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Brave and Partners Online  作者: 岩越透香
番外編 ユキ
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悪魔

 サヨはリックの頭の上を飛びながら、もう一匹と話している。サヨともう一匹はすでに少し親しくなったようだ。一方、こちらは口撃を続けていた。


「見て分からない? 抱っこは特等席なの。その特等席に座っているユキが一番なのは自明よ」

「歩けないフリをしてまで取ったそこがそんなに嬉しい?」

「リックは優しいからそんなことしなくても抱いてくれるもん。一度もされたことがないからって嫉妬しないでよ、見苦しい」

「意地になってる〜♪ ホントは自信ないんだ〜?」

妖精にイラッとして八つ当たりのように、リックに角を押し付けた。彼はそんなユキの行動を嬉しそうに眺めていた。


 少しゆっくりしてから復魂祭を回る。激しい見せ物も多く、リックは楽しんでいるみたいだ。ユキはリックに声が聞こえないことを良いことに、汚い言葉も混じった口撃を妖精――イブキと続けた。


 大体回り終わるとリックは人混みから離れて木陰に座った。どこから持ってきたのか、日持ちしそうな食べ物や採取していたベリーを広げてみんなで食べる。ユキの感覚だとβテストがつい最近だけど、でもこうやって食べさせてもらうのはいつでも、何回でも嬉しいな。


「そうだ、この光景を残しておこう。……凛にも見せられるし」

凛って誰? ……現実世界の彼女、とか? 嫌だなあ。現実の人にはどうやっても勝てないから。


「すくりーんしょっと、か?」

クイックバード――ハヤテはスクショを撮ろうとする気配を読み取ったのかポーズを取った。ぐっ、ここにはスクリーンショットもあるなんて。ユキの可愛い姿を撮ってもらわないと……!



「拗ねてる? ねえ弱いからって拗ねてるの?」

「う、うるさい。役に立てないとか言わないでよ!」

「自分でも思ってるんだ〜?」

「イブキ、煽るのはやめろ。サヨも見せつけるように索敵するな」

ユキは大きな問題に直面していた。それはパーティー内において役割がないこと。攻撃はハヤテがメインで、サヨは索敵ができる。イブキは……魔法も魔力吸収も優秀。レベルが離れているのもあって、ユキはタンクにもアタッカーにもなれない中途半端な存在。悔しいけれど、弱いのも役立たずなのも事実だった。可愛さならこのメンバーで一番の自信はあるけど、モフモフ度はリックのフレンドの大食いウサギに負けてしまっている。ユキは知っているのだ、彼がモフモフに目がないであろうことは。


 何度か攻撃を庇っているから存在理由がないわけではないんだけどなあ……。物足りない。



 モフモフ目当てか、ただ可哀想だったのか、リックは怠惰な羊を助けようとしていた。果物で釣ろうとしても一向に動く気配がない。


「要らないなら貰おうっと♪」

「ちょっと、食べ物を飛ばして遊ばないでよ!」

「力づくで奪えば? 無理だろうけど♪」

「上等よ!」

果物を攻撃し、地面に叩き落とす。イブキの風魔法の支配下にあるものを手に入れるのであればこれが一番手っ取り早い。外力が加わると上手く操作ができないようだから。


「底辺種族の癖に……! もう一回!」

「受けてやるわ!」

何度か繰り返し、その度に勝ったが、なりふり構わなくなったのか、イブキは禍々しい力を放つ謎の球体を動かし始めた。


「それ、明らかに……。……危ないから、もうやめましょう?」

「どうしたの? 負けるのが怖くなった?」

やんわりと止めるものの、イブキは聞く耳を持たない。


「イブキ! やめろ!」

「え? あ、うん……」

イブキはリックの声を聞いて急に操作をやめた。そして、イブキが動かしていたものは怠惰な羊とぶつかった。羊の周りが黒い膜に覆われる。進化とは色が反転していて、異様な雰囲気がある。


 しばらくして出てきた羊には小さな蝙蝠のような羽が生えていた。


 リックはその様子を見て青ざめて、急いで羊の持ち主の元まで走った。色々あったけれど、羊はキララという名前を貰ってユキたちの仲間になった。


「よろしくな、キララ」

「……」

キララは悪魔になろうがお構いなしに寝ている。マイペースだなあ。面倒な性格のパートナーがまた増えてしまったみたいだ。


 リックが持ち上げようとしたが、びくともしなかった。リックは諦めて、キララを魔石にした。


「ユキより弱い魔物が来て良かったね♪」

「僕よりものんびりしてるみたい〜」

「戦えるのか? 心配だな」

イブキの煽りすら耳に入らないほど、ユキはあの禍々しい力に魅せられていた。あの力があれば、きっともっと強くなれて、役にも立てると。



 クリスマスの頃、チャンスがやってきた。あの禍々しい球体――悪魔石と言うらしい――が入手できるイベントが実施されたのだ。


 リックはフレンドたちと話し終えた後、悪魔石を取り出して観察し始めた。不意をつくようで心苦しかったけれど、これはチャンスだと思った。


「ユキ! 早く返してくれ」

「……ごめんね」

ユキは悪魔石を噛み砕いた。すると、黒い膜に包まれる。


「うぅ……」

痛い、苦しい。進化の時とは全然違う。黒い膜の外でリックがこちらに手を伸ばしているのが見えるけれど、ユキは逃げない!


『何を望む?』

「……リックの一番」

何者かの問いに答えると、体の変化はより激しくなる。


 痛みが治り、もやが晴れる。リックはユキの心配をしつつ、ユキを抱き上げる。リックの言葉からして、ユキの外見は大きく変わっているみたいだけど、それでも恐怖や怒りではなく心配をしてくれることが限りなく嬉しい。


「!?」

リックはユキを抱え上げて固まり、ユキのモフモフを堪能し始めた。ユキってば、前に進化した時に少しがっかりされたことを根に持っていたんだなあ。


「悪魔になるほど追い詰められて……ごめん」

「イブキ、なんで謝るの? ユキはこんなにも嬉しいのに。ふふっ」

強くなったし、モフモフ度も増した。これでユキがリックの一番になれた、かな?


 だからどうか、リックはユキに――このゲームに飽きないでね。

完結です!

一年と少しの間、ありがとうございました!


いいね・評価・ブックマーク・感想・誤字報告についての感謝もここに述べさせていただきます。嬉しかったです。本当にありがとうございました。なんとか完結まで持っていけたのは皆様のおかげです。


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