神殿探索3
遅れました。すみません。
「なんだそれ、ガラスか?」
門番をしていた人に欠片を見せてみたものの、分からなかったらしく、首を降った。
「王都とかに居る高名な神官なら分かるのかもしれないが……」
「ではこれは渡しておきますね」
欠片を渡そうとすると、カサカサと動き回る黒い虫をみた時のような速度で俺から距離を取った。
「やめてくれよ! そんな禍々しいもの、一秒たりとも持ちたくない!」
「俺、がっつり触っているんですが……」
「まあ、あんたたち――異界から来た人は耐性があるっていうから平気だろう」
平気とは言われたが、不安になるような言い方だ。とりあえず、直接触れないように仕舞っておこう。
「こちらで上には報告しておく。引き続き、作戦への協力をお願いしたい」
俺も彼につられて敬礼をした。
区切りも良かったため、今日は解散ということになった。明日の集合時刻も決めてログアウトだ。
「僕が最後でしたか。お待たせしました」
「気にすんな! 俺らは掲示板を見てたから」
「俺たちが見つけたあの欠片、他の人も見つけているみたい」
アオイに掲示板で集めた情報を軽く説明する。
「デメリットの類は今のところ見つかっていないんですね。門番の方の嫌がり具合から、プレイヤーにも何かしらの影響がありそうだと思いましたが」
反応からすると、耐性がない人――NPCが触ると悪い影響を及ぼしそうだったが……。今のところ、変化はないんだよな。
リック
種族:人間 Lv.36
HP:20/20
MP:48/48
STR:20(+6)
VIT:12(+3)
INT:50(+3)
AGI:10(+5)
【スキル】
使役 槍術Lv.12 索敵Lv.5 回復魔法Lv.2 強化魔法Lv.7 妨害魔法Lv.2 付与魔法Lv.1 毒術Lv.10 麻痺術Lv.10 料理Lv.1 鑑定Lv.4
【装備】
普通の槍 STR:+6 耐久:297
普通のシャツ VIT:+2 耐久:87
普通のズボン VIT:+2 耐久:87
残りポイント:16
ステータスにも異常はない。結構戦った気がしたのに、レベルが二しか上がっていないのは悲しいな。
あ、毒術と麻痺術がレベル十になっている。が、変化はない。パッシブスキルだからだろうか。
「インベントリに入れているからじゃねえか? リックはどう思う?」
「どうだろうな……。デメリットっぽいのは、魔物を呼び出すことだけど……。時間経過で何かが変わるのかも」
「何か異変があったらすぐに言ってくださいね」
そんなことを話しているうちに神殿の入り口についた。
「あれから何か変わったことはありましたか?」
「最初にやべえ奴持ってきたパーティーじゃねえか。上には連絡したし、他にも欠片を持って来た奴はいたぜ。だが、未だ何も分かっていないな。すまんな」
「いえいえ。お仕事中に申し訳ないです」
「気にすんなよ坊主。これも仕事の内だ。入るんだろ? 頑張ってな」
進展はなし、か。進展があったら掲示板に書き込まれるだろうから、そんなものか。
昨日と同じように神殿に侵入する。リビングアーマーは一度倒したら終わりなのか、もう一度戦うことはなかった。
「今日の目的はの欠片探しだな!」
「大丈夫なんですか? 沢山持つのは危険だと思いますが……」
「全部をリックに持たせるわけじゃないんだから大丈夫だって。それに、欠片はおそらくイベントのキーアイテムだ。積極的に探さねえと!」
ナルは欠片探しに燃えている。俺も負けないように頑張らないとな。
「昨日はここを左に曲がったから、右に行こう」
今日はナルの先導で進む。俺は索敵を発動して、そのサポートだ。俺たちは通り道の魔物を倒しながら奥へと進んだ。
突然ナルが足を止めてしゃがんだ。しゃがむとは思っていなかったため、そのままの勢いでナルを蹴ってしまった。しかし、彼はそんなことを気にしないで、地面と睨めっこをしている。
「ごめん、ナル。床に何か落ちているのか?」
「これ、欠片じゃねえか?」
地面に落ちていた欠片をナルは拾い上げた。俺が拾ったものよりはだいぶ小さく、人差し指にちょこんと乗る大きさだ。
「小さいですね。ゴブリンすら召喚出来なさそうです。……あ」
アオイは何かを思い出したかのように声を漏らした。来た道を少し引き返して、戻ってきた時には指に小さな欠片が乗っかっていた。
「これもですよね」
「似てるな。近づけて見てみようぜ」
アオイが持ってきた欠片の方が少し大きかったものの、質感は似ていた。大きさの問題なのか、俺が持っているものよりも禍々しさが少ない気がする。
二人の指が触れ合いそうになった時、驚くべきことが起きた。
「うわ、眩しい」
「何が起きて……」
怪しげな光が収まった時、欠片は一つになっていた。
「合体するんですね」
「これは良いことなのか、悪いことなのか……」
欠片は俺が拾ったものよりは少し小さいが、大きな一つの欠片になっていた。それに伴って禍々しさも増している。
合体させまくって大きくしていったら、いつか悪魔とか召喚できそうだな。何かのイベントが起きそうだが、無闇に合体させるのは良くない気がする。
「もともと一つだったものが、また一つに戻ろうとしている、とか?」
「砕けたんだったら、どれだけ大きな力を加えたんだって話になるよな。それに、落ちている場所もバラバラだし」
「一個目を拾った場所は遠かったからなあ。なら、自然発生して、だんだん大きくなっていくっていう可能性もあるな」
ナルと可能性を話していると、虚空を見ていたアオイが戻ってきた。
「二人の話も掲示板に書いてみました。今、掲示板はあの欠片についての考察で盛り上がっていますよ」
「へー。面白そうだな。後で見てみるか」
「考察好きな人は多いんだなあ」
ナルは今見ているようだ。アオイはそんなナルを横目に話を続けた。
「ここら辺に落ちている欠片はこれだけではないと思うんです。次に見つけた欠片はどうしましょうか」
「くっつけるのは危険な気がするな。そのまま持つのが良いと思う」
「俺も。合体させないままインベントリに入れたらどうなるのかも気になるし」
「僕も賛成です。それと、さっきの合体させた欠片はどちらが持ちますか?」
「アオイで良いぜ。俺は普通に見つけるから」
アオイは持っていた欠片を仕舞い込んだ。
「リック、周囲に敵はいますか?」
「少し進んだ先に数体。そこそこ居るね」
「では個人行動は基本なしで行きましょう。ナルもそれで良いですか?」
「ああ。早く行こうぜ」
俺たちは戦闘に備えて、各々の武器を構えながら進んだ。




