次兄の死
萩田正平の帰省から一夜明け、秋分の日を迎えた。そしてこの日は正平の30回目の誕生日でもあった。この日は晴天に恵まれ、週末でもあった為に前日の計画通りに『ヨーロッパの広場』にて海原一家総出で正平の誕生日祝いを行う準備を早朝から取り掛かっていた。
「さて、お弁当も作り終えたしケーキももうすぐ焼きあがる所だな。」
「あいり、随分と旨そうなごちそう作ったじゃないか!ちょっと味見をさせてくれないか?」
家族6人分の弁当を作り終えたあいりの横から朝食の準備に取り掛かっていた実父の海原洋が弁当用のおかずに手を付けようとした。
「ちょっと父さんったらやめてよ!折角のお弁当が台無しになっちゃうよ!!!」
弁当に手を出そうとする父の手を、あいりは慌てて振り払った。
「あいり、弁当作り終えたばかりの所悪いんだけどさ、朝飯そろそろ出来上がるから正平を呼んできてくれるか?」
実父と共に朝食の支度に取り掛かっていた長兄の海原優が、居間に正平がいない事に気付いたので、ひと段落ついたあいりに呼んできてもらう様に頼んだ。
「うん、分かった。正平お兄ちゃん呼んでくるよ。それから父さん、私がいない間に絶対にお弁当に手を出したりしないでよ。」
あいりは実父につまみ食いしない様に強く念を押した後、正平を呼びに行った。
「正平お兄ちゃん、朝ごはん出来たから居間においでよ。」
あいりは正平の寝室のふすまを開けた。しかしながらそこに正平の姿はなかった。
(正平お兄ちゃんってば何処に行っちゃったんだろう?トイレかな…)
あいりは正平を呼びにトイレへと向かった。
「正平お兄ちゃん、ご飯だよーーーーー!!!!!」
トイレのドアをノックしながら、少々大きな声で正平を呼び出した。しかしながらそこにも次兄がいる気配はなかったのである。
(えぇ?ちょっと何処に行っちゃったんだろう…?まさか近所を散歩してるとかって事はないよねぇ…。)
正平が何処に行ってしまったのか全く見当がつかなかったあいりは、自身の寝室直下にある事業所兼物置へと探しに行った。
「正平おにいちゃーーーーーーーーーーん、どこにいるのーーーーーーーーー????」
あいりは事業所内に響き渡る様な声で正平の名前を呼び続けた。途中、何かゆらゆらとぶら下がっている様な影が見えて来た。
「何だろう、これ?」
見慣れぬ影に不審に思ったあいりは恐る恐る近づくと、何か大きな物体がぶら下がっているのが見えた。その異様な物体が何なのか、あいりはゆっくりと見上げた。そしてその物体が何なのか知った途端、あいりはショックのあまり、声を出す事もままならず、その場にしゃがみ込んだ。
「嘘でしょ………………………ちょっと何これ?意味分かんないんだけど……………………??正平兄…ちゃん……、嘘だよ…ねぇ…」
あいりの目の前には、昨日まで家族の前で楽しそうな表情を見せていた次兄萩田正平が、首を吊った状態でぶら下がっていたのだ。
そして変わり果てた姿で発見された正平の足元には『弱い自分でゴメン 今までありがとう』と記された手紙が残されていたのである。
「おーい、あいり。正平の奴見つかったのか?」
間もなくして事情を全く知らない実父海原洋と長兄海原優があいりの元へやってきた。
「あいり、お前そんな所にしゃがんで何やっているんだ?何だかお前顔が真っ青だぞ?」
優が顔面蒼白状態でしゃがみ込んでいる妹の様子を伺った。
「父さん、優お兄ちゃん、あれ…………………………」
あいりは震えた手で正平の遺体に指を指した。
「あいり!一体どうしたんだよ?何かあったのか?」
何が何だか事情が全く読めない洋と優は、あいりが指差す方向へ目を向けた。
「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!おい、一体どういう事なんだ!!!!!正平、正平、正平!!!!!!」
「馬鹿野郎!優、今すぐ救急車を呼べ!!!!!!」
2人は変わり果てた正平の姿を目の当たりにした途端絶叫し、即座に救急車を呼んだ後、即座に吊るされたロープを切って正平の体を横たわらせ、見様見真似で心臓マッサージを行った。
「ねぇねぇ」みんなどうしたの~?」
皆の騒ぎ声に気づいた末妹の海原りりかが、大事になっている事も分からないまま、ニコニコとした表情でやってきた。
「りりか、見ちゃダメだ!!!!こっちに来るんじゃない!!!!!!!!!」
昨晩沢山自身を可愛がってくれた正平の変わり果てた姿をりりかに見せぬ様、実父の洋が慌てて彼女の元へ駆け寄り、目を覆わせた。
そして物陰から、昨晩正平にとって最期の話し相手となった実弟の海原亮太が、あいりと同様ショックのあまり声を出す事も出来ないまましばらく衝撃的な光景を目の当たりにした後、トイレへ駈け込んで激しく嘔吐したのだ。
萩田正平 30歳
自身の誕生日当日の日に あまりにも衝撃的で、悲惨な姿で短い人生に幕を閉じたのだ。




