復魂祭1
『今日からいよいよ復魂祭が始まります。今回は時の神殿の奪還に協力してくださったプレイヤーの皆様に感謝を込め、神捧珠をお渡しします。こちらで判断させていただいた活躍の度合いにより、このアイテムのレア度が決まっております。復魂祭は神殿で行われています。どうぞ、お楽しみください』
大体一ヶ月ぶりくらいのログイン前のアナウンス。神捧珠はどんなアイテムなんだろう。珠なんだから丸いんだとは思うけど。
ログアウト時は神殿だったから、ログインも神殿だ。そこには飾り付けられ、今までとは違った神殿があった。礼拝堂があった場所に人が大勢集まっている。行ってみよう。
「おーい、リック!」
声の主はナルだった。彼は礼拝堂へと繋がる長い列に並んでいた。
「ナルか。その列は?」
「知らないのか? この祭りの目玉だぞ」
目玉かあ。なんだろう。貰った神捧珠を使うのだろうか。俺が悩んでいるのを見て、ナルは手でお金のマークを作って言った。
「ガチャだ」
「ガチャ?」
「ああ。魔物とか便利なアイテムが出てくるらしい。課金要素でもあるらしいな」
「ガチャに使うのはやっぱり神捧珠なのか?」
「それも使えるが、他のアイテムでも良いんだ。レア度によって出てくるものが変わって、プレイヤーメイドだと少し良いものが出やすいらしい」
活躍の度合いにより、アイテムのレア度が決まると言っていたが、そのレア度はここに関係してくるのか。
前から、生産職は魔物のゲットですら大変だという文句はあったが、このガチャシステムは、そうした一人では戦えない生産職のためのものでもあるのだろう。色々な人が列に並んでいる。にしても長いな。
「こんなに並ぶなんて大変だな。日が暮れそうだ」
「アイテムや魔物が欲しいだけなら並ぶ必要はないぞ。メニューに追加されている項目から引ける。これは演出を見たい人の列だな」
「なるほど。ありがとう、ナル。俺も後で並ぶよ」
「こっちこそ。おかげで暇つぶしにはなったぜ」
ナルに別れを告げて神殿を散策する。人は礼拝堂の方へ集まってしまっているのか、人で溢れて思うように進めないということはなかった。
復魂祭は屋台が並ぶようなお祭りではなく、宗教儀式といった形だ。白いワンピースを着た女性のゆったりとした踊り、クラシックのようなBGM。前夜祭を動としたら、こちらは静だ。神聖な雰囲気がある。
そこから少し離れた開けた場所に看板が置いてあった。
「武闘大会?」
周りを見ると、観客席のような物もある。看板によると、三時から始まるらしい。あと二時間くらいだな。それなら、さっきの列に並んでこよう。一時間もあれば礼拝堂に入れるだろう。
油断していた。俺は行列の恐ろしさを知らなかったのだ。礼拝堂のところに行くまでに、武闘大会まであと三十分になっていた。ステータスの確認をしたり、掲示板を見たりしていたから苦痛には感じなかったが。
掲示板によると、β版で使役した魔物はその位階のものを捧げれば必ず召喚されると書いてあった。朗報だ。
だが、困ったな。レア度と同じ位階の魔物が出ると書いてあったが、俺が持っているのはレア度一が二つ、二が一つ、三が一つだ。ユキと小夜の位階は二のはずだから、どちらかしか出ない。
「どうしたのリック。トイレにでも行きたくなった?」
「リンか……。お前、レア度二の神捧珠持ってない?」
「持ってるよ。あ、リックも一つしか貰ってなかったんだ」
リックもと言われたことから、運営は神捧珠はレア度二が一つ、レア度一が二つを配っていたんだろう。一つしかないものを貰うのは流石に悪いよな……。
「あげる」
「え? 一つしかないんだろ?」
「いーのいーの。リックはβで使役してた二匹と会いたいんでしょ? それなら早い方が良いって」
「……リン、ありがとう。代わりにこれを」
「気にしなくて良いのに。ってこれ、三だ!? 私の方がいっぱい貰っちゃってるよ!」
「気にするな。……二つある一もあげようか?」
「そんなに貰えないって! ……本当に良いの?」
リンの言葉に頷く。レア度三の神捧珠はルカさんから貰った物だから、彼には少し悪かったかな。大した物ではないと彼は言っていたが、現時点ではかなりレアなアイテムみたいだったな。
「ありがとう! 今度何かお礼するね!」
レア度一の神捧珠も持って行ったリンは元気に去っていった……。これで二つ揃った。
「捧げるものをこちらに置いてください」
順番が回ってきた。神捧珠を二つ取り出し、台座に置く。
「捧げたものが帰ってくることはありませんが、これでお間違いないですね?」
儀式担当の神官は俺が頷いたのを確認すると口を開いた。
「では、召喚に巻き込まれないように少し離れてください。――いでよ。異界の門」
神官は手を台座に向け、言葉を紡ぐ。すると、魔法陣が現れ、その中から光が溢れ出す。
「ユキ、小夜!」
二つの珠と引き換えに現れたのはユキと小夜だった。
「いけません! 召喚された魔物に不用意に近づいては! 契約を結ぶまでお待ちください!」
静止も聞かず、俺は駆け寄る。俺の姿を見て、ユキは目を輝かせた気がした。
「会いたかった……」
台座に手をつき、ユキを覗き込む。小夜はそんな俺を少し呆れたように、上から見ていた。
ユキは俺を見て目を輝かせてくれた気がした。
腹部に走る衝撃。思わず座り込んで咳き込む。この威力はユキのスキル、突進だ。でもどうして……。
「……説明不足でしたね。すみません。魔物は魔法陣からは魔物も出ることがあるんです。それらは陣から出ることはありませんが、私たちが陣に入ると攻撃してくることがあります。ですので、契約を結ぶまでは陣には近づいてはいけないんです。契約――あなた達が言う、使役ですね。二匹ともしますか?」
「……もちろん」
ユキ達を白い球体が覆う。俺は神官に手を引かれるがまま、その上に手を置いた。
「我、汝らの契約をここに認めん。願わくば彼らに幸あらん」
光がユキ達を包み込む。進化とも違うようだった。
「これで契約は完了です。もう触れても大丈夫ですよ。これからは気をつけてくださいね。本来ならここで名付けも行うのですが、その二匹はすでに名前があるようですね。その名前で呼んであげてください」




