は実に落ち着いて対処をしていた。予めある程度予測していた所もあるだろうが、あれほど冷静に行動出来たのは、それが理由なのかもしれない。
「それで、俺達は今何処に向かってるの?」
無理矢理納得したリンは、全く別の質問をした。
「取り敢えず、腰を落ち着けられる所、かな」
それには、クラウドとリンの後方でシャイナと一緒に歩いているエルヴィネーゼが答えた。その手には一冊の雑誌が握られていて、数ページに付箋が貼られていた。
「こことか良さそうなんですけど、どうですかシャイナさん?」
雑誌のあるページをシャイナに見せるエルヴィネーゼ。
「おお、中々に良いじゃない! よし、ここにしよっか!」
「よっしゃあ、決っまりぃ!」
どうやら、行き先が決定したようだ。
「何処になったの?」
リンが雑誌を覗き込みながら訊く。
「ここよ」
微笑みながらエルヴィネーゼが指差す所には、ケーキが自慢と書かれた喫茶店の写真と記事が載っていた。
「……美味しそう……」
そこに載っていたケーキの見本写真につい溢してしまったリン。それを耳聡く聞いたエルヴィネーゼは笑みを深めた。
「決まったのなら早く行くぞ。どっちだ?」
クラウドはそんな様子も気にせずに道程を尋ねる。
「えっとね……」
それから数分後、四人は先程の写真と同じ喫茶店のオープンカフェに腰を下ろしていた。
注文したケーキセットは直ぐ様運ばれてきて、あっという間に胃袋に消えた。
今は紅茶を啜りながら、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
「あッ! 先生!」
「あ、ン……?」
そんな折、不意に響いた不思議な呼称。いや、一度だけ呼ばれたことのあるそれに、つい反応してクラウドが振り返ってみれば、そこにいたのはやはり彼の知っている顔だった。
「お前らは……」
「お久し振りです、先生!」
「ご無沙汰してます、先生」
百九十近い身長を持つ男の子と、長い紫の髪を一本の三つ編みにしている女の子が、オープンカフェの面している通りでこちらを見ていた。
「カイルに、フィオナか」
「覚えていてくれたんですか!?」
カイルが嬉しそうに笑う。隣のフィオナもほっと息を漏らしてから微笑んだ。
そして今度はエルヴィネーゼの方を向いた。
「そちらの方もお久し振りです。えっと、名前は……」
「え? あ、そっか。そう言えば自己紹介してなかったっけ。あたしはエルヴィネーゼ・マクスウェル。傭兵よ。宜しくね」
ニコッと笑うエルヴィネーゼ。完全に外用のスマイルだ。
「カイル・マグナスです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「フィオナ・クルービーです」
二人そろって頭を下げる。出会った当初では考えられない行為である。
「えっと、エルヴィネーゼって確か……」
カイルが恐る恐ると言った感じで切り出す。
「No.17の……」
「そうよ。No.17『吸血姫』と言えば、あたしの事よ」
若干自慢気に胸を張るエルヴィネーゼ。
「やっぱり! 凄い人なんだなぁ……」
尊敬の眼差しでエルヴィネーゼを見るカイル。フィオナもカイル程ではないが、目を少し見開いてエルヴィネーゼを見ていた。
「それじゃあ、そちらのお二方は……?」
カイルはそのまま残りの二人のことも聞き出す。
「ああ、こっちの可愛い子がリン」
「リンです。はじめまして」
ぺこりと頭を下げるリン。
それを見て、内心複雑な気持ちのクラウドだが表面に出すことはなかった。
「んで、こちらがシャイナさん」
「シャイナ・フォルクよ。巷では『美の追求者』と呼ばれてるわ」
「呼ばれてねーよ」
直ぐ様ツッコミを入れるクラウド。だが、気にせずニコニコしているシャイナ。
「あ、あはは……」
どう反応すれば良いのか分からなくなったフィオナは、取り敢えず愛想笑いをして誤魔化した。
「シャイナ・フォルクってまさか……!」
一方カイルはボケなどそっちのけで名前に反応する。
「『魔弾の射手』!?」
「あら、知ってるの? 嬉しいな」
シャイナは素直に喜んだ。やはり、自分の事が知られているのは嬉しいみたいだ。
「凄ェ……」
カイルはただただ唖然とするだけだ。傭兵の中で四番目に強い人物がいるのだから、しょうがなくはあるが。
「えっと……クラウド先生はランクはいくつなんですか?」
フィオナは訊かずにはいられなかった。前回、自分を軽くひねったクラウドは一体どれほどの実力者なのかを。
「オレか? オレはNo.77だ」
そして宣言される番号に愕然とする。
あの強さで未だ77。いや、77でも十分な実力者であるのは確かなのだが、17と4の後ではどうも高く聞こえない。
内心で、自分の弱さに茫然自失していると、シャイナが希望の言葉を掛けてくれた。
「あぁ……、クラウド君のランクは気にしない方が良いわよ」
「え? どうしてですか?」
「参考にならないからよ。この子、こういう大会で本気出したこと、一度もないんだから」
横目でクラウドを見ながら喋るシャイナ。話題の本人は我関せずとばかりに紅茶を飲んでいる。
「そうなんですか?」
カイルがクラウドに真偽を確かめる。
クラウドは暫く黙していたが、紅茶を置いて「嗚呼」と呟いた。
「全力を出すなんて、疲れるだけだからな。故に、適当な所で負けているんだよ」
「ふぅーん……」
何処か納得のいかない顔で頷くカイルとフィオナ。
「それで、今日はどうしてここに? しかも二人だけで……」
イヤラシイ笑みを浮かべながらエルヴィネーゼが訊く。掌を口元にやるのも忘れない。
「え、ああ、何と言うか……見学ですね」
「見学?」
リンが首を傾げる。そんなリンに対して、優しい笑みを浮かべながら説明するフィオナ。
「そ。あたしたちね、そこのクラウド先生にボコボコにされちゃったことがあってねぇ……それ以来、強くなるために色々やってるの。今回の大会見学もその内の一つ。こんな実力者達が一同に会して、尚且つ戦いが見られるなんて滅多にないことだから」
フィオナの説明に「そうなのかぁ」と頷くリン。
リンとしては、クラウドとエルヴィネーゼはいつも一緒にいるので、その有り難みが今一つ理解出来ないが……。
「それじゃあ、ここに来てるのはあなた達だけなの?」
シャイナがふと浮かんだ疑問をぶつける。
「いえ、クラスの大半は来てます。あと、低学年はクラスの授業として全員来てたかな……?」
記憶を掘り起こしながら答えるカイル。あまりしっかりとは覚えていないようだ。
「って、あッ! もうこんな時間! そろそろあたしの番だ!!」
そうこうしている内にエルヴィネーゼの出番が近付いていた。
時計を確認したエルヴィネーゼは、慌てたようにばたばたし始める。
「あらま、ゆっくりし過ぎたかしら……。カイル君とフィオナちゃんはこれからどうするの? 良かったら一緒に会場に向かわない?」
後片付けをしながら二人に尋ねるシャイナ。
「あ、僕達も良いんですか?」
驚いた様子のカイル。
「当たり前じゃない。大勢の方が楽しいに決まってるわよ」
それに対して満面の笑みで返すエルヴィネーゼ。それを見たカイルの頬がリンゴの如く染まる。それに対し、小さく溜め息を吐くフィオナ。
「あ、じゃ、じゃあご一緒させてもらいます。フィーもそれで良いよね?」
「構わないわよ、あたしは」
傍らのフィオナに尋ねるカイルに軽く返答する。
そして、何の気はなしにクラウドをチラリと見ると、シャイナと真剣な表情で話していた。
「今回は何回戦まで……?」
「三回戦進出で十分だと思うわよ。上も下もあまり良い位置に入れていないみたいだから」
「……分かりました」
それで二人の会話は終了したようで、その後は何事もなかったかのように片付けを再会していた。
「……?」
少々疑問に思ったフィオナだが、尋ねる間もなく慌ただしく出発してしまったため、タイミングを逃してしまった。