VSゴブリン2
『ボスエリアに入りました。エリアボスとの戦闘が始まります』
「イブキ!」
先手必勝。イブキにボスゴブリンの後ろにいる弓使いを魔法で攻撃してもらう。二、三匹残っているが、ほとんどのゴブリンを倒すか瀕死にしてくれた。
「イブキ、ありがとう。敵から魔力を吸収しつつ、サポートしてくれ」
ハヤテは……勝手に動いてくれてるな。俺が指示すると、ハヤテがいる方向を敵に教えることになるし、指示はなくていいな。
イブキの魔法によって敵が呆気に取られているうちに攻撃を叩き込む。STRとAGIに強化魔法をかける。使い所がなくて使えていなかった、新しい強化魔法の範囲強化も使えて良かった。これのおかげで一人分のMPが節約できた。
ナルはすでにエリアボスに斬りかかっている。俺も早く加勢しよう。
ボスの動きは大きくて雑――動きを見ていれば被弾はしないだろう。だが、当たれば即死級の攻撃だ。吹っ飛ばされるナルを見て、改めてそう思う。ボスは追撃しようと、ナルに向かって走る。その目にはまだ俺は映っていないようだった。
「こっちにもいるぜっと」
脇腹あたりを付与麻痺術を乗せた強突きで攻撃する。麻痺はウザそうにしているが、大きなダメージにはなっていなさそうだ。
「助かった。よそ見してた」
「そっか。麻痺入れたのは余計だった?」
「いや助かる、ありがとう」
攻撃を避けながら話す。ナルは起き上がると、攻撃を再開した。が、ボスは彼の攻撃を躱すだけで、俺にだけ攻撃をし続ける。
どうやら、積極的に攻撃をするよりも妨害に動いた方がヘイトが溜まるらしい。
「すまん! 攻撃対象がなかなか変えられねえ!」
「いや良い! ナルは攻撃に集中してくれ」
毒術、麻痺術の発動を狙うためにチクチク攻撃はしてるが、回避に専念しているおかげで負担も少ない。
「それだと、お前の負担が大きくなるだろ?」
「ナル、攻撃は任せるからな! 取り巻きの増援が来る前に倒すぞ!」
「……聞いてねえな。じゃあ、お言葉に甘えてガンガン攻めさせてもらうぜ!」
右、左、上、薙ぎ払い。攻撃のパターンも分かってきて、攻撃にも参加できるようになってきた。
「リック、攻撃して大丈夫か? 耐久低いんだから回避優先が良いと思うが」
「攻撃パターンが分かってきたから大丈夫。それに一斉攻撃の方が早く終わるだろ?」
スキルは自分の体が無理矢理動かされるから、回避している時には使いにくいが練習だと思って、使えそうなら使ってみよう。
「動きが止まった?」
「やったのか!?」
「待てナル、それは死亡フラグだ」
ボスの動きが止まり、苦しそうに唸る。黒い霧のようなものがボスの体に流れ込んでゆく。
ボスはもがくように動きながら、黒い霧を吸い込む。全てを取り込み終わったボスの体表は禍々しい色に変化していた。
「第二形態か?」
「あの色やべえな。当たったら毒くらいそうな色だ」
第二形態になったボスの動きを観察する。足はふらふらしていて弱そうに見える。手に持っている大剣は引きずっている。弱そうに思えても、エリアボス。気を引き締めよう。
ボスが軽く足を曲げた。あれは予備動作?
その瞬間、ボスは今までの何倍もの速さでこちらに向かってきた。――早い。でも、予想していたおかげでなんとか避けられた。
「ナル、無事か!?」
ナルが攻撃を食らって吹き飛ばされる。今までより目に見えて威力が高くなっている。
「ああ。……朗報だ。毒はないぞ」
「ふざけてる場合か! 回復。早くなってる、気をつけろ」
「ああ、次は喰らわない!」
ナルはボスとの斬り合いを再び始めた。俺もナルに加勢する。
攻撃が速く、重く、強くなっている。俺は攻撃を回避しているから良いが、受け止めているナルは辛そうだ。
「付与魔法で状態異常にした方が良いか?」
「強化魔法にMPを使ってくれ。今はなんとか戦えているから」
「分かった」
こう言う時に限って毒術、麻痺術が発動しない。必要ない時は発動するのに……!
「キツそうだな、リック」
「そんなこと、ない!」
「そうだな。女の子が見てるもんな!」
「え?」
誰もいない……。まさか幽霊が?
「幽霊じゃねえ! いると思って戦ってるんだよ!」
「なんで?」
「俺のかっこいい戦いを見て惚れてくれるかもしれないだろ?」
「……そうか?」
「おい! よそ見するな!」
「お前が気になるようなことを言うから!」
ボスの薙ぎ払いをしゃがんで避ける。ナルはバックステップで避けていた。
「で、なんでそんなことしてたの?」
「モチベーションアップのため?」
なんで疑問系なんだ。ナルがやり始めたのでは?
「お前はないの? そういうの」
俺にとっての戦う理由……?
俺はβテストの時の仲間に会いたくてプレイをしていて、今は復魂祭っていう言葉を手がかりにゲームを――いや違う。楽しいからだ。このゲームで、この世界で、色々な人と出会って冒険をして、とっても楽しかった。
プレイヤーだけじゃなく、この世界の人とも仲良くなった。もし、このモンスターに敗れ、コイツが町や村に行ってしまったら……。
「あるな。負けたくない理由」
独り言のように言って、槍を強く握り締める。
ボスに向かって行く。ボスは俺に気付き、薙ぎ払おうとする。
「甘いな」
スピードを落とさないようにスライディングで回避する。俺の動きを見て、ボスが僅かにたじろいたように見えた。
「強突き!」
首を目掛けて攻撃する。ボスの回避は間に合わず、俺の槍に突き刺さる。
硬い。スキルの補正があるはずなのに、貫けない。槍も心も折れてしまいそうだ。
「負けるか……!」
さらに力を込める。体全体を使って槍を奥へと押し込む。
「くそっ、これ以上は槍が折れる!」
それでも、やめられない。あと少しで貫けそうなんだ……。
その時、槍がグッと前に進んだ。
ボスが口から血を吐いた。首を見ると槍が貫通していた。首から槍を抜く。刺した時とは逆にすっと抜けた。
「ハヤテ、ありがとな」
最後、俺の槍を押してくれたハヤテに礼を言う。ハヤテが居なければ、槍が折れて終わってしまっていた。
リック
種族:人間 Lv.33
HP:17/20
MP:3/48
STR:20(+5)
VIT:12(+2)
INT:50(+3)
AGI:10(+5)
【スキル】
使役 槍術Lv.13 索敵Lv.5 回復魔法Lv.3 強化魔法Lv.7 妨害魔法Lv.2 付与魔法Lv.1 毒術Lv.10 麻痺術Lv.10 料理Lv.1 鑑定Lv.4
【装備】
普通の槍 STR:+5 耐久:12
火のジャケット VIT:+1 INT:+3 火属性耐性 耐久:11
普通のズボン VIT:+1 耐久:5
手袋 魔法耐性 耐久:4
残りポイント:10
装備がかなり消耗しているな。リンに貰ったものはいくつか壊してしまっている。まさか裸になっているのではと思い確認すると、ジャケットの下はゲーム開始時点の服になっていた。
俺はほっとして、ぺたりとその場に座り込んだ。




