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Brave and Partners Online  作者: 岩越透香
第五章 王都セントル
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クラン

 イベント告知が来たのは回復術士も目指そうと思い、レベル上げをしている時だった。


『私は王国騎士団団長を務めているウィリアム・ロビンソンだ。時の神殿の奪還に引き続き鏡の神殿の浄化、さらにセア港で無事に復魂祭が開催できたのは君たちの力が大きい。この世界の者でないにも関わらず、我々のために何度も力を貸してくれたこと、心から感謝する。そして……再び、力を貸してほしい。今回、取り戻して欲しい地は魔の森だ』

今までは神殿だったが、今度は森か。魔の森ってなんだか嫌な名前だな。


『魔の森は王都セントルの東にある森の通称だ。魔の森は時の神殿が敵の手に落ちる前から邪悪な魔力に満ちている場所だ。未開の土地と言っても良いかもしれない』

城の後ろに広がっている森林が魔の森か。そんな危ない場所が城のすぐ近くに広がっていて良いのか? 町の側でも良くないけど。……むしろ城は強固な城壁に守られているからぴったりなのかもしれない。


『君たちにはここを浄化してもらいたい。浄化の方法は前と同じだ。今回の浄化装置は改良版で、以前よりも広範囲を浄化できる。反面、設置や維持に労力はかかる。今回は個人単位ではなくクラン単位で受けてもらいたい』

鏡の神殿のように浄化装置を置いていくのだろうか。だが森と言うくらいだから鏡の神殿よりも広そうだ。広範囲を浄化できる改良版が必要なのも頷ける。


 なるほど、今回のイベントはクラン対抗戦か……。あれ、クランに入っていない俺はどうなるんだ?


『手順を説明しよう。まず、王都に比較的近い場所に制御装置をおいてもらう。この制御装置はとても重要だ。魔物に壊されないように、守り抜く必要がある。制御装置の設置が完了したら、浄化装置を置く番だ。特殊技能を持っている者は別だが、基本設置にかかる時間は三分だ。魔物に邪魔されないよう、味方に守ってもらわなければならないだろう。全てのポイントに浄化装置を設置し終えるか、開始から二時間が経過した時、または制御装置が破壊されると任務は終了だ。制御装置は破壊されない限り再設置する必要はないが、浄化装置は一度浄化すると壊れてしまう。可能なら何度も挑戦してくれると嬉しい。制御装置と浄化装置の置く場所は決まっているが、行けば分かるようになっている。心配しないでくれ』

陣取りゲームみたいなイベントってことか。神殿奪還とは毛色が違うが楽しそうだ。


『この依頼は危険だ。そのため十人以上で受けてもらいたい。人数が足りないクランは他のクランと同盟を組むか、クラン未所属で参加の意思のあるものが一時的に加わることになる』

クラン未加入の俺はこのままだとどこかの少人数クランに助っ人のような立場で共闘することになるみたいだ。それでも、未所属のプレイヤーが余るとどうなるのかをイベントに関するヘルプを見て確かめておく。その場合は、同じ境遇のプレイヤー五十人を集めて一チームとするらしい。なぜ五十人かというと、クランの最大人数が五十人だからだ。


 でもそれだと知り合いと一緒に戦えなさそうだ。まあイベントに参加できるなら気にしなくていいか。ぼっちだって楽しめるはずだ。うん。



『成績優秀クランには賞品を出そう。この森の浄化が終われば、この国の脅威は去るだろう。どうか、また力を貸してほしい』

意味ありげに七つの大罪モチーフのアイテムをドロップする敵が現れていたからこのまま脅威が去るということはなさそうだが、このイベントで一区切りするのかもしれない。さて、イベントに向けてできる限りレベルを上げますか!



 次の日、アオイから「僕のクランに入りませんか?」という連絡が来た。彼女はリアルの友達とクランを作っていたらしいのだが、クラン関連のイベントが来るということでゲーム内のフレンドもクランに入ってもらいたいようだ。戦闘職のプレイヤーが少なく、助っ人プレイヤーが居たとしても森の浄化ができなさそうだかららしい。せっかくだから誘いを受けることにした。一緒に戦うなら知り合いの方が楽しそうというのも理由の一つだ。


 次にログインした時にはすでに承認されていてクランに加入した状態になっていた。クランに加入するとクランハウスが使えるようになるらしい。ドキドキしながらメニュー画面にあるクランハウスを押す。すると、周りの景色が急に変わった。


「これが……?」

目の前には蔦が巻きつき、ところどころ壊れている屋敷があった。見回してみても他に建物がない。あれがクランハウスなのだろうか。


 心配になってメニューを見る。ちゃんと現在地はクランハウスだ。メニューからは誰がクランハウスにいるか分かる設定のようだ。現在は俺の他にもう一人いるらしい。あ、今二人になったな。


 建物に近づくと、ダガーを腰に刺し、身軽そうな服を着た少女が居た。


「えっと……。あ、新しい方ですね。リックって読んで良いですか?」

俺も彼女の名前を呼ぼうと頭の上を見るが、プレイヤーネームは顔文字。……なんて呼べば良いんだろう。


「ネコって呼んでください」

「ありがとうございます。リックです。敬語じゃなくて良いですよ」

「じゃあお互いに。来てくれたから分かると思うけど、あれがクランハウス」

彼女は目の前の建物を指差して言った。


「今はここの修繕のための材料を運び込んだところ。修繕はDaikuがやってくれているの」

「俺に手伝えることはある?」

「んー。クランの掲示板的なのがあるから、そこで材料欲しいって言われた時に無理のない範囲で手伝ってほしい」

「分かった。ありがとう」

俺が帰ろうとすると、彼女に引き留められた。


「……職業を聞いてもいい?」

「補助魔法士だ」

俺の言葉を聞いた彼女は「前衛が足りないかも」と呟いた。


「俺は槍術のレベル高いから、前衛もできるよ」

「本当? でも補助魔法士ってSTR高くないよね? 長所を伸ばした方が良いよ」

「聖騎士っていう職業があって、将来的になりたいと思っているから合わないってほどでもないと思うけど……。イベントまでになるのは無理だから今回はサポートに徹させてもらおうかな」

「みんな後衛よりだなあ……。アオイとフルールが連れてこれるって言ってたけど、規模に対して前衛が少ない。誘われた人に誘ってもらおうかな? うん、それがいい」

彼女はひとりでに納得して、報告するかのように言った。


「前衛やってくれそうなフレンドがもし居たらこのクランに誘ってもらえない? 掲示板にも書くけど……三人までで。多過ぎて入れませんでは困るから」

「……それなら力になれそうだ」

ネコさんと別れてからフレンド一覧を見る。一覧では彼らの所属クランも一緒に見れた。


「あ、ナルも同じクランに加入済みだ」

俺と同じようにアオイから連絡が来たのだろう。ちなみにリンはどこのクランにも入っていなかった。好きなことができれば良いタイプだからイメージ通りだな。


 スキルのレベル上げをしていた時に野良でパーティーを組み、フレンドになることもあったおかげでフレンドはそこそこいる。そのほとんどはクランに加入済みだけど。クラン未加入のフレンドの中から印象に残っている人を三人選んで「クランに加入しませんか」という旨のメッセージを送る。一人くらいは入ってくれると良いな。

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