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8 妖精の捕獲と売買を禁止する

 ロレーヌ公爵領から返却された全ての穀物が、苦しい生活をしている各地方の平民達に配布された。


 やがて、アイリス王女が指揮した荷馬車隊は、任務を果たし王宮に帰還した。


 護衛役の騎士アーサーも役目をしっかり果たすことができた。


 数日後、アーサーはウィリアム王から王宮に呼ばれた。




 王宮の謁見の間に彼はいた。


 そこには国王の他に、アイリス王女と外務大臣のニコル・ロレーヌが同席していた。


 国王が言った。


「アーサーよ。王女の荷馬車隊の護衛、ごくろうだった。帰ってきたばかりで大変恐縮だが、新たな問題が判明したのだ。そなたの意見を聞きたいと思ってな」


「はい国王陛下。どのような問題なのでしょうか」


「ニコル外務大臣よ、アーサーに説明せよ」


「アーサー殿、妖精について御存知ですか? 」


「なんとなく知ってはいますが、知識として知っているだけで、まだ本物を見たことはありません」


「我がルフト王国の東方の森林地帯には、妖精がたくさん住んでいるのです。そして、見かけが美しくかわいらしい妖精を商人達が捕獲し、我が国の主要な輸出品となっています」


「生きている妖精を、外国に輸出しているのですか? 」


「はいそうです。逃げることができないように、長い時間飛ぶのに必要な羽の一部を切り取ってしまいます。外国では妖精がほとんどいませんから、大変な高価格で売ることができます」





 ここで、アイリス王女が意見を述べた。


「いかに我が国の商人が(もう)かるからという理由で、そんな残忍なことをすることには、耐えられません」


 国王が言った。


「実は、東方の森林地帯の中には妖精の国があるんだ。その国の妖精王オベロンから、妖精の捕獲に抗議して、今後はしないよう強い要請の親書が送られてきた」


 国王はそう言うと、大きなガラス(びん)を取り出した。


 ガラス瓶の中には、小さな葉っぱがたくさん入っていた。


 そして、その瓶の栓を国王が抜いた。


 すると不思議なことに、たくさんの葉っぱは瓶かひとりでに出て、床に広がった。


 葉っぱはそれぞれ生きているように勝手に動き回った。


 やがて、瓶の中が空っぽになると、床の上には文字が広がっていた。


 アイリス王女が説明した。


「これが妖精王オベロンからの親書です。人間の文字を示しています。妖精は魔力を持っています。その魔力はこの世界を良くしようとする善の魔力です。それは私が聖女として使う魔力とほぼ同じです」


 ここで、外務大臣のニコル・ロレーヌが意見を話し始めた。


「外務大臣として申し上げます。我が国は妖精の輸出によって、貿易で多額の利益を得ています。今、妖精王の妖精を聞き、妖精の輸出を止めてしまうと我が国は貿易上、大赤字となります」


 騎士アーサーが聞いた。


「大赤字になると、どのような影響や問題点が出るのでしょうか」


「輸入が極端に超過しますと、我がルフト王国の通貨の価値が大変下がります。その結果として、国内で不足しているほんとうに必要な物資の量を外国から買うことができなくなってしまいます」


 アイリス王女が聞いた。


「国内で不足しているほんとうに必要な物資とは何ですか? 」


「主に王族や貴族が必要としている物ですが、宝石、洋服、ワインなどです」


「贅沢品という訳ですか―― それらは、ほんとうに必要とはいえません。なぜなら。我が国の人々の暮らしの中に無くても問題ありませんから」


「いえ王女様。今日はこの場にいらっしゃいませんが、王族や貴族には必要不可欠のものですよ」


「必要不可欠ではありません」


 外務大臣と王女の意見は平行線を保ったままだった。


 このような様子を見て、国王が騎士アーサーに聞いた。


「アーサー、お前はどう思う。意見を聞かせてくれ」


「まず第1優先は我が国が行っている妖精の輸出を止めることです。妖精も私達人間と同じように、神が作られたこの世の大切な住民です。そして次は輸入超過の話しですが、やむを得ません」


 外務大臣が少し声を荒げで言った。


「王族や貴族の華美な生活を止めて、質素にせよということですかな! 」


「外務大臣様、質素にする方がよいとは思います。ただ、今までの伝統的な暮らしを急には変えられないのならば、外国の人々が是非買いたいと思うような産品を、妖精の代わりに輸出するのです」


「そんな便利な産品が簡単に現われますかな? 」


「もちろん簡単ではありません。ですから産業を振興させるのです。他国にはない、我が国の特別な技術や資源を使い生産し、外国の人々がたくさん買ってくれるようなものです」


 国王は決意した。


「わかった。我が国において妖精を捕獲し、外国などに売りさばくことは固く禁じることにしよう。そして、妖精に変る輸出品を作ることができる産業を振興していくのだ」


 アイリス王女が言った。


「さきほども申しましたが、妖精の魔力は聖女としての私の魔力とほぼ同じ性質なのです。ですから、妖精の国の協力を得て、この国を守る聖女の結界の強化のために、助けていただくことができます」


「それは良いことだな。早急に、妖精の国、妖精王オベロンに返書を出そう。我がルフト王国は妖精の国と支え合って、未来を進むのだ。それでは、返書を無事に届ける使者は誰が良い」


 そう言った国王は、アイリス王女の方を見た。


 もう、2人の間で人選は済んでいるかのようだった。



 王女がアーサーに言った。


「アーサーさん。また、あなたに大変なことを押しつけてしまいます。でも、この役目はあなたしか務まりません。よろしくお願い致します」


「それでは、私が国王陛下の返書を持ち妖精の国に行き、妖精王オベロンにお会いしましょう」




 王都の中にある商人の(やかた)の一室に、ニコル・ロレーヌ外務大臣がいた。


 ニコル大臣は、妖精売買を行っている商人と密談していた。


「外務大臣様。それでは私達仲間はもう、妖精を捕獲し売買することはできないじゃないですか。なんで国王陛下に妖精売買を続けられるよう主張していただけなかったのですか!! 」


「したさ。したが、あの騎士アーサーとアイリス王女に押し切られてしまった」


「アーサーが国王の返書を持って妖精の国に向かうのは何時(いつ)になりそうですか? 」


「きっと彼はすぐに向かうと思う。もう、どうしようもない。兄上が行った年貢の1割のピンハネや平民の反乱も彼は苦も無く解決してしまった。たいへんな知力をもった最強の騎士なんだ。失礼する!! 」


 そう言うと、ニコル大臣はそそくさとドアを開けて、その商人の家から出て行った。


 1人部屋に取り残された商人にかたりかける者がいた。


 それは、魔界から先遣隊として派遣されてきたナイトメアだった。


「仕方がないな。アーサーが妖精の国に着くまでに我々魔族が、処理しよう。人間と妖精が仲良くなるのは絶対に阻止する。アイリス王女がルフト王国に張る結界を、妖精の魔力で強化されてしまうからな」

 


 

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