第十二夜 『魔弾の射手』
色とりどりの弾丸が生物兵器群に襲い掛かる。それら一発一発に魔力が込められており、生物兵器群を悉く蹂躙していく。
「……何、アレ?」
その光景に呆然としながら、リンが訊く。
「『魔弾』だ」
隣にいたクラウドが答える。
「『魔弾』?」
「嗚呼。基本的な魔術の一つだ」
「こんなに威力が高いのに……?」
リンは圧倒的な火力を放つ『魔弾』を見ながら呆れたように呟く。
「基本的だからと言って、低威力とは限らん。寧ろ、基本的だからこそ、奥が深いんだ」
「ふーん……」
先程まであった、戦いに赴く際の緊張感は既にない。
「そもそも『魔術』とは――「終ぉわりぃ!」…………」
最後に大きな一発をブチかまし、声高々に宣言するのは、『魔弾』の放ち手、『シャイナ・フォルク』である。彼女は異様に長い銃身を持つ銃を手に持ったまま、クラウド達に近付いてきた。生物兵器群は綺麗に一掃されていた。
「いやぁゴメンゴメン、お待たせお待たせ、待ったかな?」
「遅いですよ……」
取り敢えず小言を一つ。
「だからゴメンってば〜、許してよ」
「ハァ……」
シャイナの悪気のない所作に毒気を抜かれたクラウドは、溜め息を吐くだけに留めた。
「どうして、シャイナさんが……?」
エルヴィネーゼは、突然のシャイナの登場に軽く戸惑っている。
「あれ? クラウド君から聞いてない?」
シャイナはクラウドを見る。
「聞いてません」
エルヴィネーゼもクラウドを見る。ついでにリンもクラウドを見る。
六つの瞳に見つめられたクラウドは、真顔のままキッパリと言った。
「忘れてた――ぐは、ッ!」
シャイナに後頭部を殴られた。拳骨で。
「痛い、至極……」
クラウドは殴られた箇所を擦りながらシャイナを睨む。
「ちゃんと伝えてなかったクラウド君が悪い」
シャイナは素知らぬ顔でクラウドの視線を受け流すと、エルヴィネーゼを見て、リン、気絶しているイヴへと視線を移した。そして、またクラウドを見て、
「どっちがいい?」
と、質問した。
「どっち、とは……?」
質問の意図が分からないクラウドはそう聞き返す。
「だぁかぁらぁ、エルちゃんと、そこで倒れてる娘、どっちを背負いたい? ――」
「嗚呼、どちらでも――「――男として」なにッ……!?」
“男として”。この付け加えにより、この質問はとんでもない意味を抱え込んだ。
つまり、“男として、背中で体の感触を味わいたいのはどっちの女の子?”、と訊かれているのと同義なのだ。
クラウドも男だ。珍しく狼狽した様子で思考を回転させる。そんなクラウドにエルヴィネーゼはジト目、シャイナは笑いを堪えるのに必死で、リンはキョトンとしていた。
「まぁ、遊んでる暇はないし、クラウド君、エルちゃんをお願いね」
勝手に結論を出し、イヴを背負うシャイナ。当然リンはイヴの側へと行く。
残されたクラウドは若干気まずそうにエルヴィネーゼに近付く。
「…………」
「…………」
お互い無言。しかし、意味合いは全く異なったりする。
クラウドはエルヴィネーゼを背負おうとして、エルヴィネーゼが満足に体を動かせないことを思いだし、別の方法で抱えることにした。
肩と膝裏に手を入れて持ち上げる――
「ち、ちょっとぉ!?」
――所謂“お姫様抱っこ”というやつだ。
エルヴィネーゼは顔を赤くして文句を言うが、『吸血』の副作用による全身の激痛で抵抗出来ない。
「煩い、少し黙れ……」
「うぅ〜……」
エルヴィネーゼは悔しそうに、恥ずかしそうに唸る。
それを見ていたシャイナはニヤニヤとイヤラシイ笑みを浮かべていた。
「えっと、シャイナ、さん?」
「ん?」
リンがおどおどとシャイナに話し掛けた。
「ジルは放っておいて大丈夫なんですか?」
「あのお爺さん? 残念だけど、私達では捕まえることは出来ないわ」
「そう、ですか……」
リンは悔しそうにうつむきながら呟いた。
そんな様子のリンに、シャイナは優しく声をかける。
「大丈夫よ」
「え……?」
「ツェツァリ王国に戻ったら、ここのことを問い詰めるように上に掛け合ってあげるから。こう見えても私、結構エライんだからッ」
エッヘンと胸を張るシャイナに、リンはクスッと笑った。
「お願いします」
「うん、任された!」
その二人のやり取りをクラウドが黙って聞いていた。それに気付いたシャイナは軽く謝った。
「あっ、ゴメン。んじゃ、行こっか」
「そうですね」
クラウドとシャイナ、リン、そして担がれたエルヴィネーゼとイヴは揃って出口へと向かう。
しかし、そう簡単に帰しはしないヤツが、ここにいた。
[誰がそう易々と帰すと……?]
スピーカーからジルの声が響く。
「帰す帰さないも、生物兵器は全部倒したわよ」
シャイナが足を止めずに返答する。
[確かに、“生物兵器はな”……]
「……?」
不審に思い、足を止めるシャイナとクラウド、そしてリン。
[じゃが、獰猛な獣ならまだまだおるのじゃよ! 行け!!]
ガガガガガ……
柱がいくつも立っている広場の壁面が開き、そこから何十体もの獣が飛び出してきた。
「ナニコレ!? さっきより多い!」
リンは四方から突っ込んでくる獣の群れを見回しながら叫ぶ。しかし、他の二人は慌てずに対処した。
「二人共、近くに」
シャイナが冷静な口調でクラウドとリンを側にやった。
「ど、どうすんの?」
リンがシャイナに訊く。
「私がやるわ」
「頼みます」
「お願いします」
シャイナの言葉に、クラウドとエルヴィネーゼは頭を下げる。
「リン、お前ももっと近くに寄れ。シャイナさんの邪魔になる」
リンは怪訝そうにしながらも、言われた通りにシャイナの近くに寄る。
それを確認したシャイナはゆっくりとイヴを降ろし、二丁の銃を左右に構えた。
「また『魔弾』? でもそれじゃあ――「黙ってろ」……!?」
クラウドがリンを黙らせ、シャイナを見る。その様子はとても落ち着いている。
シャイナは一度目を閉じた。獣の群れはすぐ側まで近付いていた。
[殺すのじゃ!!]
もう爪が届く、という所で、シャイナは目を開き、引き金を引いた。
ドドドドドドドドドド
[なにッ!?]
「え……ッ?」
凡そ二つの銃口から発せられたとは思えない銃声が広場に響く。
獣の群れは、“四方八方から飛んできた”『魔弾』の餌食となる。
「これは……?」
「言っただろ、『魔弾』は奥が深いと……」
クラウドの言葉にリンは表情で「どういうこと?」と訊ねる。
「先程の続きだが、そもそも『魔術』というのは、“何もない所から何かを創り出す技術”だ。故に、術者の想像力、イメージ力が術の完成度に大きく関わってくる。ここまでは分かるか?」
うん、と頷くリン。
「しかし、このイメージというのが中々厄介でな……巧くやれるのはそういない。そこで、どんな魔術師でも使用出来るようにと開発されたのが、この『魔弾』だ」
「どんな魔術師でも……?」
「そう。弾丸というのは、既にこの世にあり、使用用途も分かっている。故にイメージしやすいのだ。形のない魔力を弾の形にするだけだしな……」
「なるほど……」
「しかし、当然弱点もある。『魔弾』は結局の所、弾でしかない。故に、銃口がなければ放てないのだ」
「えっ……? でも……」
「そう。シャイナさんはこの弱点を克服したんだ、類稀なるイメージ力を使ってな……」
リンがシャイナに視線を移す。彼女は獣の群れには一切目を向けず、真っ直ぐ前だけを見ているように見える。
「シャイナさんはな、“『風術』で銃口を創り出し、そこから『魔弾』を撃っているんだ”」
「銃口を……!?」
「そう。ありとあらゆる場所に不可視の銃口を創造し、『魔弾』を乱射する……これが、“No.4『魔弾の射手』シャイナ・フォルク”の戦い方だ」
「No.4……!?」
その事実に目を見開くリン。
「驚いたか?」
「うん、正直。だけど、これって効率悪くない? 視界外での射撃は運任せってことでしょ?」
「普通ならな。たが、シャイナさんは、異能『遠見』の所持者でもあるんだ」
「異能……!」
「『遠見』の力で、シャイナさんは、彼女を中心に直径百メートルの球型の視界を手に入れ、離れた場所でもくっきり見えるらしい……」
「まぁ、『遠見』の使用時は動けないってのが、難点だけどね……」
クラウドの説明に割り込んできたのは、当の本人のシャイナだった。
『魔弾』の嵐は止んでおり、辺りを見ると、獣の死骸であったであろう物が、あちこちに散らばっていた。
「もう、終わったの……?」
「モッチロン!」
満面の笑みで答えるシャイナ。この顔を見る限りでは、とてもNo.4を名乗れる猛者には見えない。
[No.4じゃと……?]
ジルも予想外の強敵の出現により、焦りの色を隠せない。
「そうよ。何も手を出さないことね、さもなくば蜂の巣にしちゃうわよ」
[――――!?]
スピーカーの向こうで息を呑む気配が伝わる。
「ただ、そっちが何もしないなら、こっちも何もしないわ。素直に帰るだけよ」
[……なら、“検体4098”と“検体4099”は置いていってもらう]
「無理ね」
[なんじゃと……?]
ジルの提案を一蹴するシャイナ。
「依頼により、この二人は連行させてもらいます。手出しするなら、容赦しないわよ」
[――――!?]
またもや息を呑む気配。今度は悔しさも混じっている様子。
[……くそぉっ……!!]
「では、これにて。さ、行こ」
シャイナの合図により歩き出すクラウド達。
結局、五人が研究所を出てからツェツァリ大使館に辿り着くまで、妨害行為やそれに近いものは一切無かった。
***********
所変わってツェツァリ大使館。
外は未だに暗い。クラウドとシャイナの二人は一つの部屋に一緒にいた。エルヴィネーゼは自室に割り当てられた部屋のベッドで休んでおり、リンとイヴの二人は、別室で監禁されていた。
「こればっかりはしょうがないわよ……」
シャイナは諭すようにクラウドに言う。
「ン? なんのことですか? オレはただ、国王に褒美に何をねだろうかと考えているだけですよ」
クラウドは、何でもないという風に軽口をたたく。
「そっか……」
シャイナもそれ以上何も言わずに黙った。
それから数刻してから、クラウドの方から口を開いた。
「……シャイナさん」
「なぁに?」
ベッドに横になっていたシャイナは、顔だけクラウドに向けて返事をした。
「今回の依頼は……“変”ですよね」
「…………」
シャイナは何も言わないが、構わず続けるクラウド。
「依頼要請の早さに始まって、オレとエルの二人だけの参加、他国への手回しの早さに、極めつけは……破格の報酬」
クラウドは短刀を弄びながら言葉を紡ぐ。
「高々校長一人が殺された位で、“欲しいものを何でも一つ”……可笑しすぎる」
「それは私達も思ったわ」
シャイナが起き上がりながら漸く口を開いた。
「私“達”、とは?」
「私とナタリア」
「なるほど……」
それを聞いたクラウドは腕を組み、右手は顎を摩る。
それを見てシャイナは微笑んだ後、口調を軽くして言った。
「ま、分かんないんなら、張本人に直接訊くしかないよね」
「張本人?」
「えぇ、我が国の国王様、『バルフォイ・クラミナル・ツェツァリ』様に。チャンスはあるでしょ?」
半分おどけた口調だが、目は真剣だった。
「……そういうことか」
理解したクラウドも、口の端を歪めながら頷いた。
その後、二人は陽が昇る頃まで話し合っていた。
シャイナ(以下シ)「どーも、現在最強存在のシャイナでーっす! 今回読んでくれてありがとね!!」
「こらッ。自分より先に喋るなぁ」
シ「細かいなぁ。ずっと同じだと、パターン化してマンネリ化しちゃうよ」
「マンネリ化するほど回数重ねてませんけどねッ」
シ「マンネリ化してからでは遅いのよ。常に新しいことを見付けなくちゃ!」
「……ハァ。そう言えば、クラウドとエルは?」
シ「来てないわよ」
「なにッ!?」
シ「新パターンその2! これからは私があとがきの主人公!」
「意味が分からない! あとがきに主人公なんていませんからねッ!?」
シ「これから作ればいいじゃない」
「いやいや。って言うか、あとがきに主人公がいるなら、それは間違いなく自分だからねッ!?」
シ「ハッ……自分が主人公とか……厨二病ですかぁ?」
「う、うぜぇ……」
シ「でもさ、面白そうじゃない?」
「何が……?」
シ「あとがき専用キャラ」
「ただの可哀想な子にしかならないよ?」
シ「なんでよ?」
「状況描写無しの会話文オンリーでしか登場できないんだよ? 可哀想の一言に尽きるだろ」
シ「それは、アンタの腕の見せ所でしょ」
「丸投げッ!?」
シ「ちゃんと視野を広くしてみなさいよ。いるわよ、会話文オンリーの小説書いている人も、あとがき専用キャラを作っている人も」
「いや、自分は知ってるけど、自分達にしか分かんない会話はやめようね」
シ「どっちもネットで公開してるわよ?」
「そういう問題じゃねーよッ」
シ「大丈夫だって。ネタが分かんないと意味が分かんない小説なんて、掃いて捨てるほどあるから」
「ホントそう言うのヤメテッ!! 自分、ここで生きていけなくなるからッ!!」
シ「大丈夫よ。固有名出してないから」
「尚更たちがわるいんだよッ!? お願いマジやめて」
シ「しょうがないなぁ」
「ハァ……読者の皆様、申し訳ありません……」
シ「んで、どうする?」
「何が……?」
シ「あとがき専用キャラ」
「まだ言ってんの!?」
シ「ハァ、もうちょっと文字数があればねぇ……」
「……こればっかりはしょうがないよ」
シ「パソコン使いたいなぁ」
「現時点では不可能ですなぁ」
シ「ちぇー。んじゃあテンションが下がっちゃったので今回のあとがき終了ー」
「マジでッ!?」
シ「マジマジ。じゃあねー」
「えっ、おい!? って言うか、今回もあとがき愚痴で締め!?」