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Aの革命  作者: r_SS
第2章
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帰省

 (そう言えば明日は秋分の日だっけ。通りで最近空が暗くなるのが早いと思った。)

 例によって井田あきよが経営する食堂でのアルバイトからの帰り道にて、海原あいりはふと暗くなりかけた空を見上げながら自転車のペダルを漕いでいた。途中すれ違い様に『ヨーロッパの広場』から家路につく小学生の集団に出会いながらも、あいりはそのまま自転車で夜道を走り続けた。


「ただいま~。あれ?誰か来てるのかな…。」

 自宅の玄関にて靴を脱ごうとしたあいりがふと下に目をやると、見慣れぬ男性物の革靴が置いてあったのだ。すると奥の居間から賑やかに歓談している声が聞こえて来た。

「ねぇ、誰かお客様でも来てるの?……………えっ!!!!!!嘘でしょ!!!!!」

 居間に入ったあいりは、その客人の顔を見て驚いた後、歓喜の声でその人物を出迎えた。

「正平お兄ちゃん!!!!!!!どうしちゃったの???随分久しぶりじゃない!!!!!」

 玄関にあった革靴の持ち主は、諸事情により現在別々に生活している、海原家の次男こと、萩田正平だったのだ。

「あいり、お帰り。随分と久しぶりだな。」

 次兄の正平は、自身に甘える末妹の海原りりかをあやしながら、帰宅したばかりのあいりを微笑みながら出迎えた。


「それにしても正平お兄ちゃん、仕事忙しいんじゃないの?だって『官僚』じゃん!うちらと違ってすっごいエリートなんだし、毎日毎日偉い政治家の先生とかの相手したりして、すっごい激務な印象があるんだけど?今だって高価そうなスーツをビシッと決めてるじゃん!」

「あいり、それは大げさだよ。『官僚』って言ったってイチ公務員に過ぎないんだしさ。給料だって仕事の割にはたかが知れているし。そんなに大騒ぎする程でもないよ。」

「あはは、もう正平お兄ちゃんってば謙遜しちゃってさ!あははは!」

 長い間会っていなかった次兄の『里帰り』により、あいりは上機嫌であった。


 萩田正平 29歳

 幼少期までは『海原』姓にて実母萩田鶴子と共にあいり達一家円満に生活をしていた。しかしながら正平が中学校卒業と共に『大人の事情』で両親が離婚する事となった。そして『一般市民階級』出身の実母が正平のみを連れて海原家、即ち『被差別コミュニティ』を後にし、以降は母親の旧姓である『萩田』姓へ戸籍名を変えた上で、正平は萩田家の一員として名門進学高校へと通い、現役で東京大学法学部を卒業した後は官僚としてエリートコースを歩む様になったのだ。

 そして正平の様な『底辺から這い上がった成功者』を身内に持った海原家にとって、普段理不尽な差別を受けている中で唯一の希望の星であり、特にあいりにとっては頭脳明晰な上に温厚な性格の次兄こそ、『自分にとって理想の男性像』として捉えている節さえ感じられたのだ。 

 

 ここまで来るともうお察しの事かと思うが、『被差別コミュニティ』出身者であっても、海原家の様に片親が当該コミュニティ以外の出身者の場合、死別や離婚など、何らかの理由で婚姻関係を解消すれば当人(今回の場合はあいり達の実母萩田鶴子)は勿論の事、萩田正平の様に被差別コミュニティ出身者ではない片親側に引き取られた場合に限り、子も『被差別コミュニティ出身者』という身分から解放され、『一般市民階級』として扱われるシステムとなっていたのだ。

 何とも不可思議なシステムとしか言いようがないが、両親共に『被差別コミュニティ出身者』の家庭と比較したら、同コミュニティ内に於いて海原家は比較的恵まれている立場であったのだ(それ故に、同コミュニティ内でも格差が生じている現状は否めない側面もあるのだが)。


「おいおい何言ってんだよ、あいり。まぁ俺らも色々とあるけどさ、何だかんだ言ったってこの家から正平みたいに飛びぬけた奴がいるってだけでも凄い事だと思うぜ。」

 長兄の優が缶ビール片手に、上機嫌な様子で言った。

「そうだよな。本当だったら優やあいり、亮太もりりかも公平にきちんとした教育受けさせてやりたかったけどよ、何しろ俺が甲斐性なしのせいで、お前らや母さんには苦労かけさせっぱなしで申し訳ないことをしちまったよ。だからせめてガキの頃から母さんに似て超優秀だった正平だけでもきちんと大学まで行かせてやりたいって事で別々に暮らす事になったけど、今こうして立派に育った息子を見て俺は感無量だよ!」

 実父洋も立派なエリート社会人に成長した息子を見て誇らしげに語った。

「父さん、そういうの、もう本当にやめてくれないか?そりゃ父さん母さんには感謝してもしきれないけどさ、自分だけ恵まれた環境にいた中で、優兄さん達他の兄弟が犠牲になったって考えただけでも心苦しいんだからさ…。」

 正平は申し訳なさそうにこう言った。そして差別的な意味ではなく、元々温厚で心優しい性格もあるが、やはり他の家族と比較して、非常に知的で洗練された印象のある正平であった。


「もう正平お兄ちゃんってば、水臭い事言わないでよ。別にうちらは気にしていないからいいんだってば!だって別れて暮らしたって時々こうして会いに来てくれたり、忙しい時だって手紙をくれたりしてくれたじゃん。

 それにうちらの誕生日には必ずプレゼントを送ってくれたり、特に社会人になってからは金銭面でも色々と援助してもらって、うちらこそ正平お兄ちゃんには足を向けて寝られない程なんだから!」

 自分達家族を置いて出て行った実母の萩田鶴子に対しては相変わらず複雑な感情を抱いていたあいりであったが、先述の通り正平とは非常に良好な関係を築いており、離れ離れになった後も定期的に連絡を取り合っていたのである。


 長兄優も実母が自分達を置いて海原家から出て行った事に対して当初こそ複雑な思いを抱いていたものの、自身の成長につれ大人の事情を理解する様になり、現在は特段恨み等と云った感情を抱く様な事もなく、長弟に対してもあいりと同様に良好な関係を築いていた。

 末妹のりりかは当時赤ん坊であり、尚且つ先天性のハンデを背負っている事が幸いしたのか、正平に対しては『自分を可愛がってくれる優しいお兄ちゃん』と云う認識しかなかった。

 しかしながら一方で実弟の亮太は当時5歳と云う一番甘えたい年頃に母親から『見捨てられた』事から実母に対してはあいり以上に激しい憎悪を抱いており、尚且つ『成功者』である正平と『ならず者』の自身とを比較しては、やり場のない怒りと劣等感を感じずにはいられなかったのだ。


「特にホラ、亮太が学校で問題を起こした時にさ…」

 あいりが正平達家族と共に一家団欒の最中、実弟の海原亮太が外出先から帰宅したのだ。

「おい何だよ、お前。俺が何だって?」

 いつもの如く憮然とした態度であいりの背後に立っていたのだ。

「何だよ、何でここに正平の奴がいるんだよ?ババアと一緒にこの家出て行った癖してよ。俺らの事バカにしに来たのか?」

 亮太は久々に帰省した次兄の顔を見た途端舌打ちし、悪意剥き出しな態度で難癖をつけて来た。

「亮太、アンタいい加減にしなよ。わざわざ忙しい所時間を割いて正平お兄ちゃんが帰ってきてくれたんだよ?それに正平お兄ちゃんがアンタのピンチを救った事、忘れた訳ではないでしょうね?」

 正平に対して喧嘩腰の態度を取る亮太にいらついたあいりは、思わず声を荒げた。

「チッ、そんなの知るか!!!!!こっちは別に正平の野郎に『助けてくれ』だなんて頼んだ覚えはねぇんだよ!!!!」

 例によって短気を起こした亮太はドシドシと大きな足音を立てながら、そのまま自室のある二階へと上がろうとしたが、

「お帰り亮太。久しぶりだな。元気で過ごしてるか?」

 正平が穏やかな表情と口調で実弟に近づき、その肩をポンと叩きながら、優しい笑顔を見せた。

「ハァ?テメェ何すんだよ!!!!!気色悪ぃ事すんじゃねぇよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 亮太はその手を乱暴に振り払い、そのまま自室へと足早に立ち去った。


「やれやれ、亮太の奴相変わらずだな。正平、あんまり気にすんなよ。」

 長兄の優が次弟亮太の『キレっぷり』に対して呆れつつ、長弟正平に慰めの言葉をかけた。








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