目的
「ただいま戻りました。」
海原あいりの生活拠点である『被差別コミュニティ』から公共交通機関を経由して、『一般階級エリア』内へ戻った埴科透は、その足で自身を『自称フードジャーナリスト』として業務委託登録を行っている事務所内へ直行した。
「埴科く~ん、遅いよ。全くどこで道草食ってんのかと思って心配しちゃったよwwwwところでさっき電話口で言ってた【有力な情報提供者】見つけたんだって?さっすが埴科くん!!!!君さ、マジで仕事早いよ~!!!!!!!!!!!」
全体的に胡散臭さが否めない委託先の責任者が、にやついた笑みを浮かべながら、出先から戻って来た埴科透の肩をポンポンと叩きながらこう言った。
「ええ、まぁ…。」
透は苦笑いをしながら返事すると、
「ところでその【情報提供者】ってどんな人なの?まぁ場所が場所だからさ、イカツイ系だったり水商売系だったりするの?」
その責任者は変な意味で興味津々に尋ねると、
「いや、地元の食堂でアルバイトをしながら小説家を目指している、若い女性ですよ。」
埴科透は【情報提供者】の詳細についてこの様に説明した。それは海原あいりの事であった。
「おいおいおいおい、はっにしなちゃーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!君やるねぇ!!!!!!!俺さ、てっきり人の良さそうな爺さん婆さんかと思ったけど、よりによって、まさか若い女の子を【引っ掛ける】だなんてさ!!!!君もなかなか隅に置けないねぇ~wwwwwwwwwww」
その責任者は好奇心剥き出しの表情を露わにし、透の事を嘗め回す様な目つきで反応した。
そこの事務所は表向きには『マスコミ系』と謳ってはいるものの、実態は真偽不明なB級ネタを扱った動画や書籍を等を扱う、所謂『迷惑系素人ジャーナリスト』の集まりであったのだ。それはまさしく今現在『被差別コミュニティ』在住者にとって天敵である相手であった。そしてよりによって、『フードジャーナリスト』として海原あいりに近づいた埴科透の正体は、お世辞にも品性があるとは言い難い迷惑系ジャーナリスト集団に加担している、所謂【スパイ】の様な存在だったのだ。
「とりあえず仕入れたネタ、渡します。」
透はシャツの胸ポケットに忍ばせていた超小型録音機を取り出し、井田あきよの店での会話記録や先程まで海原あいりと共に訪れた『ヨーロッパの広場』での会話記録全てを、その迷惑系ジャーナリスト集団の責任者に渡した。
「埴科君、サンキュ!はい、今日の報酬ね♪」
如何にも下世話好きそうなその責任者は、札束が入った報酬袋を投げつけるかの如く、透に渡した。
「それじゃあ俺、今日はこの辺で失礼します。」
透は無表情でその袋を自身の懐に収めた後、その場を後にした。
(俺、一体何やっているんだろう?こんな姿、灯さんが見たらどう思うんだろうか?)
透はどこか寂しさを隠せない表情で歩き続けた。
(だけど仕方ないだろう?何の取り柄もない俺を拾ってくれた灯さんを傷つけた相手に仇討ちするにはこれしか方法がないんだよ。)
透は『被差別コミュニティ』に足を踏み入れた本当の目的を、恩人である尾崎灯哉の仇討ちであると正当化させようと、必死で自身に言い聞かせていた。
間もなく自宅があるワンルームマンションへ着きそうな所、背後から1人の女性から声を掛けられた。
「埴科君…、だよね?随分と久しぶりね。」
数年振りの江田香子との再会であった。




