西の村
三人と別れた後、町に戻ってログアウトした。
休憩してから再度ログインし、西の森に向かう。βテストの時はユキとサヨが居たが、今の仲間はイブキだけ。
とはいえ、レベルは今の方が高いから倒せるはず。
『ボスエリアに入りました。エリアボスとの戦闘が始まります』
あいつを見るのも三度目か……。だが、四度目はない!
行動パターンは俺よりも先に倒した人が、βテストと変わりないと言っていた。ならば、俺は前回の経験を活かして戦うだけだ。
「強化STR、付与毒術」
強化魔法を自分にかけて狼の方へ駆け出す。
「速突き!」
狼は油断をしていたらしく、一撃目はほとんど避けなかった。鋭い一撃が狼を襲う。
俺は二、三撃目を連続で繰り出す。だがそれは躱されてしまい、毛に掠った程度だった。
躱されるのは想定内。一撃目さえ入ればいい。毒が入るから。
狼は俺を倒そうと爪を振るう。それを避け、槍を使って軌道を逸らし、防いでいく。俺の攻撃だけでは決定打となり得ない。卑怯だが、俺は毒を使って倒す!
狼が苦しそうに吠えた。仲間を呼ぶ合図だ。背後の狼が唸っているのが分かる。
「イブキ、頼んだ。強化INT」
木々が揺れた。イブキが風を操り狼を一掃する。
レベル二十になって覚えたイブキの新しいスキル、【風魔法】だ。念願の攻撃技で、MP消費はそれなりにあるが、高い攻撃力を持つ。
イブキは風の渦に狼を巻き込み、その狼を他の狼にぶつけることでより凶悪な攻撃にしていた。イブキのMPが尽きる前に子分の狼は全て素材へと変わっていた。
狼は毒に耐えつつ、歯を剥き出しにして威嚇する。狼は俺を丸呑みにするために駆け寄ってきた。
単調な攻撃だ。俺は小さくサイドステップして避け、狼の顎に槍を突き刺した。動きが止まった狼から槍を引き抜く。狼は力尽きて倒れた。
『エリアボスの討伐を確認しました』
ボスエリアの向こうにも狼の縄張りが続いていた。少し強くなったように感じるが、倒せないことはない。新たなモンスターが出ることもなく、順調に森を抜けた。
そこには黄金色が広がっていた。
「ここが西側の村かあ」
聞いていた通り、一面の小麦。空気も澄んでいて気持ちが良い。晴れやかな気分のまま俺は中心部へ向かった。
湿地の村よりもプレイヤー達で賑わっていた。現時点で、料理ギルドと農業ギルドがこの村にしかないというのもあるかもしれない。戦闘職と一目で分かるプレイヤーも生産職のようなプレイヤーもいる。
俺は村を一通り見て回ってから、料理ギルドに向かうことにした。
食事処の良い匂いに釣られて中に入る。食べ歩きができるメニューがあるそうなので、それを頼む。
「あなた、冒険者? 西の街に行くのはあまりおすすめはできないわ」
「どうしてですか?」
「復魂祭が近づいてきているからよ。今の時期はモンスターが凶暴化して通り抜けるのが難しくって。まあ、この村に留まってくれるなら、商売がしやすいから大歓迎だけどね!」
彼女から頼んだメニューを受け取る。サンドイッチだった。新鮮そうなレタスとハムが入っていて、美味しそうだ。
「ありがとうございます。装備を整えたいのですが、良い店はありますか?」
「冒険者の装備に良さそうなものはないだろうね……。ま、美味しいご飯でも食べてゆっくりしていきな」
結局、彼女が言ったように良さそうな武器や防具はなかった。
料理ギルドにやってきた。村で一番大きな建物に、料理と農業のギルドがあった。俺は受付に行き、料理ギルドの講習会に参加したいと伝えた。指定された時間まではかなり時間があったため、一度ログアウトした。
時間になったから再度ログイン。解体の時のように手間取ることなく、一発で料理スキルを取ることができた。これで簡易料理キットを自分で使えるようになるな。
料理に使えそうな食材をいくつか買う。このゲームはスキルによって補正がつくため、多少雑でも形になる。手間がかかる料理も簡単に作れて良いな。
補正を使わないで作った方が良い品質になるらしいが、俺はそこまでは求めないから、スキルの補正を使って簡単に作ろうか。パートナーたちと一緒に食べれると良いな。……イブキは進化すると食事ができるようになったりするのだろうか。
区切りの良い所まで進めたため、今日はログアウトした。
『【第1回 BPOランキング】の結果を見ますか?』
次の日ログインすると目の前にウィンドウが表示された。
エントリーした覚えも開催予告を見た覚えもなかったが、公式が表示させているメッセージであるのは確かである。疑問に思いつつ開く。
『【第1回 BPOランキング】結果
ランキング対象項目は以下の通りです。
※1位の記録を見ることができます。
(親密度平均を除く)
最高レベル
上昇レベル
最大HP
最大MP
最大STR
最大VIT
最大INT
最大AGI
スキルレベル合計
総取引金額
親密度平均
称号獲得数
1度どれかの項目で1位を取ると、殿堂入りプレイヤーとなり、以降ランキングには参考記録として載ります。
1位は重複して取ることができません。
1位のプレイヤーはそれに対応した称号を入手できます。』
ステータス関連の記録は絶対に無理だな。数値を確認したが、掠りもしていなかった。三桁がゴロゴロいたなあ……。
無理だと分かっていても、望みを捨てきれず、称号欄を確認した。
【不注意な冒険者】
【妖精の加護】
【大樹の解放者】
【毒使い】
【お人好し】
【称号を集めし者】…New!
【称号を集めし者】
称号を誰よりも集めた証。2041年 7月の称号獲得数1位の記念称号。
条件:BPOランキングで称号獲得数の1位になる
ボーナス:10ポイント
「……え、マジで?」
俺の呟きは虚空へ消えていった。




