表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aの革命  作者: r_SS
第四章
24/28

ヨーロッパの広場 後編

 「埴科さん、あそこですよ。あの銀杏並木を通ると『ヨーロッパの広場』に着きますよ。」

 あいりは目の前にある銀杏並木の通りを指差しながら透に説明した。

「へぇ…、そうなんだ。この銀杏並木だけでも今時珍しい位綺麗なのに、その奥に行くとどんな感じの景色になるんだろう?」

 『ヨーロッパの広場』へ向かう一本通りの両側に、黄金色の銀杏が並んでいた。その風景だけでも十分に見応えがあるのに、さらに奥に向かうとどんな景色が待ち構えているのか、透は興味津々であった。

「とりあえず行ってみましょう。」

 あいりは透を『ヨーロッパの広場』へ向かう一本通りをゆっくりと連れて行った。


「そう言えばこの前電話した時も聞いたけどさ、海原さんってまだ20代前半だったよね?女性に対して年齢の話を聞くのも野暮だけどさ。」

「いえ別に気にしてませんから。12月に23になりますよ。」

「ああ、若いっていいよね。俺さ、前にも言ったけど今月で35だよ?俺みたいなオッサン相手にさせちゃって何だか悪いね。」

 あいりと透は他愛ない会話をしながら『ヨーロッパの広場』へ向かう一本道を進んだ。

「ええっ?埴科さん誕生日今月だったんだ!!!!おめでとうございます!!!!!それじゃあ今度あきよさんに特別メニュー作ってもらう様に頼んでおきます!!!!!!」

 透が11月中に35回目の誕生日を迎える事を知ったあいりは、ささやかな誕生日会を開こうと、後日井田あきよに提案する事を考えた。

「埴科さん、着きましたよ。ここが『ヨーロッパの広場』です。」

 あいりと透が他愛のない会話を続けている内に、『ヨーロッパの広場』へ到着した。


 (えっ…ここ……………。なんて場所なんだ!!!まさか、『被差別エリア』内にこんな素晴らしい場所があっただなんて…)

 埴科透は目の前にある光景を見て、思わず息を飲み込んだ。季節柄紅葉シーズンがピークと云う事もあり、黄金に輝く銀杏の木々の下、広場内を駆け回って遊ぶ小さな子供達、ベンチに腰を掛けながら紅葉を楽しむ高齢者達、散歩をしながら楽しい時を過ごす若い男女達、サイクリングや犬の散歩に勤しむ中高年達など老若男女問わずゆったりとした時間を過ごしていたのだ。そしてそこはとても『人々から忌み嫌われる場所』とは全く正反対の『地上の楽園』と比喩されても全く違和感がない程であったのだ。

 (本当にこんなに素晴らしい景色は見た事がない。あの灯さんからも『ヨーロッパの場所』について話を聞かされた事はなかったのに…。灯さん、この場所を知っていたのだろうか…?)

 あまりにも美しいその光景に透はしばらくの間圧倒されていたのだ。そして『ヨーロッパの広場』に関しては、あの尾崎灯哉の口からでさえ聞いた事はなかったのだ。


「いや…、びっくりしたよ。まさかこんなに素晴らしい場所があったなんて。俺、全然知らなかった…。」

 美しい光景を目の前にしばらく声が出なかった透が、やっとの思いで口を開いた。

「良かった!埴科さんもご存じの通り、『被差別エリア』なんて外の人達から見たら絶対に足を踏み入れたくない場所だと思われがちなんだけど、『ヨーロッパの広場』はうちら被差別コミュニティ住民にとって唯一の誇りなんだ!」

 あいりは透を『ヨーロッパの広場』に誘って良かったと心底感じていた。そしてそこはあいりの言う通り、一般社会から蔑まれる事が多い『被差別エリア出身者』にとって、唯一誇れる場所が『ヨーロッパの広場』であったのだ。



「そうそう、本当ならここで正平お兄ちゃんの誕生日を祝う予定だったんだよな…。」

 ふと先日自ら命を絶った次兄の萩田正平の30回目の誕生日祝いを『ヨーロッパの広場』で行う計画を立てていた事をあいりはポツリと呟いた。同時にその誕生日祝いを行うはずだった9月秋分の日の早朝、正平の変わり果てた姿を目の当たりにした事がフラッシュバックし、あいりの呼吸が荒くなったのだ。

「ちょっと、海原さん落ち着いて!!!大丈夫、大丈夫だから。さぁ、ゆっくりと呼吸して。」

 透は突然フラッシュバックを起こしてパニック状態となったあいりの背中をさすりながら、何とかあいりの高ぶった感情を落ち着かせたのだ。


「ごめんなさい…、私ったらつい正平お兄ちゃんの事を思い出しちゃって…。もう49日法要も過ぎたのに。」

 若干まだ荒い呼吸ではあったものの、透の介抱によってあいりは何とか気を落ち着かせた。

「こっちこそ申し訳ない。俺がさっき自分の誕生日の事を触れてしまったせいで…。余計な事を言って本当にゴメン。」

 透は先程自身が間もなく誕生日を迎える話をしたせいで、あいりに萩田正平の事を思い出せてしまったのではないかと心配になり、謝罪した。

「そんな、とんでもない!!!!!!埴科さんのせいじゃないです!!!!!!!!」

 あいりは咄嗟に否定した。透のせいにするどころか、むしろ互いの顔が至近距離に近づき、あいりの背中に透の手が直接触れた事に対して、あいりは過剰なまでの意識を感じていたのだ。

「ああ、ごめんなさい。あきよさん1人じゃ仕込み大変だから、私そろそろお店に戻らないと。」

「こっちこそ時間取らせちゃったね。俺もこれからちょっと用事があるし、後は1人で帰れるよ。今日は本当に素晴らしい場所に案内してくれて、本当にありがとう。」

 2人は互いの用事がある為、その場で別れた。


 井田あきよの店に戻った海原あいりの背中をしばらく見つめていた埴科透は、ポケットからスマートフォンを取り出し、とある場所へ発信した。

「ああ、もしもし。埴科です。ええ…、ええ…、はい、そうなんですよ。なかなか都合の良い『情報提供者』が現れて、今さっきその人物と会ったばかりなんです。ええ…、ええ…、まぁ詳しい話は又後程しますんで。」

 その電話を切った透は、先程まであいりに見せた、多少影はあるものの、比較的落ち着いた表情から一転し、どこか含みのある表情を浮かべていた。

 (別に彼女には何ら責任はない事なんだけどね。)

 透は海原あいりの顔を思い浮かべながら、この様に呟いたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ