戦力増強1
「あ、リック!」
待ち合わせ場所にはすでにリンがいて、大きく手を振ってくれていた。手には白と黒の何かを抱えている。白はしらたまだろうから、黒は新しいパートナーだろう。
昨日のあの蜘蛛、あれくらいのサイズだったよな……? いやいや、生産メインのリンがあの森で使役できるとは思えない。うん。大丈夫だ。
「あれ? リック、変な顔してるけど何かあったの?」
「いやあ……。なんでもない。思い出し笑い的なアレだから」
「人の顔を見て変顔しないでよ……。まあ良いや。先に紹介するね。この子が新しい子、シルクスパイダーのおはぎだよ」
「じゃ、じゃあ俺からも……。順番にユキ、小夜、ハヤテだ。ハヤテは昨日進化して、ブレイドファルコンになったんだ」
妹の前だ。平然を装わなければ。蜘蛛から目線を逸らし、話題も変える。これで大丈夫なはずだ。
「言っておくけど、バレバレだからね」
「な、何がだ?」
「私も分かってたのに目の前に連れてきちゃってごめんね。……リックにもらった神捧珠で来てくれた子だから、紹介したかったんだ」
リンは俺の視界に入らないようにおはぎを地面に置いた。手渡すには少し遠い位置にいるリンに「受け取って」と言われ、何を投げ渡す気なのかと身構える。しかし、渡されたのはワンセットの服だった。
渡された、というより降ってきたと言った方が正確か。ちらりとリンを見るとイタズラが成功したかのように笑っていた。他プレイヤーに直接アイテムを渡すとふわりと降ってくるらしい。
デザインはいつも通りだが、触り心地が良い。新しい素材がこの町で手に入ったのだろうか。
「えっと、それは絹で作ったの。性能も今までよりも良いし、何よりも肌触りが良いんだ」
「ありがとう。早速着てみるよ」
着心地も良くて動きやすい。性能面も良い。VITの上昇率が一・五倍だ。元々が二だから一増えただけとも言う。
「それはあげるよ。……新しい素材を使った試作品だし。そ、れ、と……」
リンが「ジャーン」と効果音を付けながら取り出したのは黒いコートだった。凝った装飾が施されていて、実用品というよりはコスプレ衣装に近い。
「他のゲームの神官服を参考に作ってみたの! 本当は白にしたかったんだけど、冒険をするなら絶対に白なんか着ないなと思って黒に染めました!」
「性能はどんな感じなんだ?」
「INTも少しは上がるけど布製だからVITは控えめだよ。あと、長めだから動きにくいかも?」
「これぐらいなら大丈夫だと思うな」
「そっか! なら良かった! それでこれぐらいなんだけど……」
リンは指をいくつか立ててコートの値段を表した。今までのものとは桁違いに高いが、それだけ手間と素材がかかっているんだろう。
「分かった。はい」
「まいどー。これ一気に払えるとは、儲かってますなー」
「装備整える以外には大した金額使わないからな」
「ふむ。……もっと値段を上げても良かったか」
「着てみても良いか?」
「もちろん!」
リック
種族:人間 Lv.41
職業:神官Lv.13 【加護】
HP:20/20
MP:50/50〈+8〉
STR:20(+6)〈−2〉
VIT:12(+22)
INT:50(+15)〈+8〉
AGI:10(+4)
【スキル】
使役 槍術Lv.13 棒術Lv.1 索敵Lv.5 回復魔法Lv.2 強化魔法Lv.7 妨害魔法Lv.2 付与魔法Lv.1 毒術Lv.10 麻痺術Lv.10 料理Lv.1 解体Lv.5 鑑定Lv.4
【装備】
普通の槍 STR:+6 耐久:295
神官のコート INT:+2 VIT:+3 AGI:−1 耐久:100
シルクのシャツ VIT:+3 耐久:100
シルクのズボン VIT:+3 耐久:100
残りポイント:37
元のVITより装備と職業スキルの補正の方が高い件について。神官のコートは着心地も悪くないし、性能も――AGIが下がるが――悪くない。
「やっと冒険者らしくなった気がする。ありがとう」
「どういたしまして。リックのことは置いておいて、パートナー達の装備の話をするね。ユキちゃんはポーンラビットって言ってたし、兵隊っぽい感じが良いのかな? 空を飛ぶ二匹にはスカーフが良いかと思ったけど、小夜ちゃんだと可動域を狭めそうだから……」
「小夜は、何か希望はあるか?」
小夜はリンの足元の辺りを示した。何があるのか察した俺はリンに視線を向けた。
「ペンダントだね。小夜ちゃん自身が望むなら邪魔にもならないはずだよね。一つ問題があるけど」
「問題?」
「そう。対応するスキルがないし、良さそうな素材もないこと。……スキルはギルドに所属すれば良いけど、素材集めがめんど……私には当てがないから、良い素材が手に入ったら教えてね。というかペンダントは他のプレイヤーに頼んでみても良いかも」
ペンダントを作るには細工スキルが必要らしい。細工師ギルドがバースやここにもあるらしいから、すぐに必要なら行ってみると良いと勧められた。
「とりあえずユキちゃんとハヤテちゃんの装備を作るね。それじゃあ、私はこれで!」
「ありがとう!」
リンと別れてから森に向かう。もちろん昨日とは別の方向だ。
「新しい装備だと気分も上がるな!」
ハヤテが進化した影響もあって、楽々とはいかないまでも、順調に進むことが出来た。
体感では昨日と同じくらい深いところまで来た。その時、小夜が俺に異変を教えてくれた。注意しながら進むと霧が濃くなってきた。今はまだ周りが見えるが、もう少し進むと全く見えなくなりそうだ。
進む道順があるのか、何かのイベントで霧が晴れるようになるのか、どちらにせよ今日はこれ以上進めなさそうだった。
霧がない場所でレベル上げをしてから町に戻る。俺が出てきた門の近くには細工師ギルドがあったから、ログアウト前に寄ろうと思っていたのだが。
「……見覚えがない」
俺は牧場のような場所に迷い込んでいた。
俺は確かに真っ直ぐ引き返したはずだ。俺は方向音痴ということもない。……もしかして霧のせいか?
思い返せば昨日も変だった。行きでは全く見なかった魔物が帰りでは山ほど出てきたのだ。あの蜘蛛が町へ向かう人を襲う魔物と考えるより、俺が違う道を進んでいたと思う方がしっくりくる。
霧の強行突破は難しそうだ。変な方向に進むと良くないから、霧の先に行けそうになるまではこの町で時間を潰すことにしよう。うん。それが良い。
にしても、まだ散策出来ていない場所があるとは思わなかったな。牧場を見に行ってみよう。手前には数えると寝てしまいそうなほど多くの羊が見えていた。




