灯の会 後編
「埴科君、私も以前はあなたと同じボランティアスタッフだった事を思い出したわ。」
透の目の前で江田香子がコーヒーを一口飲みながら、同じく『灯の会』の元ボランティアスタッフであり、代表者の尾崎灯哉の元婚約者であった頃を回想した。
埴科透が『灯の会』メンバー加入するもっと前の事、当時社会科教師だった江田香子は、当時勤務していた私立高校にて事なかれ主義の経営者陣と自身の間にて理想と現実のギャップに悩んだ末に退職した後、偶然『灯の会』の存在を知る事となった。
香子が加入した当時は団体そのものが設立したばかりでメンバーも代表者の尾崎灯哉と、彼と同じ思想を持ったごく親しい仲間が2~3人いる程度の、本当に仲間内程度の集まりであった。しかしながら香子自身元社会科教師と云う事もあり、特に社会的困窮者に対する関心も強い方であった事が功を奏し、加入早々現場での活動を精力的に取り組んで来たのだ。その後活動を続ける内に代表者の尾崎灯哉との間がより親密になり、やがて恋仲を経て婚約までに至ったのだ。
そう、『その日』が来る前までは、公私ともに香子は幸せの絶頂の中にいたのだ。
ある日通常通り『灯の会』の事務所へ出勤した香子は、いつもであれば朝早くから灯哉が事務所内で仕事をしている姿を目の当たりにする所、どういう訳かこの日に限っては玄関のカギが開いているにも関わらず、人の気配が感じられなかったのだ。通常とは違う光景に違和感を感じた香子は、周囲を見回しながら灯哉の事を探したのだ。
「灯哉さん?どこに行っちゃったんだろう?」
トイレで用を足している気配もなく、かと云って近所のコンビニに出かけている様子もなかったのだ。
「嫌だ、灯哉さんってば一体どうしちゃったんだろう?」
灯哉のデスクにはコート等私物類が置きっぱなしである事から、既に事務所内にいる様子であるにも関わらず、本人の姿が全く見えなかったのだ。
「ん?何だろう、さっきから生臭い匂いがするんだけど…?」
先程から何となくほのかに生臭い匂いが鼻についた香子は気になり、その匂いの発生元である、薄暗い物置部屋へ香子が足を踏み入れると、床に妙な液体が辺りに広がっているのに気づいた。
「ちょっと何、コレ…?」
何だかその液体に嫌な感じを覚えた香子は、物置部屋のスイッチを入れ、灯を付けたのだ。その瞬間、香子は自身の目の前に飛び込んだ『あるモノ』に対して、香子は『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』と、今までに発した事もない様な悲鳴をあげたのだ。
そこには全身打撲により、特に顔面部はひどく腫れ上がり、一体誰なのか見分けがつかない程に何らかの凶器で殴られ続けたのである事が容易に分かる程の、変わり果てた尾崎灯哉の惨殺死体と、傍に血だらけの木刀を手に握りしめ、放心状態で立ったままの、『灯の会』で熱心にボランティア活動に取り組んでおり、自身も【被差別コミュニティ出身者】である谷崎慎吾の姿があったのだ。




