作戦開始2
かつて存在したであろう、美しい白亜の神殿は見る影もなくなっていた。ここに居るのは崩れた神殿を背景に襲いかかってくるゴブリン達とそれを撃退する俺らプレイヤー。神殿はただのダンジョンに成り下がっていた。
一箇所にとどまっているとあっという間に囲まれてしまうため、困っていそうなパーティーを助けつつ、フィールドを走り回る。
「本当にキリがないな!」
「そんなこと改めて言うな! みんな思っているんだから!」
「そろそろMPを回復させておきたいですね……」
現れ続けるモンスターに心が弱ってくる。HPやMPもじわりじわりと消耗していっている。回復ポイントが欲しくなるな。
弱気になっていたらダメだ。何かこの状況を打破する策を考えなければ。冷静に考えて、プレイヤーに勝ち筋のないイベントなんてあるはずはないんだ。無限に現れるように思えるモンスターにもいつかは終わりがくるはずだ。
この大量のモンスターを減らす方法……。どこかに共通の弱点があるとか、プレイヤーみたいにリスポーン地点があるとか……。ふと思いついたことを口にしてみる。
「モンスターが無限に湧き出てくるっていう可能性はない?」
「ないだろ。奪還が目的なんだから、いつかはいなくなるはずだ」
「一斉に魔法で殲滅するのが正解ってことですか?」
「いや、神殿の奥に何かがあるんじゃないかと思ってさ」
神殿に近づくにつれ、モンスターの攻撃が激しくなっていた。メタ的に考えると、入り口付近の攻撃は緩めているだけなのかもしれないが、何か理由があるはずだ。例えば――守りたいものがあるとか。
「確かに、神殿に近づくにつれてモンスターの攻撃が激しくなっているような気がしますね」
「言われてみれば……?」
二人とも神殿の内部に何かがありそうだと感じたらしい。
「では、強引にですが――」
アオイは杖の先端を神殿へ向け、魔法を放った。勢いよく放たれた水球はゴブリンを飲み込みながら道を作っていく。
「今のうちに急ぎましょう」
俺たちは水球の後を追うようにして走った。
水球の勢いが落ちた後はナルが道を斬り開く。ナルが倒し損ねたゴブリンはハヤテがトドメを刺していく。背後から追いかけてくるゴブリンは俺が近寄れないようにする。
そうして、神殿内に入ることができた。
神殿内に入るとゴブリンは追ってこなくなった。周囲に敵が居ないのを確認して、休憩を取る。
「上手く行きましたね」
「上手くいったから良かったが、いきなりやるなよ。危ないじゃねえか」
「いつもナルがやっていることでしょう?」
アオイに言い返されたナルは何も言えなくなって黙り込んだ。
「そろそろ行きましょうか」
「アオイ、MPの回復は?」
「満タンになりました。あ、マッピングができる方は?」
俺はやったことがない。アオイがそう聞くということはきっと彼女もできないのだろう。俺たちはナルの方を半ば諦めつつ見た。
「マッピングの仕方は分からないが、記憶力には自信があるからな。任せておけ!」
自信満々に言うナルを見ていると、なんだか不安になるな……。
「不安そうにするなよ! そもそも剣士が両手を使うマッピングをするのは無理だろ! すぐに戦闘に入れなくて死ぬわ!」
「……確かに」
すぐに戦闘に移れないのは痛いから、この場合記憶するのが一番いいのかもしれない。
「頼んだ」
「頑張ってください」
「手のひらクルックルじゃねえか……」
ナルはため息を吐きながらも、受け入れてくれたようだ。これで出発できるな。
まずは索敵しよう。敵はどこら辺に――
「そこの壁の裏に三体いる! おそらくホブゴブリンだ!」
「オーケー。近いな。休憩中に仕掛けられたら危なかったな」
「壁の後ろは魔法じゃ狙えない。二人とも頼みます」
「一気に距離を詰めて、相手に何もさせないで倒そう」
ナルと目配せして、タイミングを合わせ、壁の裏に飛び出す。隠れていた三体は予想通りホブゴブリンで、近接戦闘タイプだった。
一撃目は不意をついたため、防御が出来ずに集中攻撃をくらったゴブリンを倒すことが出来た。二匹目、三匹目はそれぞれ分担して倒す。
俺の目の前にいるゴブリンはサイズの合っていない革製の鎧を身に纏い、錆びついた盾とショートソードを持っていた。リーチはこちらが長い。鎧の隙間を縫って槍を通せば倒せそうだ。
槍で攻撃の方向を逸らす。攻撃の速度もキレもエリアボスには及ばない。俺は前よりもずっと強くなっている。それはステータスだけではない。今ならパートナーに情けない姿を晒すこともない……と信じたい。
ゴブリンの攻撃を弾き、体勢が崩れた時に鎧の間にスキルを放つ。槍を引き抜くとゴブリンは煙へと変わった。
「そっちも終わったか」
「ナルは聞くまでもないよな。……これ以上数が増えると不安だな」
「最悪、引き返せば良いだけだろ。早く進もうぜ」
索敵を発動する。敵が固まっているところがあるな。敵のいなさそうなところを通っていけば、接敵せずに奥まで行けそうだけど……。
「敵が多そうな方と少なそうな方、どっちに行く?」
「多い方だろ! 敵がいるってことは守りたいものがあるってことだろ?」
「様子見として少ない方に行くのが良いと思います。イベントは始まったばかりです。生き急ぐこともないかと」
二人の間で意見が分かれてしまった。どちらの意見に従うか決めかねていると、ジャンケンで決めようという結論に至ったらしく、ジャンケンをしていた。
三度にわたるあいこの末、勝利を収めたのはナルだった。
「ジャンケンの結果なら仕方がないか……」
「ってことで、敵の多い方へ行こう! 道なりに進めば良いのか?」
俺が頷くと、ナルはそのまま進み始めた。
「おい、そこに敵の反応があるぞ!」
「へ?」
ナルは間抜けな声を上げた。よく見ると地面には何かが張り巡らされている。
「うわっ、ねばねばしてて取れねえ」
ナルがもがいても拘束が解ける様子はない。ねばねばしているということは蜘蛛の糸なのだろうか。
「後ろ、敵が来てるぞ!」
「マジか!? でも足が取られて動けねえ」
「……避けてください」
アオイが蜘蛛に向かって魔法を放つ。ナルは彼女の意図に気がつくと、急いで体を低くして魔法を避けた。
妨害に特化しているためか、蜘蛛は魔法に当たるとすぐに倒れた。蜘蛛本体が倒されたことによって、地面に張り巡らされていた蜘蛛の巣が消えた。
「危なかったー」
「そうですよ。ちゃんと索敵してるリックに従ってください」
「今度は蜘蛛の巣に全身張り付きそうだよな」
「繭みたいに、ぐるぐる巻きにされちゃいますね」
「二人とも止めろって! 気をつけるからさ!」
気をつけると言いつつも、ナルは後ろ歩きを止める気配がない。
「あ、後ろ」
「え? うおっ、危ねえ!」
直前で注意すると、ナルは少しオーバーなリアクションで避けた。ハヤテに指示し、蜘蛛を倒してもらう。空を飛べたり、魔法が使えたりすると、こういう時に便利だな。
「次からはしっかり前を向いて歩いてください!」
二度痛い目を見たおかげで、ナルは今回の忠告をしっかりと受け入れた。




