第十九夜 再会
二週間ぶりの更新です。
待ってた方、お待たせしました。
待ってなかった方、どうか一読を。
まだまだ連載を続けていくつもりですので、これからもどうか宜しくお願いします。
クリスティアにギルド大会がやってきた。
いつもは、病気や怪我、若しくはそれらを負った患者の見舞い人が多数を占めるクリスティアであるが、現在はそれと同じくらいの人数が――勿論、健康体である――ここに詰め掛けている。
皆の目当ては当然ギルド大会だ。
この大会は、その名の通り大会という体裁を取っているため、一般人でも観覧することが出来る。“観覧の際に怪我などを負った場合、ギルド側は一切責任を負いません”という但し書きが付いているにも関わらず、これだけの人数が観にやって来るのは、やはりそれだけ魅力があるということだろう。
そして、この中には各国の王族、ないし貴族も含まれている。彼らはクリスティアの総裁――クリスティアには王はいない。国の指針を定めたり、政治を行う政治家の頂点に立つのが総裁であり、外交上彼が王の代わりとなっている――に歓迎され、それぞれ最高級のホテルへと案内されている。当然、ツェツァリ王国の王女『ユリア・ツェツァリ』も歓迎の儀を受けた後、ホテルに滞在している。
「ふぅ……ヒマね……」
ユリア王女がクリスティアに到着したのは、大会開催の一週間も前であった。王族足るもの、常に優雅に余裕を持って行動せよ、という家訓に基づき早めに出発したのだが、幾らなんでも早すぎた。
「外出も儘ならないし……ハァ……」
自国ならいざ知らず、他国では安易な行動は即命取りになるため、自由に部屋を出る事さえ出来ない。
しかし、王女と言えど、ユリアは一人の女の子。こんな状態が一週間も続いたら、どうにかなってしまうだろう。
「……………………う」
そして、今日で三日目。我慢強いとは言い難いユリア王女である。三日は良くもった方だ。
「うなぁああああああ!」
「ど、どうされました、王女!?」
ユリア王女の部屋の前で警備をしていた護衛兵士が、突然部屋の中から奇声が上がったことによって、臨戦体勢を取る。
「緊急事態です!」
切羽詰まったようなユリア王女の声に、緊張感を高める護衛。
「一体どうされたのですか!?」
内容の如何によっては、突入もやむを得ないと頭の片隅で思いながら、もう一度訊ねる。
「退屈ですッ! 恐ろしく退屈ですッ!!」
「………………え?」
返ってきた答えに、思考が停止する護衛。先程までの緊張感がプシューと音をたてて萎んでいく。
「退屈過ぎて死にそうです! それは大問題なのッ!」
怒鳴る内に口調も崩れてきた。王女の威厳など全くない。
「ねぇッ、何か言ったらどうなのッ!? ヒマなんですけどッ!?」
取り敢えず何か言わないといけない。
護衛はやっとそこまで思考が辿り着き、何とか喋ろうと喉を震わす。
「あ……えと……ヒマなのは良いことだと……」
「貴方ッ!!」
「は、はいッ!」
台詞の途中に割り込んで叫ぶユリア王女。最初から護衛の話になど耳を傾けるつもりは毛頭ないようだ。
「私は気分転換をしたいのですっ。いえ、しますッ!」
「あ、はあ……」
つい、どうぞご自由に、と言いそうになってしまい慌てて口を閉ざす護衛。今は下手に刺激しない方が良いだろう。
「なので、外出します。だから、そこを退いてください」
「えッ!?」
気が付いたら、ユリア王女の声がドアの直ぐ向こう――と言うより、直接聞こえてきた。視線を移すと、そこにはドアの代わりにユリア王女がいた。どうやら、話しながらドアの前まで移動していたみたいだ。
(いや、そんなことよりも……!)
「駄目です、姫様! 外出はお控え下さい!」
「何故ですかッ!?」
迫力のあるユリア王女の声。これも王族たる力か。
しかし、対する護衛もただの一般兵ではない。
彼が所属する部隊は国王を守護する近衛軍である。今回は、自分の近衛軍を持たないユリア王女の護衛のために、国王と王妃の近衛軍で編成された特別部隊の一員としてここにいる。
そのため、王女程度の迫力ならば軽く受け流せるのだ。
「ここは他国です。おいそれと外出されては……」
「そんなことは知りません! 私は外出します!」
「いやですから……」
「するって言ったらするんですッ!」
しかし、それは相手がちゃんと会話を成立させている場合にのみ、適応される。
今のユリア王女は駄々っ子のそれであり、この護衛には幼い子を宥める術はなかった。
「ですから、駄目なものは駄目なんですってば」
「むぅ、あくまでも私に逆らうつもりですか……」
暫く苦い顔で護衛を睨んでいたユリア王女だが、その顔がパッと輝いた。
それを見て顔をサッと青くする護衛。
(何を閃いた……?)
勿論、心の声など聞こえないユリア王女は輝いた顔のまま一つの提案をする。
「ならば、私が歩く周りを護衛の皆さんで固めてもらえば良いじゃないですか」
それを聞いた護衛は更に顔を青くする。既に蒼白と言っても良いほどだ。
「で、ですが……」
「護衛は十人はいましたよね?」
「え、あ、まあ……」
「私の周囲を守る程度なら充分過ぎると思いますけど」
ユリア王女の言葉を否定出来ない護衛は、口をパクパクさせるだけだ。
「良し、そうしましょう! 貴方、直ぐ様護衛の皆さんを呼んでください。到着次第、出発します」
ユリア王女の中では、既に外出は決定事項となってしまっているようで、護衛はガックリと肩を落とす以外出来なかった。
(こうなったら、他のみんなと一緒に姫様を説得するしか……)
心の中で、淡い希望を抱きながら……。
***********
(……このオレが買い出しか……堕ちたものだな……)
溜め息を吐きながら紙袋を持って歩くクラウド。着流しに紙袋は全く似合っておらず、道行く人々の視線を一心に集めている。
(しかし、人が増えたな……これも大会効果か……?)
視線だけを左右に動かして周囲を確認する。リン、イヴと共にここに訪れた時より、遥かに混雑している。
クリスティアは医療国家ではあるが、何も病院しかないというわけではない。飲食店や娯楽施設などの、他国にあるようなものも当然ある。
そして、それは宿泊施設も然りである。
だが、クラウドとリンのような入院患者の付き添いは、病院内にある付き添い者専用の宿泊施設に泊まることが出来るため、商売が繁盛しているわけではないが。
(エルが来るのは明日か……早く来い……そして買い出し係を請け負え……)
つい先日、ツェツァリ本部から大会に参加するエルヴィネーゼとシャイナ、それに観覧ということでナタリアもクリスティアに来るという連絡を貰っていた。
ナタリアまでクリスティアに来れるのは、大会期間中は全世界のギルドが休業になるためである。
そもそも大会というのは、中央ギルド連合の許可さえ得られれば、どこのギルドでも開催することが出来る。但し、その時はランク制限はなく誰でも参加出来る。
しかし、今回は中央ギルド連合が主催のため、大会に係りきりになるため他のギルドの本部や支部と連携が取れなくなってしまう。
そのため、ギルドを全て休業にすることによって、その不備を見せないようにしているのだ。
(…………しかし、既に一週間以上経っているが、未だにイヴは目が覚めぬ……か)
クラウドが想像するのは、ベッドの上で規則正しく息をするイヴと、そんな彼女に一生懸命語りかけるリン。
(オレには見せぬようにしているが……バレバレだ)
クラウドの前では元気良く笑顔を振る舞っているが、その顔が僅かに引きつっているのをクラウドが見逃す筈がない。
(まァ、そういう強がりは悪くはないがな……あ、ン……?)
クラウドが思案している間に、いつの間にか通りが俄に騒がしくなっていた。
何事かと首を巡らせると、十字路の右側の先に人だかりが出来ていた。いや、人だかりでは適切ではないだろう。
何故なら、
(……護衛か?)
そこに集っていたのは、全員武装した兵士だからである。
彼らは円形の陣形を取りながらゆっくりと此方に歩いてくる。
(……? あれは……ツェツァリ王国の紋章……?)
クラウドが気付いたように、彼らが着ている鎧の左の胸元には、ツェツァリ王国の国旗が描かれていた。
剣と杖が斜めに交差した図柄を中心に、その周りに絵とも文字ともとれないマークが点在している。それが、ツェツァリ王国の紋章である。
(ほぉぅ……ツェツァリ王国も誰かしらを寄越した訳か……狙いは引き抜きか……? それともただの道楽か……)
クラウドはそう考えながらも、兵士達に向かって歩いていく。
別に何かをやらかそうと思っている訳ではなく、ただ単に、病院がそちらの方面にあるだけだ。
しかし、そんなことは護衛達の知るところではなく、正面を見張っている兵士がキッとクラウドを睨み付け、警戒する。
だが、クラウドはそれを平然と受け流し黙々と歩き続ける。
そして、段々距離が近付いていき、遂にすれ違った、かと思いきや、
「あっ! アンタはあのときの無礼者ッ!!」
「あ、ン……?」
何処かで聞いたことのある金切り声が、クラウドの耳に直撃した。
不意を突かれたクラウドは、珍しくキョトンとしながら横を見ると、そこには――
「……ユリア・ツェツァリ…………王女」
――護衛に囲まれたユリア王女が此方を指で指しながら見ていた。
「ハァ〜……」
「なんで溜め息を吐いているのですか?」
「あ、いや、別に……」
「溜め息を吐くと幸せが逃げてしまいますよ」
「は、はあ……」
街を散策しているユリア王女は護衛の一人に話し掛ける。
声からも分かるように、ユリア王女の機嫌はなんとか良くなったようだ。
(結局、説得出来ずにこうして護衛をしているが……やはり目立つよな……)
辺りを見回すと、奇異の視線が自分達に突き刺さる。見られることには慣れきっている筈だが、自国民とは異なる感情を向けられるのは、中々に堪えるようだ。
(まあ、唯一の救いは、姫の機嫌が良くなったことぐらいか……)
護衛が一人寂しげに微笑んでいると、その姫が声をあげる。
「むぅ、景色が中々見えません」
「…………え?」
なにやら嫌な予感がビンビンと……。護衛の顔がひきつる。
「貴方達、少し詰めすぎです。もう少し離れなさい。これでは景色が楽しめません」
「いや、あの、それは流石に……護衛が護衛対象から離れるのは……」
「でもこれではほとんど何も見えません! 離れなさい!」
またもや無理難題を吹き付けるが、ここは意地でも折れないと誓う護衛。
「無理です。もし姫の身に何かあったでもしたら、国王様と妃様が悲しまれます。私達はそんな光景を見たくはありません」
「本音は?」
「姫の身に何かあったら、自分の首が飛んでしまいます。物理的な意味で」
「「「ハァ~」」」
「あ、あれ……?」 他の護衛達から漏れる溜め息。それを聞いてやっと自分の失態に気付く。
「ほぉ……なるほどなるほど……」
「あ……いや……」
そしてユリア王女に目を向ければ、腕を組みながら半眼で睨んできている。
(し、しまった……! 良いタイミングで合いの手を入れられたから、つい……)
護衛がだらだらと汗を流していると、ユリア王女は「しょうがないわね」と言って溜め息を吐く。
「え……?」
「このままで良いと言ってるの!」
護衛を睨むユリア王女。だが、その瞳には苛立ちは表れていない。
「あ、ありがとうございます」
護衛は突然のことで首を傾げるが、まあとにかく良かったと前向きに考え清々しい気持ちで護衛を続ける。
(ま、私の我が儘で優秀な兵士がいなくなるのも、目覚めが悪いしね……)
ユリア王女はそう思って肩を竦める。
(しかし、本当にあまり見えないわね……ん〜、ん?)
キョロキョロしていると、視界の端に見覚えのある物が移った。
(黒髪……)
此方に近づいてくる黒髪だった。護衛達のせいで顔は見えないが、黒い髪だけであの傭兵を思い出すユリア王女。
お父様、つまりツェツァリ王国の国王の前でも敬語を使わずに喋り、あまつさえ報酬の上乗せを提言した無礼者。実力者か何かは知らないが、ユリア王女はああいう礼儀のなっていない人物が嫌いであった。
(あぁ〜、なんか思い出したらイライラしてきた……)
あの人は何も悪くはないのに……と思いながらも、ついつい眉を寄せ黒髪の人物を睨んでしまう。
向こうはそんな視線に晒されているとは知らずに、黙々と歩いてくる。
そして、すれ違うために横を通り過ぎようとした瞬間、護衛達の隙間から黒髪の人物の顔がユリア王女の視界に収まった。
気が付いたら、叫んでいた。
「あっ! アンタはあのときの無礼者ッ!!」
「あ、ン……? ユリア・ツェツァリ…………王女」
黒髪の男――クラウド・エイトがキョトンとした顔で此方に振り向いた。
「お久しぶりです!」
エ「ホントにね。二週間ぶりかしら?」
「そうですね。先週は合宿に行って死んできました♪」
ク「……それ、“♪”を付けて言うことか?」
「まあまあ。今は、更新出来るだけでテンション激増してるんだから!」
エ「あそう」
「興味なさそうだね?」
エ「いや別に」
「……まあいいや。それでさ、覚えてるかな?」
エ「何を?」
「あとがき専用キャラの話」
エ「……まさか……」
「作ってみたよ♪ 設定だけだけど」
エ「マジか……」
「聞く? ってか聞いて」
エ「いやまあ別に良いけど……」
「名前は『ミレイ・アシュリード』。性別は女。年は16。
彼女は主人公の幼なじみであり、ずっと主人公家の隣人をしている。幼なじみらしく、小さい頃はいつも一緒に遊んでいた。常に主人公に連れ回され、毎日のように泣いていたが、何故か次の日も遊びに行くのを断れない。いや、断らない。しかし、彼女はそんな矛盾を全く気にしていなかった。
だが、やはりと言うべきか、成長していくにつれ遊ぶ回数は減っていった。主人公は彼女と遊ぶより、男友達と遊ぶ方を選んでいた。そういう事情は分かっていた筈の彼女だが、何故か毎日が楽しくなくなっていた。輝きが減っていったのだ。
そんな状態が続きながら二人は高校生になった。周りは彼女だの彼氏だのと騒ぎだし始めていた。それを聞いていると、ミレイは変な感覚を覚えるようになったのだが、それの正体は分からなかった。そして、半年後、主人公に彼女が出来た。それを知ったミレイは、ついに自分の中の変な感覚を理解した。
そして彼女は――」
ク「長いわ」
エ「ああ! 良いところだったのに!」
ク「長過ぎだ。たかだかあとがきのみのキャラだろ? 設定が細かすぎるわ」
エ「いやまあ、あたしもそう思うけど、主人公って誰よ、とか……でも後もう少し聞きたかったなぁ。結局、ミレイは何をしたのかってところを」
ク「文字数が足らん。ギリギリだ」
エ「ちぇー」
「んじゃあまあ取り敢えず、来週『ミレイ・アシュリード』を呼んでみるからね」
エ「出演は決定事項なのね……」
「そりゃあ、ここまで設定作ったんだから……」
ク「それが何処まで生きる? この“あとがき”という場で」
「…………」
エ「現実を知ったわね」
「うぅー、出すったら出すんだからぁ!」
エ「はいはい、分かった分かった。もう文字数ヤバイから締めるわね。皆さん、また来週~」
「出すんだか――