第十六夜 別行動
「ハァー、面倒くさい……」
「愚痴らないで下さい。私まで面倒くさいって思っちゃいますから……」
ナタリアとシャイナは今、船上の人となっている。
「だってなんにもやることないんだよぉ」
「だったら、今回のギルド会議で話す内容を、頭の中でしっかり形にしてください」
「もう出来てるよ〜」
「……相変わらず、仕事は早いんだから……」
二人が向かっているのは、この世界で一番広い海、『クルーシャル海』のほぼ中央に位置する群島である。
そこには、全世界のギルドを纏める『中央ギルド連合』の総本山が鎮座している。そして現在、全大陸のギルド本部の本部長がその島に向かっている。
「何か楽しい話題とかないの?」
「ないですね」
「そんな即答……」
そもそも、今回本部長達に召集をかけたのは、ここにいる『ナタリア・リーンバール』である。
その内容は『生物兵器について』。ドルムック王国で行われていた生物兵器研究の事を、全大陸に通達するためだ。
「……害獣とか襲って来ないかな……」
「いくら暇だからと言って、物騒な事言わないでください!」
「ぶぅー……」
クラウドとエルヴィネーゼが見つけたのは、研究途中の検体ばかりだったが、リンと言う完成体がいたことも事実。完成体が各大陸の諸国に配属、ないし売られている可能性もなきにしもあらずである。国に雇われた場合、最前線で戦わされる傭兵達がこれに対峙する可能性だってある。その時に、情報があるのとないのとでは、心境的にも状況的にも差が大きい。
「アンタは武器が銃だから、海上だろうが関係ないでしょ」
「いやぁ、潮風が強い海だと、『銃座』を維持するのが大変なんですよ」
「……いや別に態々『魔弾の射手』を使わなくても……」
「気分の問題ですよ」
そういった理由で、『中央ギルド連合』から、本部長達の召集に許可が降りたのだ。
「……しかし久しぶりですね。本部長達と会うのも」
「……そうだな。お前は嫌なんじゃないか、会うの?」
「…………」
「図星か……」
「だって喧しいんですもん、会う度会う度……」
「それだけ皆に認められている証拠だぞ?」
「……もっと違う感じで証拠が欲しい……」
「我が儘な奴だ」
とりとめのない会話を続ける二人。本当に暇で仕方がないのだ。
「しっかし!」
「はい?」
突然晴れやかな笑顔で大きな声を出したナタリアに少し驚くシャイナ。
「理由は何であれ、仕事から解放されるのは気持ちが良いなぁ!」
「いや別に解放されたわけじゃありませんからね? 一時中断してるだけですからね?」
「エルヴィネーゼが私の分まで仕事を終わらせておいてくれるのを祈るか……」
「……ゴメンね、エルちゃん……」
ローレンシア大陸の方向に合掌する二人。やってることは一緒だが、そこに込めた思いは全く違う。
そう。今回の召集で、ギルド本部の頭が二人とも抜ける事態になってしまった。しかし、一時でも上がいないという状態は、組織にとって見ればあまり褒められたことではない。
そこで、代理本部長という形で(勝手に)白羽の矢が立ったのがエルヴィネーゼである。
当初は「なんであたしが!」とか、「あたしよりランクが上の人、いるでしょ!?」とか、「そもそもあたしには向いていません!」とか、色々反論していたが、ナタリアが一言「やれ……」と珍しく殺気を滲ませた声で放ち、今の状況に至る。
「クラウド達は、『クリスティア』に着いたのか?」
「まだじゃないですかね。多分、私達が連合本部に着くより、少し早い位だと思いますよ」
「面倒くさがり屋のアイツが、しっかりやるかねぇ?」
「面倒くさがりですけど、自分から言った事は、ちゃんとやる子ですよ」
「……確かに」
クラウドは今回、エルヴィネーゼとは別行動を取っている。
お目付け役のエルヴィネーゼがいないため、何かと心配するナタリアと、大丈夫だと言うシャイナ。今頃、クラウドがくしゃみをしているかどうかは、分からない。
「……着くまでもう少しかぁ」
「時間、かかりますね」
ある程度話したことで話題が尽き、またもや暇そうにする二人。中央ギルド連合本部に着くには、もう少しかかるようだ。
***********
エルヴィネーゼは今、本部長室のシステムデスクに腰掛け、溜め息を吐いている。
「……暇だ〜……いや寧ろ忙しい〜……」
初めは、いつもはナタリアが座っている席に座ることで、違った景色が見えたりして楽しんでいたが、それにも直ぐに飽き、今は送られてくる書類等を淡々と片している。
「何これ……“失踪した子供を探して欲しい”って、これはギルドに頼むことじゃないでしょ。いや、凄く心配だけど……」
書類の大半は依頼のランク付けのものである。依頼内容が書かれた書類と、これまでの依頼とそれのランクを纏めたファイルとをにらめっこして、適切なランクを制定する。今までは主にシャイナが行っていた仕事だ。
「ここまでツマンナイとは……。シャイナさん、お見逸れいたしやした」
ポンと判子を捺しながら同時に礼もする。
そしてそのままの体勢を暫く維持していたが、程なくして溜め息と共に崩れ落ちた。
「アァ〜……一人だと寂しいぞ〜コノヤロ〜……あたしも一緒に行きたかった〜……」
一頻り愚痴った後、ふと思い付いたように顔を挙げる。
「一人だと寂しい……か……。昔のあたしには考えられないな……フフッ……」
***********
整備された荒路を一台の自動四輪が駆ける。なかなかに大きな車体で、八人は余裕で座れる。そのタイヤにはサスペンションが装備されており、振動を最小限に抑えられる構造となっている。
乗客は三人。運転席に収まって運転しているのがクラウド・エイト。隣の助手席に座っているのが、リン。そして、最後の一人は、一番後ろの後部座席で横になっているイヴだ。
リンはそわそわと落ち着かない様子で、頻りに後ろを振り返ってはイヴの状態を確認している。
それを見かねたクラウドが、前を見ながら落ち着け、と諭す。
「で、でも…………」
「大丈夫だ。確り座席に固定してあるし、これもサスペンションが搭載されている。ほとんど揺れていないだろ?」
これと言いながらハンドルをパシパシ叩くクラウド。
クラウドの言う通り、サスペンションはその機能を遺憾無く発揮して、不快な振動をほぼゼロにしてくれている。振動で座席から落ちてしまうという事態はないだろう。
「う、うん……そうだけど……」
それでも不安そうなリン。
クラウドは暫くそのまま自動四輪を走らせていたが、徐にブレーキをかけて止めた。
「ど、どうしたの? 故障?」
リンは急に止まってしまった自動四輪に驚いていたが、クラウドはそれには構わず親指でイヴを指しながら言った。
「後ろに行け」
「え……?」
「だから後ろに行け。横でそわそわされると、運転に集中出来ん」
リンは少しの間だけ考えていたが、直ぐに満面の笑みでお礼を言ってから、座席を移動した。
リンが後部座席に座り、シートベルトをしっかりしめたことを確認してから、クラウドは再び自動四輪を走らせた。
「このまま何もなければ、今日の夕方迄には着く予定だったよな?」
クラウドがリンに問い掛けると、うーんと唸った後、自信が無さそうに「た、多分……」と答えた。
クラウドとしては、話題がなかったために適当に訊いただけであって(クラウドはちゃんと覚えている)、そこまで真剣にならなくとも……と思ったが、面倒くさいので言わなかった。
「イヴ……もう少しの辛抱だからな……」
そう言いながらイヴの髪を撫でるリン。
今回、この三人が『クリスティア』に向かっている理由は、未だに目覚めないイヴの治療をするためだ。
実は、クラウドとエルヴィネーゼが国王達と謁見してから、既に一週間経っていたりする。
その間、イヴはツェツァリ王国の中でも最高峰の病院で治療されていたが、一向に意識は戻らず、医師達もどうしようかと困惑していた。
そんな時、毎日お見舞いに訪れていたリンに一人の医師が、クリスティアの病院に転院することを勧めた。
『クリスティア』の正式名称は『最先端医療国クリスティア』。その名の通り、ローレンシア大陸で最も医療技術が進んでいる国だ。
元々は、『エレナ・クリスティア』という人物が、様々な国の医師を集め、『自由なる医師団』という団体を創設したのが始まりだ。
彼女らは、依頼があったのならば、どんな国にも向かい、格安で治療を行っていた。
その活動は瞬く間にローレンシア大陸全土に伝わり、いつしか態々治療してもらうために足を運ぶ者や、彼女らの活動に共感した医師達が集まるようになってきた。
しかし、やはり人数が増えればそれだけ足並みが悪くなるのは当然であり、どうしようかと悩んだ末に辿り着いた答えが、『医療専門国クリスティア』の建国であった。国名は、創始者のエレナ・クリスティアの名が採用されていたりする。
建国当初は、最先端の名は冠されておらず、国全体が巨大な一つの病院という感じであった。
しかしその後、患者が多く訪れ、その医療費により国が大きくなるにつれ、医師だけでなく、医療機器開発専門員が多数移住し始め、次第にその様相は『医療専門』から『最先端医療』に変化していったのである。
そんな歴史があるクリスティアならばという医師の説明を受けたリンは、直ぐ様家にとって返し――リンは現在エルヴィネーゼの部屋で生活している――クラウドとエルヴィネーゼの二人にお願いをした。
そんな一生懸命なリンに、エルヴィネーゼは二つ返事で快く承諾した。クラウドの方は、始め「面倒……」だの「面倒……」だの「面倒……」だのとブツブツ愚痴っていたが、結局は仕方ないと言った風で渋々承諾した。
因みに、この後直ぐにエルヴィネーゼが本部長代理ということで同行出来なくなり、二人程ブツブツ愚痴ったりするのだが、それは既に過ぎ去った、全く関係のない話なので、ここでは割愛させてもらう。
「第十六夜を読んで頂きありがとうございます♪」
エ「なんか最近あとがきのお休み多くない?」
「そうなんですよね……中々時間が取れなくて。携帯から投稿してるんですけど、バッテリーがほとんど無くて充電器に繋いでないと三十分ももたないんですよ」
エ「携帯変えれば?」
「良い機種が無くて……」
エ「ふ~ん、そっか。んじゃさ、また読者さんに意見聞いたら?」
「意見?」
エ「そ。このあとがきを続けて欲しいか、別に無くても良いか」
「成る程……それは良いかもしれない……」
エ「でしょ。それじゃ、あとがきについて、いるかいらないかの意見を応募します。皆さんの率直な意見を頂きたいです。どうか宜しくお願いします」
「します。じゃ、今回の内容に触れていくか」
エ「そうね。ところでクラウドは?」
「今日はお休み」
エ「あ、ホントにいないんだ。まあいてもいなくても一緒だけど……」
「実は、前回が自分の中では“第一章 完”みたいな感覚で、今回から第二章って気分なんだよね」
エ「いきなり話跳んでるもんね」
「うん、まあね。やっぱ区切るなら大胆にかな、って思って」
エ「これからもずっと別行動なの?」
「いや、それはないよ。数話後に合流する予定」
エ「予定……?」
「そこを今執筆中でございます」
エ「そゆこと」
「因みに、内容は事前の通告無しに急遽変更になる可能性があります。悪しからず」
エ「ダメじゃん……」
「いや~それが書いてる内に出す予定の無かったキャラが登場しちゃって……」
エ「誰よ?」
「ユリア王女」
エ「マジでか?」
「うん。だから自分の考えてた展開とはちょっと変わっちゃうかも」
エ「なんじゃそら……。しっかり戦闘シーンあるんでしょうね?」
「それは大丈夫。ってか戦闘シーンがないとダメな話だから」
エ「へぇ、そうなんだ。あたしは活躍する? 今出番少ないんだけど」
「最初はクラウドより行くと思うよ」
エ「行くって何よ?」
「それは後でのお楽しみ♪」
エ「……その言い方ムカつくな……」
「まあまあ。取り敢えず暫くは一週間置きの更新は維持出来そうだから安心して。直ぐに活躍出来るよ」
エ「……思うんだけど、一週間置きの更新って遅くない?」
「それは言うなッ! 気にしてるんだッ!! うわぁあああん!!」
エ「……地雷踏んだか……」