新たな町へ3
一通り町は回れたかな。ボスを倒したり、山下りレースをしたりして疲れたし、今日はもうログアウトだ。
夜ご飯の後、なぜアグリに居たのか聞いてみることにした。
「ん? ああ、あれは料理ギルドの依頼でいるんだよ」
「どんな依頼なんだ?」
「食堂のアルバイト。プレイヤーが増えて、需要が増えたから、依頼がカルチ村のギルドに来たみたい。護衛してもらって町まで行くんだ。ボスは倒した扱いにならないから、護衛の利用は一長一短かな」
アルバイト……。ゲーム内でも働くハメになるって嫌がる人は多いかもな。接客業って迷惑客とかがいるとストレスが多そうだし。
株式会社partnersはゲーム内でプレイヤーを働かせるのが趣味な会社なのかもしれない。【もう一つの日常】もゲーム内で働いてペットを養うゲームだって聞いたことがあるし。
「そんなのもあるんだな」
「うん。生産職も最前線に行きやすいように、っていう配慮なのかもね」
「確かに。同じ町に居るならちょうど良いし、今度俺のパートナーたちを見せに行くよ。前にスクショがないことを残念そうにしてただろ?」
「そうだね。楽しみにしてるよ。……私のパートナーたちには敵わないと思うけど」
「あ?」
「ふっ。覚悟しなさい」
睨み合って、一発触発の雰囲気となる。俺も凛もふざけているだけで、実際にバチバチしてる訳ではないのだが。
「装備とか新しく作ってみたし、今度渡すついでにユキちゃんたちを見せてもらおうかな。あ、パートナーたちの装備も作った方が良いよね? イブキちゃんは装備不可だったよね。ユキちゃんは私のしらたまとお揃いでも良いだろうけど、他はどうしよう?」
「他はココウモリの小夜とクイックバードのハヤテだけど、装備があって飛びにくくなっても困るよな……」
「そうだよね。見せてもらってから考えよ。明日はちょっと無理だから明後日で良い?」
「ああ、時間は?」
「多分、帰ってきたらログインするから、お兄ちゃんがログインする時間で」
次の日。学校から帰ってきて、やるべきことを終わらせたらゲームにログインだ。今日はアグリの周りを探索してみよう。新しい魔物はいるだろうか。
町は森で囲まれているから、浅いところでは出てくる魔物が変わらないかもしれない。少し遠くまで行ってみよう。
小夜が敵の接近を知らせる。少し距離はあるが、気が付かれるのは時間の問題だな。ならば先制攻撃するしかない。
「戦闘準備だ」
みんなに強化魔法をかけ、警戒しつつ、魔物にジリジリと近づく。
「気が付かれた! みんな、頼む!」
現れたのはシャドウウルフ――昨日戦った狼だ。幸いにも、まだ数は少ない。一気に叩いて増援を呼ばれる前に終わらせなくては。
ハヤテと小夜が空中から攻撃を仕掛け、ユキがとどめを刺すという役割分担で倒してくれていた。回り込んで倒そうとしてくる狼には、イブキの風魔法によるお仕置きが待っている。
「みんな、お疲れ様」
自傷ダメージなのか、ハヤテのHPが減っていたため回復魔法をかける。その後も同じようにみんなの連携で魔物を倒していく。
しばらく進むと霧が濃くなってきた。視界が悪くなったせいで、索敵の精度が落ちている。不意打ちでの攻撃を何度か喰らってしまった。
「視界が悪いし、厳しいな。この先は天候が回復したら探索しよう」
今日はこれ以上の探索を諦めて帰路につく。でも結局、新しい魔物には出会わなかったな。結構奥の方に進んだと思ったんだが……。もしかして、霧の奥まで進まないと新しい魔物には出会えないのか? でも、危険を冒すのは良くない。やはり今日は帰ろう。
首にふわりとしたものが当たった。
「ユキ!? いきなりどうした……ってまさか庇うを使ったのか!?」
ユキに駆け寄り、回復魔法をかける。が、まだ苦しそうなままだ。まさか、ステータス異常か? 確認しなければ。
雪
種族:ポーンラビット Lv.16
状態:毒
位階:2
HP:120/125
MP:0/0
STR:18
VIT:30
INT:2
AGI:22(+5)
特性:跳躍
【スキル】
突進 庇う 強攻撃
毒状態になっていたのか! でも毒で良かった。毒を治せる魔法なら覚えている。
「治療:毒。ユキはこれで良いとして……。小夜、敵はどこに!?」
小夜に敵の行方を聞いたところ、ハヤテが誇らしそうにしていた。どうやらハヤテが倒してくれたらしい。
「ありがとな、ハヤテ。小夜は引き続き警戒を頼む」
しばらくすると、小夜は先ほどの敵を見つけたらしい。正面にある木にそいつは隠れているみたいだ。木の上に隠れられるということは小型の魔物なのだろう。だが、いや小柄だからこそなのか、攻撃力は高く毒もある。気をしっかりと引き締めないといけないな。
「ハヤテはさっきと同じように攻撃してくれ。もし、倒し切れなかったらイブキがとどめを刺してくれ」
ハヤテが木に突っ込むと、小夜が探知していた魔物がぽとりと落ちてきた。黒くて、何か模様がある魔物だ。少なくとも哺乳類のようなものではなさそうだ。きちんと確認する前にイブキがとどめを刺し、黒い煙へと変わったため見えなくなってしまった。
もうすぐ町へ辿り着くという時のことだった。シャドウウルフの群れを倒した時にハヤテの体が白い光に包まれた。――進化の時だ。
疾風
種族:ブレイドファルコン Lv.1
位階:3
HP:10/15
MP:6/6
STR:36
VIT:1
INT:3
AGI:37(+5)
特性:飛行 刃翼
【スキル】
突進 助走
【刃翼】
魔力を込めると翼が剣のようになる。
切れ味のある翼、刃翼。かっこいいな。デメリット特性の脆弱も無くなったし、良い進化なんじゃないか?
あーでも、凛に嘘を吐いたみたいになってしまったな。もうクイックバードではないし。
「ハヤテ、早速新しい力を試してみようぜ」
ノリノリでハヤテのステータスを見ていた俺は敵がすぐ後ろに現れていたことに気が付かなかった。小夜が気が付いて、俺に教えてくれたが遅かった。
俺は動物好きだと自負しているが、どうしても受け付けない生物もいる。その生物こそ蜘蛛だ。害がないどころか益虫にもなり得ることは知っている。でも、あのフォルムは無理なのだ。どうやっても受け付けない。
人の前では苦手に見えないよう、強がって平気な振りをしているが、毎回悲鳴を必死に抑えているような有様なのだ。それが他プレイヤーがいない場所に不意打ちで現れたらどうなるか。
「いやあああああ! ハ、ハヤテ。あ、あれを倒してくれっ!」
ハヤテは困惑しながらも命令を聞いて倒してきてくれた。
「さっき、ユキに庇われたが……。あの時も……」
サッと血の気が引いた。
俺は蜘蛛のいるエリアには金輪際近づかないようにしようと心に決めた。




