表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aの革命  作者: r_SS
第3章
13/28

井田あきよの過去 前編

 

「ごちそうさん、今日も美味しかったよ!」

 娯楽誌の執筆業務に続き、あいりは井田あきよが切り盛りする食堂でのアルバイトも復活させていた。

「あきよさん、長らく休んでしまってスミマセン。こんなに忙しいのに、1人で対応するの大変だったんじゃないですか?」

 食堂にはあいり以外のアルバイトスタッフがいない為、忌引休暇中は井田あきよ1人で店を切り盛りしなくてはならなかったのだ。

「もう嫌だ、あいりちゃんってば水臭い!そんな事ぜんっぜん気にしなくていいんだから!!!

 それよりあいりちゃんもう大丈夫なの?ウチの店を手伝ってくれるのは本当に有難いんだけどさ、只でさえ正平君の事だってまだ色々大変なんでしょ?店の事だったら全然気にしなくて大丈夫だからさ、もう少し休んだ方がいいと思うよ?」

 あいりは娯楽誌の執筆活動に続き、井田あきよの店でのアルバイトもすぐさま復帰したものの、やはりどこか疲れが出ている様子が出てしまったのか、あきよはあいりの事を心配した。

「いや、もう大丈夫です。と言うか、正平お兄ちゃんの事でずっと家に籠っていると却って気が沈むし、こうして外に出て働いている方が気が楽なんですよ。」

 あきよの心配をよそに、あいりは笑顔でこう返した。

「そう…。それならいいんだけど。でも無理は禁物だからね。さて、ランチタイムも過ぎた事だし、うちらもそろそろ何か食べようか。」

 衝撃的な萩田正平の死後から数日経過し、外はすっかり秋晴れとなった10月上旬頃、いつもの如くランチタイムのピークを過ぎた海原あいりと井田あきよの2人は一息つき出したのだ。


 (そう言えば周ちゃんがあんな事になったのも丁度今ぐらいの時期だったよな…)

 あきよはふと開店当時に店前で撮った記念写真に目をやった。そこには20年以上も前の、若かりし頃の井田あきよと先代の店主であり、且つ当時あきよと事実婚関係にあった小島周造の姿があったのである。

 あきよは当時の出来事を回想した。


  もう20年以上も前の事であった。

  当時地元外でカフェの雇われ店長をしつつ、暇さえあれば国内外問わずバックパック1つ背負って旅に出る事に生きがいを見出していた井田あきよは、ひょんな事から旅先で同じく彼女と同様、『被差別コミュニティ』出身者でありながらも地元外でシェフをしていた小島周造と云うバックパッカーに出会ったのである。

  元々互いに人懐っこい性格をしているのもあり、かつ互いに同じ出自であり、共に飲食関係の仕事をしている事から意気投合し、あれよあれよと云う間に恋愛関係にまで至った。


 当時既に被差別コミュニティ出身者に対する偏見は否めなかったものの、まだ世の中全般に余裕がある世相も相まって、凶悪犯罪など余程酷い事がない限りは、コミュニティ外の一般人からさほど非難を受ける事もなく、職業や生活、余暇での行動も比較的自由にする事ができた時代だったのだ。

 やがてそのまま地元外の賃貸住宅にて同棲する様になったある日、小島周造が突拍子もない事を言い出した。

「あのさ、もし俺が地元(被差別コミュニティ)に戻って自分の店を持ちたいって言ったらあきちゃん、俺について来てくれるか?」

 パートナーからの突然の言葉に驚いたあきよはしばらく黙り込んだ後、

「えっ…???周ちゃんったら突然どうしたの?そりゃあいつまでもダラダラとただこうしてアパート住まいをする訳に行かないけどさ、それにしてもなぜ、このタイミングで『地元に戻って店を開くから一緒についてきて欲しい』なんて言ってくるの!?」

 あきよはこの時、周造の真意が全く分からなかったのだ。


「ちょっと周ちゃんってば一体どうしちゃったのよ?よりによって、どうして地元に戻りたくなったの?」

 いくら当時は今ほど被差別コミュニティ出身者に対する偏見はなかったと云えども、やはり無意識に差別を受けている感が否めず、あきよの様に一度コミュニティ外へ生活拠点を移した出身者の大半が、あえて差別を受ける様な場所に戻りたいと思う者は皆無に等しかったのだ。にも拘わらず、唐突に地元に帰りたいと言い出した周造の真意を改めて確認してみた。


「うーん、別にそんなに大げさな話ではないんだけどさ。強いて言えば俺もあきちゃんも旅先で色んな出会いがあったり滞在先で歓迎してもらったりした経験って多いじゃん?それこそ身分とか肌の色とか、もっとぶっちゃけて言うとさ、旅先では俺らの『出自』なんて全く関係なくなるんだよね。」

 周造は更に続けた。

「まぁ元々俺もそろそろ料理人として独立すべき時期が来たんじゃないかな~って思ってたし、それならさ、どうせ独立して店を持つのなら思い切って地元に戻ってさ、『どんな理由があっても縁あって俺らの地元に足を運んで来てくれた人を笑顔で迎え入れる店にしたい』って真剣に考えるようになったんだ。」

 この様に笑顔で語る周造に対して、あきよ自身も旅先で自身の出自関係なく温かく受け入れてくれた人々や環境の事を思い出した。そしてパートナーである小島周造の真意を知り、

「分かった、私も一緒に周ちゃんとそのお店を切り盛りさせてよ!!!!!」

 と即答したのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ