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傭兵稼業の裏事情  作者: シンカー
第一章
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第一夜 黒い男と赤い女

初めての小説なので、拙い部分があるでしょうが、もし誤字やご指摘がある場合、遠慮なく罵倒して下さい。

それでは、どうかお楽しみを……

 傭兵ランクシステム。

 傭兵と依頼人を仲介するギルドと呼ばれる組織が、その傭兵を管理するために制定した制度。

 全ての傭兵にはポイントが付与され、その合計点数によってランクが与えられる。その最高ランクは第一位、最低ランクは傭兵が増える度に増えていくので上限なし。

 これが、今現在最もポピュラーな傭兵の在り方である。



***********



 水の星と呼ばれる、蒼い惑星がある。

 その呼称通り、惑星全体の約七割が海に覆われている。

 その惑星には、六つの大きな大陸と幾つかの島が存在し、それらを全て合わせると残りの三割となる。

 北半球に存在する一番大きな大陸は、東西に長く伸びる形をしている。

 その名を『ローレンシア大陸』。

 その大陸の中央より三分の一ほど西に行った所にある森。

 そこで一つの戦闘が行われていた。


 ターン、ターン……

 響き渡る銃声。獣の哭く声が後に続く。

 銃声の発生源には一人の女性がいた。赤い髪をポニーテールにしたその顔は至極真面目。その燃えるような紅い瞳の先には、硝煙漂う二丁の拳銃。それは女性の両手に握られていた。更にその先には、先ほどの哭き声の主である体長一メートルほどの狼らしきものがいた。しかし、その瞳には生気が宿っておらず、既に事切れていることが分かる。

 女性の周りには、同じように死んでいる狼もどきが何体か転がっていた。皆、銃弾を喰らって即死、ないし致命傷を負わされそのまま死亡していた。

「ふう……」

 二丁の拳銃を下ろし、嘆息する女性。

 その身に纏っているのは、薄手の黒いシャツにレザージャケット、下はジーンズにレザーブーツ、後は胸当てと膝当てだけという軽い出で立ち。

 拳銃を、ベルトの両脇に吊るしているホルスターに仕舞い、辺りを見回そうとした、瞬間――

 ガウゥゥゥ!

 ちょうど女性の視界の真後ろの茂みから、狼もどきが女性目掛けて飛び出してきた。

 しかし、女性は慌てることなく堂々とそれを無視。

 シュッ

 狼もどきの爪牙が女性に届くまで後一メートルの所で、突然狼もどきの下だけ重力が増したかのように体が地面に叩きつけられた。

 その背中には刃渡り十五センチほどのナイフが深々と突き刺さっており、その刃は心臓にまで達していた。

「ちょっとクラウド、もうちょっと離れた場所で仕留めてくれない?」

 女性は振り返り、ナイフが飛んできた方向を睨みながら、その先にいるであろう人物に向かって話し掛けた。

「そう言うな。至極退屈だったのでな、スリルを求めてみただけだ」

 そう気だるげに言いながら、視線の先の樹木の上から一人の男が飛び降りてきた。

 男にしては長い光沢のある黒髪を風に遊ばせ、その下にある瞳は蒼く光る。肌は色素が抜け落ちたかのように白く、まるで陽の光に照らされたことがないかのよう。

 彼の服装は、陽の光が届きにくい薄暗い森に溶けてしまいそうなほど黒一色の和服であった。布も帯も真っ黒、柄はなし。履き物は、これまた和風に下駄を履いている。整備されていない森を歩く格好ではない。

「スリルって、味わうのはあたしじゃない!? ふざけんなっ」

 そう言いそっぽを向く女性。

「そう怒るな、エル。森に入ってからずっと樹の上で息を潜めるだけだったオレの気持ちも考えてくれ」

 クラウドと呼ばれた青年はまたもや気だるげに言いながら――彼の一般的な喋り方である――狼もどきの背中に突き刺さったままのナイフを引き抜いた。狼もどきは既に死んでいたため、噴水の如く血が吹き出ることはなく、少しだけ流れ出るに留まった。

 血糊をそこらの葉っぱで綺麗に拭き取り、帯と背中で挟んでいる鞘に仕舞った。

「知らないわよ、そんなこと。ヒマだったなら参加すれば良かったのに……。ってかそもそも何で後衛のあたしが前線に出て、前衛のアンタが後方支援なのよっ!?」

 振り返りながら叫ぶ女性、もといエルはクラウドに詰問した。

「ン? 何故も何も最初からそういう約束ではなかったか? オレはそう記憶しているが?」

 クラウドはあくまでマイペースに返す。

 このようにリラックスしていられるのも、近くに害獣がいないと認識しているためである。

 害獣とは、簡単に言えば人に危害を加える獣である。町に下りてきては作物を食い荒らしたり、街道の移動中に襲ってきたりと、その被害は多岐に渡る。しかし、中には人間の都合によって害獣指定されているものもいるので、一概に害獣全てが悪いとは言えない。

「そ、それは……そうだけど……」

 反論出来ずに口ごもる。

 エルもしっかり覚えていたのである。

 その様子を見たクラウドはうむうむと頷いた後、狼もどき――名を『フォレストウルフ』という――の死骸の数を数え始めた。

「ひい、ふう、みい……、よし。規定数は確りいるな。ではエル、さっさと舌を引っこ抜くぞ」

 クラウドはフォレストウルフの死骸に向かいながら、先ほどとは違うナイフを袖の中から抜いた。そして、死骸の口を大きく開けて舌を引っ張り出し、それをナイフで切り裂いた。

「…………」

 エルは暫くクラウドを睨んでいたが、すぐに渋々ながら右太股に巻き付けている鞘からナイフを抜き、別の死骸に近づいた。



***********



 先ほどの森から西へ更に二、三十キロほど行った所に一つの国がある。

 大きな王城を中心に円を描く背の高い城壁が内から外へ、合計四枚広がっている。しかし、国の外から見ただけでは外壁しか見ることができない。

 その国の名は『ツェツァリ王国』。代々ツェツァリ一族が治めるローレンシア大陸最大の国である。

 その国の外側から二番目の区画――城壁で区切られた土地を区画と呼ぶ――である商業区に、商業区の中では一番大きな建物がある。

 『ローレンシアギルド―ツェツァリ本部』

 ローレンシア大陸にある全ギルドの総本部であり、世界の五大陸――残りの一つはまだ未開拓のままである――の本部を纏めた、通称『中央ギルド連合』の一角でもある。

 そこの一階のカウンターの一角で、クラウドとエルは依頼達成の証拠であるフォレストウルフの舌の入った袋を受付嬢に提出し、報酬を受け取った。

「よぉし、依頼完了! どうする、部屋に戻る?」

 軽く伸びをしながらエルがクラウドに訊ねた。

 このツェツァリ本部では優先契約を結んだ傭兵に部屋を貸し与えている。

 優先契約とは、ギルド側が契約者にやってもらいたい依頼ができた場合、その契約者は、他の依頼を途中キャンセルしてでもその依頼を行わなければならない制度である。

「フム、そうだな……」

 クラウドは考え込みながら歩く。

 しかし、前方不注意により――

 ガンッ

「いって、何すんだクソボウズ!?」

 ガラの悪そうなボディービルダーのような体格の男と肩をぶつけてしまった。

 クラウドはぶつかった男をチラリと見て、その男が無駄に高そうな鎧を着ているのを確認し、この程度で痛いはずがないのだがなぁ……、と思ったが口には出さず、

「あぁ、済まん。少しも気付かなかった」

 憎まれ口をたたいた。

 それを聞いたエルは軽く頭を抱える。

「ンだと、テメェ。誰に向かって口たた……い……てん…………」

 男は急に口を閉じると、クラウドをジロジロと見て、嫌な笑みを浮かべた。

「これはこれは御高名なる『暗殺者アサシン』さんではないですか。どうですか、最近調子の方は?」

 それを聞いた周りの傭兵逹は「あれが噂の……?」「あ、でもあの真っ黒な出で立ちは……」とざわつき始める。

 クラウドはその顔から表情を消した。

「ン? 何か用か?」

「ええ、ランクが“たった”の77で二つ名を貰えたあなた様に少し御教授願いたいと思うのですが」

 男はたった、を強調してバカにした口調でクラウドに提案する。

「……面倒だ。エル、お前がやってやれ」

「イヤよ、あたし今回全くの無関係だもん」

 その返答を聞いたクラウドはやれやれとため息をつく。

「至極面倒……、だが、ここで無視等したら後々更に面倒になりそうだな……。仕方ない、少々相手をしてやるか」

 それを聞いた男はイヤな笑みを殊更深めて、

「それは有難い。因みに、俺様のランクは……61なんだけどな!」

 いきなり腰に差していた剣を抜き、斬りかかった。

 完全なる不意打ちに周りの傭兵逹は驚いて体を硬直させるが、一番体を硬直させたのは、

「な……に……!?」

 不意打ちをした男だった。これは比喩表現ではなく、本当に体が動かなくなっているのである。

「な……なんで……!? クソがぁ!!」

 男は力一杯体を動かそうとするが、ぎりぎりと鎧を引っ掻く音が聞こえるだけでやはり動かない。

(な、何故!? …………! 鎧を……引っ掻く音!?)

 男の顔が、一つの答えを出したことを如実に表していた。

「ほう……、気付いたのか。なかなかどうして、頭の中まで筋肉というわけではないのだな……」

 それに気付いたクラウドは嘲笑を浮かべながらまた憎まれ口。

 しかし、男にはそんなことを気にしている余裕はない。

「い……糸か……!?」

「ご名答。正式名称は銀糸、と呼ぶのだがな」

 クラウドはあの一瞬で左手にある銀糸を建物の天井の梁の上を通過させてから男に巻き付けたのだ。

 周りもその早業に唖然としていた。

(しかし……、こいつの細腕で……このオレの全体重を支えているだと!?)

 そう。男の体重は百キロを越える巨漢なのだ。それに比べてクラウドの体重はどれだけ重く見積もっても七十キロは越えない。大きな建物を支える天井の梁ならまだしも、クラウドの細腕で百キロもの重さに耐えているのだ。普通では信じられないことだ。

「……ダメだな、あぁダメだ、全然ダメだ」

 クラウドはそう言うと大きくかぶりを振った。その顔はとても面倒そうで、退屈そうだった。

「人を見かけで判断するなと習わなかったのか? あと、その無駄に高そうな鎧」

 今度は右手で懐からナイフを取り出した。それをゆっくりゆっくり鎧の関節部分に突き入れていく。

「動きやすくするためかは知らんが、それにしても隙間が開きすぎだ。これでは狙ってくれと言っているようなものだぞ」

 ナイフの先端が皮膚に触れる。

 男の体がビクッと震える。

 それを見たクラウドは今までの一連の中では見せなかった表情――つまらなそうに顔をしかめた。

 そして右腕に力を入れ、刺そうとして――

「ハーイ、そこまで。ギルド内での戦闘行為は禁止だってのは、知らないわけではないわよね?」

 文字通り第三者の手によって止められた。

 クラウドがそちらを見る。

「……シャイナ……さん……」

 そこには優しい笑顔を浮かべた――目は笑っていないが――妙齢の女性、シャイナ・フォルクが立っていた。

 少々クセっ気のショートボブの茶髪に、ブラウンの瞳(笑っていないが)をしたシャイナはクラウドを見て、更に笑みを深めた(そのため、笑っていない目が余計に際立った)。

「こっちのオニイサンはともかく、君は“当然”知っているわよねぇ、『クラウド・エイト』君?」

 シャイナがフルネームで人を呼ぶとき、それは彼女が怒っているときだ。

「あ、ン……、はい」

 その答えを聞いたシャイナは満足そうに頷き、

「では、少し奥に来てください。もちろん、あなたも」

 彼女が振り向いた先は件の男ではなく――

「え!? 何であたしまで!?」

 エルだった。

 思わぬ攻撃に目を見開くエル。

「貴女の相棒が問題を起こしたのよ、あなたも責任を負わなきゃ」

 そして、またシャイナは笑みを深めた(目は以下略)。

「しかも止められる立場だったのに敢えて止めなかった……、これは立派な罪になると思わない、『エルヴィネーゼ・マクスウェル』さん?」

 エルの体は知らず知らずの内にガタガタと震えていた。

「そ、そうデスネ。罪デスネ……」

 体が震えてうまく喋れないエル。

 それを見たシャイナはまたもや満足そうに頷くと、二人を連れ(連行し)て建物の奥へと続く扉を開けた。






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