灯の会解散後
「ところで埴科君、つかぬ事を聞いて良い?」
突如香子が身を乗り出し、透にある事を尋ねた。
「あ、ああ…別にいいですけど。何ですか?」
透はちょっと戸惑いを隠せない反応を見せた。
「つい最近昔の仲間から聞いたんだけど、埴科君さ、今、何だか危険な仕事をしているんじゃないかって云う噂が立っているんだよね。」
香子はその噂に対して半信半疑でいたものの、念の為に確認したのだ。
「ええっ?俺、そんな噂立てられていたんですか?参ったなぁ…。香子さん、そんなの単なる噂っすよ。」
透はこう言いながら、苦笑いをした。しかしながら【やばいか否か】は置いといて、実際の所フードジャーナリストを装って海原あいり達【被差別コミュニティ居住者】に近づき、そこで得られた情報を【迷惑系ジャーナリスト団体】に提供している身である事は、紛れもない事実であったのだ。
「香子さんこそ今何しているんですか?」
今度は透が香子の近況を尋ねた。
「私?別に…まぁ、適当に色んな学校で非常勤講師を掛け持ちしている程度よ。」
香子は透からの質問に対して、適当に答えた。
「それにしても。」
香子が口を開いた。
「どうしたんですか?香子さん。」
「私さ、今まで本当に灯哉さんの生き様や考え方を心から尊敬して、愛して、信じてやまなかったのに、谷崎君…とも呼称したくないか、あの【殺人鬼】から灯哉さんが酷い目に遭わされた事を考えると、蓮田麗羅って政治家が唱える事も一理あるんじゃないのかって思うんだよね。」
香子は突如、最近急進的に名を馳せるようになったポピュリスト系女性政治家の蓮田麗羅の主義主張に共感めいた発言をした。
「香子さん、いつの間に彼女の信奉者になったんですか?」
透が驚いた表情で口を開いた。なぜならば【灯の会】自体が困っている人に手を差し伸べる非営利団体であったのに対し、【自己責任論】を振りかざす蓮田麗羅とは真逆の立ち位置であったのだ。にも拘わらず、その団体の主催者の元婚約者であった江田香子自らの口から【蓮田麗羅の主張にも一理ある】との言葉が出た事自体、透にとってかなりの衝撃だったからだ。
「ちょっとやめてよ、冗談じゃない!いくら何でもあんな差別主義者と一緒にしないで。そんな事したら彼が悲しむでしょ?」
香子は【いくら何でも差別主義者になる程落ちぶれてはいない】と言いたげな表情で返した。




