9 騎士は妖精の国へ向かう
数日後、騎士アーサーは数人の従者を引き連れ、妖精の国に出発した。
この使節団の中には、彼の執事アルフレッドも加わっていた。
アルフレッドはルフト王国東部地域の出身。妖精を見た経験もあった。
使節団は東部地域への道を進んでいた。
だんだん、町の両側の緑が濃くなり、やがて森林の中を進む山道になってきた。
アーサーが執事に聞いた。
「アルフレッドさん。このへんは、もう妖精の国ですか」
「いえ。アーサー様、まだ人間の世界です。人間がこのへんに入り、木を切り出したりしています。いわゆる『木こり』と言われる人達です。妖精はあまりいないはずです」
執事はそこで言葉を止めた。
「えっ!! 」
たくさんの妖精が森の上を飛んでいるのが見えたからだった。
「しかし、妖精がいっぱい!! ただ、妖精達は何かから逃げているような‥‥ 」
そのとおりだった。
森林のはるか向こうに巨人が立っているのが見えた。
巨人は、大きな歩幅でこちらの方に着実に歩いた来た。
「アルフレッドさn。あれは―― 」
「はい、あれはゴーレムです。たぶん、黒魔術により魔族が土から生み出したのでしょう。心配なことがあります」
騎士アーサーが言った。
「たぶん、僕が心配していることと同じでしょう」
「こっちに向かってきます」
「そして、私達がねらいのようです」
その時だった。
騎士アーサーが腰に付けた長剣のそばから声がした。
「この剣、とても良い香りがします。清らかな優しいオーラーですね。しかも大変な愛を込めた魔力が込められています。きっとキスしたのかな―― 」
彼が腰のそばを見ると、そこには妖精がいた。
「きみは妖精ですか? 」
「はい。私は緑の妖精ティアナです。今日は、たくさんの仲間達と遊んでしたら、かなり人間界の深くまで来てしまいました。そしたら、急にゴーレムが現われて」
「ティアナ、悪いのですが、すぐに私はこの剣を抜いて戦わなければなりません」
「騎士様、あのゴーレムは黒魔術で作られていますから白魔術の魔力が宿っている剣でなければ、切って壊すことはできません。もうたくさんの白魔術の魔力がこの剣には宿っていますが、追加しますね」
妖精ティアナは長剣に小さな手で触った。
すると一瞬、長剣は緑色に輝き、やがて元に戻った。
「御武運を―― 」
妖精はそう言うと飛び去った。
執事のウィリアムが言った。
「来ます。私も御助力を」
他の従者達もそこに留まり、抑撃しようと身構えた。
「みなさん。相手は超大型です。気を付けてください」
ゴーレムがやってきた。
森の木をなぎ倒しながら動き、こぶしを何回も振り下ろした。
アーサーは武人としての俊敏な動きで、なんとか、ゴーレムのこぶしを避けていた。
避けながら彼は考えていた。
(確かゴーレムを作るとき、魔法の術式を込めた核を最初に作る。そのかくの回りを土で覆ってゴーレムができる。異世界転生前に呼んだファンタジーの本に書いてあったっけ)
すると不思議なことが起きた。
森の中からたくさんの葉っぱが浮かび、ゴーレムの体の表面に貼り付いたのだ。
しばらくすると、貼り付いていた大部分の葉っぱは消え、ある部分には唯一葉っぱが残った。
そして、唯一残った葉っぱがを通じて、ゴーレムの体に中にある核の光が映しだされた。
妖精が彼を助けたのだった。
「がんばって!! 」
たくさんの妖精の声が聞こえた。
「妖精さん達ありがとう、核が光って見える」
即座にアーサーは決意した。
彼はリスクを負いながら、できる限りゴーレムの片足に近づいた。
そして、剣を一閃させ切断した。
その結果、ゴーレムは動きがとれず、その場にうずくまった。
それを見てアーサーは、ゴーレムの体に飛び乗り、光っている核の位置に近づいた。
できる限り近づいた後、彼は剣を核めがけて突き刺した。
突き刺した剣は、ゴーレムの核に見事に突き当たり、そして粉々に粉砕した。
するとその瞬間、ゴーレムの体は崩れ去れ、すべて、ただの土に戻った。
全てが終わった後、騎士アーサーは遠くの空に向かって手を振った。
そこには、たくさんの妖精が飛んでこちらを見ていた。
「妖精さん達、ありがとう」
次に、従者達に言った。
「終わりました。ありがとうございました」
さらに、執事のアルフレッドには特別な指示をした。
「アルフレッド、この場所を記録しておいてください。ゴーレムのおかげで、森林の木々がなぎ倒され、大変荒れてしまいました。木こりの人々に依頼して倒れた木の有効活用と、植林をする必要があります」
「はい、アーサー様」
「この先も注意しましょう。黒魔術により造られたゴーレムが襲ってきたということは、人間が妖精と親しくなることを魔族がよく思っていないということです。また、魔族の阻止行動があるかもしれません」
使節団は十分に注意して、妖精の国へと向かい始めた。
そこから妖精の国までには、かなりの時間が必要だった。
妖精の国に近づくに連れ、道は巧に結界で隠され外界からの侵入を拒んでいた。
しかし、妖精王オベロンは自分の親書に結界を解く鍵もつけてた。
その鍵を前方に使うと、進むべき道がはっきりと現われた。
やがて、深い深い山の中、使節団は妖精の国の入口にたどりついた。
妖精の国は、透明でとても水がきれいな川で人間の世界と区切られていた。
すると、そのきれいな川から妖精が飛びだし、アーサーの前に飛んで来た。
「騎士アーサー様、ルフト王国ウィリアム王の正使でございますね。私は水の妖精ウンディーネ、妖精王オベロンから皆様方の案内役を仰せつかっています。私の後ろにお続きください」
アーサー達は水の妖精に案内され、妖精の国の中に入り歩き始めた。
妖精の国は草木の緑、流れる水の青、そして咲き誇っている花々の色がとても美しかった。
やがて、太い幹で天の向かって伸びている巨大樹の前で妖精は止まった。
「さあ、あれが妖精王の宮殿でございます。どうぞ、お入りください」
「見たところ扉など、入口が見当たりませんが」
「大丈夫です。すぐ開かれます」
アーサー達使節団は巨大樹に近づいた。
すると、幹が2方向にスライドして入口が開いた。
中は遠くまで続く一直線な道が見え、赤絨毯が敷かれていた。
水の妖精ウンディーネの後に従い、使節団は歩き始めた。
赤絨毯の道は永遠に続き、いつまでたっても妖精王の玉座は見えてこなかった。
騎士アーサーが聞いた。
「ウンディーネさん、このままだと、いつ妖精王の元に着くのでしょうか」
「大丈夫です。あなたの心の中にが問題がなければ、すぐに玉座に近づくことができます」
お読みいただき心より感謝申しわげます。
皆様の休日を少しでも充実できれば、とても、うれしいです。
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