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Brave and Partners Online  作者: 岩越透香
第一章 クローズドβ
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チュートリアル1

『――開催時間となりました』

十二時ちょうど。日付が変わり、ゲーム開始のアナウンスが流れた。


『Brave and Partners Onlineのβテストにご参加いただきありがとうございます。ログイン処理を行います。――完了しました。行ってらっしゃいませ、リック様』


 グッと引き込まれる感覚の後、俺は町の前にいた。始まりの町、バース。ついにBPOの世界に入り込んだのだ。肩にはユキが乗っていた。指を近づけると、向こうから顔を近づけてきた。どうしよう。うちの子、ものすごく可愛い。


『チュートリアルクエストを開始します』


 機械音声と共に視界の右端に【チュートリアルクエスト1/5 クエストを確認しよう】と書かれたタブが出現する。そうだ、これはパートナーを愛でるだけのゲームじゃない。冒険がメインのゲームだ。気持ちを切り替えなければ。……にしてもこのタブ邪魔だなあ。


『メニューと唱えてください』

言われた通り、虚空に唱えるとステータス画面に似た透明な板が表示された。


『これがメニュー画面となります。メニューからクエスト一覧を選んでこのクエストのクリア報酬を受け取ってください。クエストを視界に常時表示するかどうかもここから設定できます』


 クエスト表示を邪魔だと思ったのが伝わったのか、タブの消し方をアナウンスされた。思考を読んでAIが話している? そんな訳ないか。タブの消し方は全員に言ってそうだ。


『クエストは大きく二つに分けることができます。それぞれのプレイヤーが受注可能な個人クエストと全プレイヤーに共通する共通クエストです。共通クエストは受注およびクリアが不可能になる場合もあります。このクエストは個人クエストです。その中でもチェインクエストと呼ばれます。チェインクエストでは条件をクリアすると次のクエストが解放されます。クリアが他のクエストに比べて困難であるため、最終クリア報酬が豪華な傾向にあります』


クエストクリア報酬は百オル。どのくらいの価値があるかはまだ分からないけど、お金だから嬉しい。次のクエストは【チュートリアルクエスト2/5 町に入ろう】。目の前にある大きな門から入れば良さそうだ。


「おっと。マスターのお兄さん。身分証明証はあるかい? 無いなら百オル必要だぞ」

門番であろう兵士に止められた。開きっぱなしだったメニューからアイテムを見てみるが、入っているのは短剣だけだった。先ほどのクエストの報酬の百オルを払って入れということだろう。


「証明証はありません。百オルでしたよね?」

「ああ。確かに受け取った。通っていいぞ。証明証となる物がないならギルドに行くと良い。ギルドカードを発行してもらえるぞ」

「ギルドはどこにありますか?」

「冒険者ギルドだったらこの大通りをまっすぐ進むと見えるぞ。魔術師ギルドは領主の家――あのでけえ家の近くに、他のギルドは職人街だな。マスターならまず冒険者ギルドに行くことを勧めるぜ」


 親切にしてくれた門番に礼を言い、メニューをまた確認する。クエストクリア報酬は一ポイントで、次のクエストも表示されていた。次は【チュートリアルクエスト3/5 ギルドカードを手に入れよう】。


 まずは、教えてもらった冒険者ギルドに向かえば良いだろう。ポイントは欲しいスキルができた時のために貯めておくとして、少しだけ冒険者らしくするために最初から持っていた短剣を装備する。


「初期装備だし、強くは無いだろうけど……。鑑定(アナライズ)


短剣

STR ↑


リック

種族:人間ヒューマン Lv.1

HP:20/20

MP:50/50

STR:5(+1)

VIT:5

INT:25

AGI:5

【スキル】

使役 回復魔法Lv.1 強化魔法Lv.1 付与魔法Lv.1 麻痺術Lv.1 鑑定Lv.1

【装備】

初心者の短剣 STR +1  耐久:∞


 装備すれば分かる情報さえ見れない鑑定は最弱スキルだった? いや待て。確かレベルを上げると読み取れる情報量が上がったはずだ。使えないと決めつけるのは早い。使い込めばレベルが上がるから、鑑定しながらギルドに向かおう。




ドア



ガラス


 最初のスキルって全然使えないんだな。見て分かることよりも情報量が少ないぞ、これ……。もしかして、他のスキルも使えない? 開始早々キャラメイクを後悔しそうになった。


 不安を抱きながらも、十回ほどスキルを使っていると読み取れる情報が上がった。ドアは木のドアに、ガラスは窓ガラスに変わっている。短剣は冒険者の短剣になっている。レベル二だと、正確な名称がわかることもあるらしい。成功確率は低いのか、ドアとしか読み取れない時もある。



 道に生えている草や家、店頭に飾られている商品を片っ端から鑑定してMPが尽きた頃には鑑定のレベルは三になっていた。もう少し鑑定のレベル上げをしたかったがMPが尽きてしまったので仕方がない。俺は冒険者ギルドの門をくぐった。


 ゲーム内でも明け方であるからか、ギルドの中は空いていた。チュートリアル中はプレーヤーごとにマップが違うのかもしれない。


「ギルドへの登録ですか? こちらへどうぞ」

「はい。どうすれば良いですか?」

「登録は無料となっています。こちらの水晶に手をかざすだけで完了です。あなたの魔力をもとにギルドカードを作成するため、偽装も紛失もありません」

言われた通りに手をかざす。が、何も起きない。


「人間は必ず魔力を持っているはずなんですが……。不具合がないか確認しますね」

受付嬢は首を傾げて水晶を持って奥へ消えていった。しばらくすると、奥へ消えていった女性の代わりにガタイの良い男が現れた。


「はっはっは。魔物でも現れたかと思ったが、MPが切れてるだけじゃないか。水晶の故障じゃなくてよかったぜ。ただ待ってるだけじゃMPの回復に時間がかかるからな。こっちへこい」

男に連れて行かれた先は、西洋ファンタジーの世界観に合わない……畳の部屋だった。


「瞑想っていうスキルがあるんだ」

男は胡座を組み、目を瞑った。彼は瞑想のポーズのまま話し始めた。


「こんな風に座って目を閉じて深呼吸をするとMPの回復が早くなるんだ。特にこの床の上だとな」

手招きをされたので、男の正面に座ってポーズの真似をする。現実では瞑想をする時間なんてないから新鮮な気持ちだった。


「おっ、スキルを取得したみたいだな」

男の声で目を開ける。ステータスを確認すると、瞑想のスキルが確かにあった。称号欄に何故か【不注意な冒険者】というものが追加されていた。


【瞑想】

操作をしていない時にMPを徐々に回復する。立っているよりも座っている方が効果が高い。


【不注意な冒険者】

不名誉称号。不注意な冒険者の証。

取得条件:チュートリアルクエスト中にMP切れを起こし、進行不能の状態になること。

ボーナス:2ポイント


「町の中は安全だが、冒険中にMPを切らすのは自殺行為だ。気をつけるんだな」

「はい……。ありがとうございました」

瞑想部屋? から出て、ギルドカードを今度こそ発行してもらう。ギルドカードを手に入れてクリア。報酬は二ポイント。同時に【チュートリアルクエスト4/5

ギルドの依頼をクリアしよう】が表示された。


「ギルドカードを発行しました。このギルドについて軽く説明させていただきますね」

俺はギルドのサービスとギルドランクの説明を受けた。


 ギルドランクは初級、中級、上級、そして伝説級があり、上級まではギルドで依頼を受けて貢献度を稼ぐことでランクアップできる。伝説級は伝説になるようなことをすればなれるランクで、現在は該当者がいないらしい。


 ギルドでは依頼を出すこと、受けること、モンスターの素材の売買、掲示板への書き込みができると教えてもらった。掲示板はメニューからでも見たり書き込んだりできるとのことなので、後で見てみようと思う。


「依頼を受けたいんですけど、おすすめはありますか?」

「リックさんは鑑定スキルをお持ちのようなので、採取系の依頼がおすすめです。採取系は基本常設の依頼ですので、依頼失敗のおそれもありませんからね。まずは草原での薬草採取などはどうでしょう」

「ありがとうございました。いってきます」

さあ、冒険の時間だ!



 町の周りの草原――バース草原に俺たちは来ていた。草原にはプレイヤーと思われるモンスター連れの人がたくさん居た。普段なら他の人にモンスターを取られてレベル上げができなくて困るところだが、今日は薬草採取に来ているのでむしろ嬉しい。他の草と見た目が違うものを見つけたら、鑑定を使って確認して採取する。


 とんとん。肩に乗っているユキに叩かれた。ユキの目線の先を見てみるとユキとそっくりなモンスターが居た。


「ホーンラビットか! 強化(ブースト)STR(ストレングス)。ユキ、頼む!」

ユキは肩から飛び降りると突進のスキルを使い、ホーンラビットを消し飛ばした。ホーンラビットは角を残して消えている。


「すごいなユキ!」

うちのユキは可愛いだけじゃなく強かった。強化魔法がどれくらい効いているのかも気になるので、ステータスを確認する。


(ユキ)

種族:ホーンラビット Lv.2

HP:10/10

MP:0/0

STR:4 (+3)

VIT:3

INT:1

AGI:10

特性:跳躍

【スキル】

突進


 数字でみると大したことがないように見えるが、二倍になっていると考えるとかなり良い魔法だ。強化魔法が固定値で助かった。MPを増やしていたおかげであと八回は使える。付与魔術も試してみたいな。


「この調子で戦うぞ、ユキ!」



「痛っ」

敵の攻撃か。どこだ? 足がじくじくと痛む。下か! 足元を見ると蛇のモンスターが居た。


「毒蛇か? とりあえず試すか。付与(エディション)

……何も起こらない。こうしている間にも毒ダメージが溜まっていくのに……。


『効果が未選択です』

効果? そっか。付与だからつける効果を選ぶ必要があるのか。付与できそうなのは麻痺術だな。


付与(エディション)麻痺術(パラリシス)! 頼む、ユキ!」

ユキが突進を使ってダメージを与える。攻撃を受けた蛇は倒れなかったが、麻痺を受けて動けなくなっている。


 ユキが畳み掛ける。突進のあとは通常攻撃だったため、一撃は重くないが、手数で押し切れそうだ。


 蛇もこのままではやられてしまうと思ったのか、最後の力を振り絞ってユキに噛みつこうとする。


「危ない! 強化VIT(バイタリティ)

強化魔法によって固くなったユキの体に満身創痍の蛇では傷がつけられなかったらしい。ユキが傷ついた様子もなく、蛇の撃破に成功した。


 ユキが駆け寄ってきてくれた。その目は俺の足をじっと見つめている。


「心配してくれてありがとな。回復(ヒール)

ステータスを確認する。レベルは一つ上がり、俺のHP、MPは半分ほどになっている。念のため、もう一度回復を使っておく。


 今回は苦戦してしまったが、事前に強化魔法を使っておけば余裕を持って勝てそうだ。毒は二秒に一ダメージだった。HPにもVITにも全く振っていない紙耐久の俺でも一発ならくらっても大丈夫そうだ。

「ユキ、もう少し戦うぞ。頼んだ」

ユキは俺の足を見たあと、不安げに頷いた。



 俺たちは強敵と出会うこともなく、レベルを五まで上げ、町に戻ってきた。余ったMPを鑑定に使いながら、ギルドへと向かった。

「依頼の達成報告に来ました」

「おはようございます。確認しますね。……薬草が六枚、ホーンラビットの角が三つ、ポイズンスネークの革が一枚です。報酬は四十三オルとなります。貢献度を加算します、ギルドカードをこちらの水晶にかざして下さい」

水晶にギルドカードをかざすと淡い光にカードが包まれた。光が治ってから取り出す。貢献度の欄が変化している。魔法を使いまくって頑張ったのに、貢献度は一桁だ。……先は長い。

 チュートリアルクエストの報酬は二ポイントだった。そして次のクエストは【チュートリアルクエスト5/5 ギルドで認められよう】。達成方法は……中級になること。……これ無理じゃね?

 掲示板を覗いたら一度ログアウトして寝とこう。今日は休みだからまた昼間からゆっくりプレイしよう。

【BPO豆知識コーナー】

 このゲームではプレイヤー=テイマーをマスターと呼んでいます。

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