ヨーロッパの広場 前編
「ええっと、店を出てからそんなに時間経ってないし、まだ近くにいると思うんだけど…」
井田あきよに背中を押された海原あいりは、埴科透が置き忘れたマフラーを手にしながら、まだその辺に透がいるのではないかと思い、辺りを探し回った。しかしいる気配は全くなかったので、先日受け取った名刺に記載されている携帯電話番号へ発信した。
「もしもし?」
「埴科さん!!!私です、海原あいりです!!今どこにいるんですか?店にマフラー置き忘れてたみたいだから、今届けに行っている所なんですけど。」
「あっ!!!!しまった。俺とした事がうっかりしてた…。海原さん、今どの辺にいる?俺がそっちに向かうよ。」
電話口にて忘れ物に気づいた透は、慌ててあいりの元へ向かった。
「ごめんごめん、仕事中だったよね?」
しばらくして透があいりの元へ駆けつけ、息を切らしながらお詫びをした。
「いえいえ、大丈夫ですよ。それよりマフラー渡しますね。」
あいりは上質そうなマフラーを透に返した。
「ああ、ありがとう。」
透はそのマフラーを手にすると、
「あ、あの…埴科さん?」
あいりが透の顔を覗く様に、緊張気味に尋ねた。
「その…、ええっと…今、時間空いてます?近くに紅葉が綺麗な場所があるんですけど…、宜しければ立ち寄ってみませんか?」
あいりは被差別コミュニティ居住者にとって唯一の誇りである『ヨーロッパの広場』へ透を誘ったのだ。
「あ…、いや…。まぁ1時間位なら大丈夫だけど…。」
突然のあいりからの誘いに透は一瞬戸惑ったが、1時間程度ならと云う事で彼女の誘いを受けた。
「ああ、良かった。紅葉がとても綺麗な場所で、丁度今ピークの時期だから。是非埴科さんにも見てもらいたかったんです!本当にすぐ近くなんで時間は取らせませんから大丈夫です。」
断られたらどうしようと内心不安でいっぱいだったあいりであったが、ホッと胸を撫でおろした表情で、早速『ヨーロッパの広場』へと向かった。
そしてあいりは心の中で
(あきよさん、背中を押してくれて感謝!!!!!!!!)
とガッツポーズを決めたのである。




