再来3
『エリアへの侵入を確認。レイドボス"ホーンラビット(?)"との戦闘が始まります。現在の参加者数は112人です』
以前に参加した時と比べて参加者が圧倒的に少ない。鏡と海の神殿にも人が分散している上、急に現れたということもあり、時の神殿内のプレイヤー全てが参加しているわけではないから仕方がないのかもしれないが。
しばらくレイドボスを観察してみる。黒いもやを纏ってはいるが、名前に?が入っている割には普通のホーンラビットと変わらないように見え――いや、デカいな。プレイヤーが小人のように思える。よく見ると、目の色も少し違うような気がする。ユキの目よりも少し深い赤色に見える。
肝心の攻撃パターンはおそらく三つ。その内訳は、周囲に敵がいない時の突進、足元に敵がいる時の足踏み、発動条件は分からないが、その場で跳躍して着地することで地面を揺らす攻撃だ。他二つが敵の位置に関係しているところを見ると、これも敵の位置が関係する攻撃なのかもしれない。
AIが強化されてはいないらしく、攻撃対象は発動時点で一番近い敵のようだ。単純で避けやすいように思えるが、威力とともに攻撃範囲も拡大されているため馬鹿にできない。
きちんと誘導すれば後衛に攻撃が届かないため魔法は撃ち放題になのだが、魔法使いのプレイヤーがほとんどいないため、その恩恵は受けられていない。俺が卵を集めている時にも魔法使いはほとんど見なかったから、ここにはあまり来ていないのかもしれない。セア港辺りに集まっているのだろう。
状況が把握できたところで俺も動こう。妨害魔法は使えなさそうだ。拘束は効力が低いだろうし、次々と新規参入者がやってくるレイドでは鈍化は利敵行為になりかねない。地味だが強化魔法と回復魔法でのサポートが主な仕事になりそうだ。……やはり自分で戦況を動かせる前衛の方が性格的に合っていると感じる。
『レイドボス"ホーンラビット(?)"の討伐に成功しました』
レイドボスは呆気なく討伐されてしまった。途中から参加したといえ、いくらなんでも早すぎないか?
強化されているとはいえ、所詮は序盤の魔物ということだろうか。第二段階とかもなく、無事に終わってしまった。最終的な参加者は二百人程度ということを考えると、よりこのボスが格落ちしているように思える。
色々な場所でイベントがあるとはいえ、復魂祭イベントの敵が弱いなんてあるだろうか……。
「手が空いている方は来てくれませんか!」
NPC神官さんが叫んでいる。どうやら、このイベントは数で勝負するイベントらしい。控えめな強さのボスが数体出現するなら幅広いプレイヤーが活躍できそうだ。
何回も触れた魔物がいる場所に向かう。今度の敵は狼型だった。
『レイドボス"ワイルドウルフ(?)"の討伐に成功しました』
ほっとしたのも束の間。
「向こうに出たらしいぞー」
次が出たという場所に向かう。
「……やったか?」
三度目の討伐の後、ついフラグを口にする。それが関係したのか、また出てきたらしい。……わんこそばか?。
いつ参加してもレイドバトルに参加できるようにしているということか。でもここの運営はそんなことしそうなイメージがないんだよな。多分、出てきたレイドボスは特別な力が働いているにしてもちゃんと魔の卵を何個も取り込んでいる。
もしかして、レイドバトルが行われていても魔の卵を集める人が必要なんじゃないか? レイドに集中している間は、魔の卵を回収するプレイヤーがいないから次のボスの出現が早いということじゃないか?
「どうしたんだ? 行かないのか?」
隣にいた人に聞かれる。彼に俺の推測を話してみる。
「あーなるほど。なら実験してみようか。掲示板で協力を呼びかけてみる」
「ありがとうございます」
「良いって。縁の下の力持ちっぽくてかっこいいから」
彼はニカっと笑ってくれた。
三十分ほど魔の卵集めをしてから掲示板を覗いてみる。すると「次のボスの出現までに少しタイムラグがあった」と書かれていた。……少しかあ。でも、効果はあったようで安心した。魔の卵集めの人員が増えれば増えるほどレイドボスが出てくるまでの時間が長くなってくれるのかもしれない。
このイベントの本質は多分、始まった時から変わらずに「魔の卵集め」だったのだ。レイドボスは五個以上だけど、討伐に時間がかかるから集めるためには適していない。神殿内をまわって集めるのが一番良い。
出現までかかるとはいっても、レイドボスはかなりの頻度で出現するため、時の神殿にいるプレイヤーはなんとなくレイドバトルをする人と魔の卵を集める人に分かれた。俺は後者だ。俺たちには索敵スキルがあって、探しやすいからだ。
俺はもう少しだけ魔の卵集めを続けてからログアウトした。
魔物の襲撃開始から七日目。新しく魔の卵が出現しなくなり、神殿から魔物の姿も消えた。
イベントの終わり頃には、時と鏡の神殿ではそれぞれのボスの対処法が確立され、海の神殿では町の防衛に成功し、神殿を奪取できたようだ。
「終わったのか……」
肩の力が抜け、俺はその場に座り込んだ。
予想もしていなかった襲撃によって中断されていた復魂祭だが、町の人々は想像以上にタフで、ゲーム内翌日にはまた祭りが開催されていた。それができるということはNPCに死人や怪我人はいないのだろう。良かった。
『異界からの勇者たちにまずは謝罪をしたい。今回の襲撃は予想できなかった私たちの落ち度であった。町の者たちにもだ。本当にすまなかった』
映像でも騎士団長が頭を下げている。彼がしばらく頭を下げていると、彼の頭が叩かれた。
『何をする……』
『辛気臭い顔をするな。いつも以上にとっつきにくくなる』
『何が言いたい』
『謝罪よりすべきことがあるって話だ』
騎士団長はハッとして、カメラの方を向いた。
『私たちを、何度も救ってくれてありがとう』
彼はまっすぐ俺たちの方を向いていた。
『ではここからは私の出番だな。以前、放送事故があったことは覚えているか?』
確か、彼が放送に乱入して騎士団長を連れ去ったんだったな。
『その時、私たちが発見したのは魔界の入り口だ。魔界とは悪魔たちが住まう地のことだ』
魔物から神殿を取り返したから、次は敵地に攻め込むということか。
『私たちはそこで調査を行なった。魔界には――』
『説明はやめておけ。長くなる』
『ああ、そうだな……。魔界はこことは環境が異なる。魔物の種類も強さもかなり違う。時の神殿やセア海に出ていた強化された魔物がいただろう。それが最低クラスだ』
『だが、魔界に行き、悪魔を討つことが私たちの目的な以上、引くことはできない。どうか……。再び、力を貸してほしい』
『私からも、頼む』
二人の言葉を最後に放送が終わった。




