作戦開始1
『ボスエリアに入りました。エリアボスとの戦闘が始まります』
「大技行きます!」
風の妖精が何かの魔法をアオイにかけた。その魔法はアオイが放った水魔法と混じり合い、ボスとその取り巻きに向かっていく。
アオイ達が生み出した暴風雨はボスとゴブリンを巻き込み、取り巻きを一掃した。取り巻きが煙となって消えた後も、その魔法は続く。
魔法の発動が終わると、ボスは第二形態となっていた。
「やっぱり、本職の魔法はかっこいいな! 一気に第一形態を削れたぞ!」
「それほどでも。あれでMPが尽きたからもう僕は置物だけどね」
「その技、名前はあるのか? 無いなら俺が付け――」
「ナル! 攻撃が来るぞ!」
ボスは俺たちの方へ来て、腕を振り上げる。俺は軽く後ろに飛んで回避する。狙いは俺じゃなさそう? 一番ダメージを与えていたのは、アオイだ。
「っしまった――」
アオイは魔法使い型で、おそらくINTとMP以外には振っていない。攻撃の方向を逸そうにも、俺の位置からでは今からは間に合わない。
ナルが攻撃に合わせて剣を振るい、受け止める。俺はボスの背後に回り、攻撃をして注意を逸らそう。ナルの表情はキツそうだ。攻撃の対応に一手遅れたせいで、どんどん対応が後手に回ってしまう。
ボスの手が不自然に滑り、攻撃の手が緩んだ。すかさずナルが一撃を入れる。アオイの妖精が水魔法で滑らせてくれていたらしい。
「助かった! ここからは俺たちが頑張るぞ!」
「ああ!」
ナルに返事をしつつ、強突きをボスに使う。こちらをちらりと見て、反撃しようとする隙をナルが攻撃する。
ボスは滅茶苦茶に武器を振り回して俺たちの連携を崩そうとしたが、かえって隙を見せるだけだった。俺たち二人がガラ空きになった胴体を攻撃していく。
『エリアボスの討伐を確認しました』
討伐のアナウンスが流れた。しかし、第三形態になった記憶はない。
「アオイ。コイツは何か変な動きをしていなかったか?」
「二人にボコボコにされているだけでしたよ」
「おかしいな……」
首を傾げるアオイに二人で戦った時の様子を説明した。
「掲示板には特に書いていませんでしたよね?」
「そうなのか。俺はてっきり敵が強くなって新しく増えた要素かと」
「俺も。倒し方によって違う……とかかな?」
「全NPCにAIが搭載されていると言う話なので、少しずつ思考パターンが違うのかも知れませんね」
「倒せたんだから考えなくても良くね? 休憩したらテキトーに戦おうぜ」
休憩を終えて、ボスエリアから森に戻り、ゴブリンと何戦かした。明日からのイベントのために早めにログアウトすることになった。
「あ、お兄ちゃん。生のイベント告知どうだった?」
「迫力があったぞ。政治家の演説を聞いているような気分だった」
「騎士って公務員みたいなものだろうし、似てるのかもね」
凛は告知を聞き逃したみたいだ。何かしていてログイン出来なかったのだろうか。
「寝過ごした訳ではないのに、見逃したのか?」
「そうなんだよね。ログインはしていたんだけど、作業がちょうど良く終わらなくて、見逃しちゃった」
凛は俺を指差して、「お兄ちゃんのせいだから!」と笑いながら言った。装備を作ってくれていたんだ。熱中するくらいなら、より期待できそうだ。
「渡すのは明日になるかな。まだもう少し作業あるし」
「分かった。ギルドの前に行けば良いか?」
「うん。イベント頑張ってね」
「凛は参加しないのか?」
「気になるんだけどね」
凛は言葉を濁した。戦闘出来ないから遠慮してるのかもな。
「参加してみればどうだ? 近い実力のプレイヤーと組めるらしいから、足を引っ張ることもそこまでないだろ」
「確かに」
凛は納得したようにこくりと頷いた。
イベント開始日。早めに寝たおかげですっきりと起きることが出来た。凛がログインしそうな時間まで、少し時間を潰そう。
「リック! ナイスタイミングだね。今ログインした所だよ」
装備を取り出して、押し付けるように俺に渡した。
「代金ちょーだい」
「これで良かったよな?」
「うん」
「今日はせっかちだな。何かあるのか?」
「私用の装備を作ろうと思って。張り切っている所だよ」
「イベント用か? ほどほどに頑張れよ」
凛は頷きだけを返してギルドの中に入っていった。それだけ早く作りたかったんだろう。
受け取った装備を見る。直してくれたジャケットに、シャツとズボン、ブレスレットが入っていた。
早速装備して、ステータスを確認する。
リック
種族:人間 Lv.34
HP:13/20
MP:3/48
STR:20(+6)
VIT:12(+4)
INT:50
AGI:10(+5)
【スキル】
使役 槍術Lv.12 索敵Lv.5 回復魔法Lv.2 強化魔法Lv.6 妨害魔法Lv.2 付与魔法Lv.1 毒術Lv.9 麻痺術Lv.9 料理Lv.1 鑑定Lv.4
【装備】
普通の槍 STR:+6 耐久:320
普通のシャツ VIT:+2 耐久:100
普通のズボン VIT:+2 耐久:100
風のブレスレット 風属性強化 耐久:80
残りポイント:12
シャツとズボンの名称はそのままだが、効果が二倍になっているな。耐久値も増えているみたいだ。
おまけで入っていたブレスレットは風属性強化。イブキに装備してもらいたいが、触れることすらできないだろうから、無理だな。
少し悩んで、ブレスレットとジャケットは装備しないことにした。効果的に使える時に使いたいな。
「おーい! こっちだ!」
ナルが手をブンブン振ってアピールしている。まだアオイは来ていないようで、一人で待っていたらしい。
「待ってたか?」
「ああ。でも、三十分前にログインした俺が悪かったし」
「それはゲーム時間で?」
「リアル時間でだ」
つまり九十分。一人で待っているのは大変そうだ。暇だと言っても、一人で戦うのは抜け駆けだと思い、町で人助けをしながら暇を潰していたらしい。
「最後でしたか」
「おう! 俺はゲーム時間で九十分前にログインしたからな!」
「それは早すぎるのでは」
俺と似たような会話をした後、ナルが号令をかけた。
「時の神殿の奪還作戦、開始だ!」
ナルが拳を突き上げた。俺とアオイの手もその手に重ねられた。
道中の敵は他のパーティーによってほとんど倒されており、消耗もなく時の神殿の入り口まで辿り着いた。騎士団の人が、俺たちがパーティーを組んでいるのを確認した後、門を開ける。
かつて美しかったであろう、白亜の神殿の色はくすみ、鼠色になっていた。噴水や庭園のあったであろう場所では戦闘が繰り広げられている。今や神聖な雰囲気はない、ただの廃墟がそこには広がっていた。
住み着いているモンスターは主にゴブリン。四方八方から襲いかかってくるモンスターの相手を一人でするのは無理だと言っても過言ではないだろう。先に入っていたパーティーは四人居るにも関わらず、苦戦を強いられていた。
「思っていた以上に大変そうですね」
俺は静かに頷いた。モンスターは倒しても倒してもキリがなさそうだ。
「でも、やるんだろ?」
「ええ」
「……ああ!」
俺たちは時の神殿の敷地に足を踏み入れた。門が閉められる音がした。さあ、やってやろうじゃないか!




