復魂祭に向けて
「お兄ちゃん、起きて!」
「凛か……。おはよう」
「もう夜だけど。夜ご飯だから呼びに来たの」
凛は部屋を見回して呆れたように言った。
「ゲームして寝てご飯食べてって……。すっごく堕落してるね?」
「夏休みだからな」
「ところで、そのまま寝ちゃったってことは疲れたんでしょ? 何してたの?」
「BPOでエリアボスを倒していたんだ」
凛は首を傾げた。生産がメインだから南のエリアボスを知らないのか?
「南のゴブリンのボスだよ」
「へえ。でも、先のエリアがないのにエリアボスってなんか変だよね。南のエリアなんて聞いたこともないよ」
確かに、エリアボスなのに、その先のエリアがないのはおかしいな。南側にエリアを増やすのかもしれない。
スマホを弄っていた凛が顔を上げた。【BPO】について調べていたようだ。
「あ、お兄ちゃん。イベント予告が出てる」
「イベント予告?」
「うん。復魂祭っていうのをやるみたい。お盆くらいだね」
「そのイベント会場が、南のエリアなのか?」
「公式サイトには特に書いてなかったけど、南のエリアでやると言われているみたい」
考察みたいなこともされているんだな。南のエリアはどんなエリアなんだろう。
「どんなイベントになるんだろうな?」
「戦う系かなあ?」
「ただのお祭りの可能性もあるな」
「ただのお祭りだとしても装備はしといて損はないからね! 修復とか色々やってあげる! お盆までには完成させるようにするからさ」
「助かるよ、凛」
「あ、代金は頂くからね!」
ご飯を食べ終わったら、今日は風呂に入ってさっさと寝よう。明日はのんびり冒険の準備をしようかな。
次の日、十時間以上寝たのもあってか、気持ちの良い目覚めだった。昨日の疲れも吹き飛んでいる。ご飯を食べたらログインだ!
早めにログインし、森から町へ移動する。その道中、クールタイムが明けたため、ハヤテを召喚する。
「ありがとう、ハヤテ。助かったよ」
モンスターの肉を取り出しつつ、感謝を伝える。ハヤテは取り出した肉を、取り出された瞬間に奪うように食べた。召喚するまでの間にお腹が空いてしまっていたのだろうか。
ハヤテの気持ちの良い食いっぷりを見てたら、色々どうでもよくなりそうだ。もしかしたら、励ましてくれているのかもな。
調子が戻ってないハヤテに無理をさせないように、モンスターの居ない道を選んで町に戻った。
凛との待ち合わせまでまだ少し時間があるな。先にギルドでゴブリンから得た素材を売るのも忘れずにしてから行こう。
「ごめん、リック! 少し遅れちゃった」
「気にするな。俺も今来た所だから」
「デートのセリフみたいだね。ホントは待ってたでしょ? 気を使わなくて良いよ」
「今来たってのは本当だよ。ギルド寄ってたら時間かかっちゃって、遅れてくれて逆に良かったよ」
リンに証拠として所持金を見せた。
「そんなにあるなら、良い素材を使って装備を作っても買ってくれそうだね」
「そうだな。防具が無ければ死んでいたところもあったから、多少高くても良いものが欲しいな」
「シャツとズボンで良いかな? 他に欲しい装備はある?」
「特にないかな。あ、ジャケットは直して欲しい」
ジャケットを脱いで手渡した。
「壊れちゃった他の装備の影に隠れていたけど、これもかなり消耗してるね」
「直せるか?」
「直せるけど、直すと最大耐久値が減っちゃうんだ。次は直せないかも……」
折角この世界の人から貰ったものなのに、今度消耗したら着れなくなっちゃうのか……。
「貰い物だから、出来れば壊したくないんだよな。直さなくていいよ。大事に持っておく」
「それでも、一度直した方が良いよ。見た目にも影響が出るから」
「じゃあお願いしようかな」
「毎度あり!」
商魂たくましいな……。
「装備作るのもタダじゃないからね。お金は稼げる時に稼がないと!」
「俺のことをカモだと思ってるだろ、お前」
「違うよー!」
「笑いながら言われても全く説得力がない!」
「あ、作るのは上下セット、直すのがジャケットだね?」
「ちょ、逃げるなー!」
リンがギルドの扉に手をかけた。ギルドの中は基本他のプレイヤーとは別と聞いたから追いかけられない!
リンはギルドの扉を閉める前に、振り返って言った。
「あ、リック。装備は使ってなんぼだよ」
「使わないと回転率が悪くて儲からないもんなー?」
「そうじゃなくて……。使って貰うために作ったものだから、ちゃんと使って貰う方が嬉しいなってこと。いくらでも作れるんだからさ」
リンはそれだけ言って扉を閉めた。
使いたい想いも、思い出として残したい想いもある。……難しいな。
バースの職人街。記憶を頼りにジョンのいる工房に向かう。
「リックさん! って、その槍、ボロボロじゃないですか! 見せてください」
彼の剣幕に驚きつつ、槍を差し出す。彼は槍をじっくりと眺めて言った。
「これは溶かして作り直しちゃった方が良いかもしれませんね」
「ボロボロになってるもんな……。折角作ってもらったのに悪いな」
「そうですよ! ボロボロにならないようにちゃんと手入れして使ってください。大事な時に壊れたらどうするんですか!」
「……悪い」
「ちゃんと反省してくださいね。新しい武器って槍で良いですか?」
俺は頷いた。彼は袖を捲って力こぶを作って「任せとけ」のポーズをした。
「頼りにしてるよ」
「え、あ、はい! 全力で作ります!」
俺の持っていた槍はジョンに持って行かれてしまった。槍がなくても魔法でサポートして戦えるが……やりにくいだろうな。まだ昨日の疲れも残っているだろうから、今日はのんびりして終わりにしよう。
それにしても【BPO】初のイベントはどんなイベントなんだろう? 公式サイトや掲示板を見て、続報を楽しみに待とう。
これにて第二章は終了です。次回、一話番外編を挟んでから第三章に入ります。
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