閑話【本サービスに向けて】
「βテスト終了! お疲れ様でした!」
「リーダー、まだ早いですよ。これから得られたデータやアンケートを元に修正をしていくんですから」
打ち上げのようなテンションのリーダーを副リーダーが現実に引き戻す。リーダーは「忘れていたわけではない」と誰に向かってでもない言い訳をして、デスクに向かった。
運営チームは数日でほとんどの修正を終えた。その理由の一つには元々バグが少なかったというのもあるが、最も大きな理由は、優れたAI活用技術であった。近年は修正作業で人工知能が使われることが多いが、人工知能の開発においてこの会社は頭一つ抜けていた。
順調そうに思えた彼らを悩ませていたのは「パートナーとまた旅をさせてほしい」といった要望だった。ゲームで楽しんで欲しかったパートナーとの触れ合いを楽しんで貰えたのは良かったが、一週間分育てられた魔物を製品版にも持ち越せる、となるとゲームバランスが難しい。かといって、そのままデータの山に埋もれさせるのも気が引けた。
最初に配られる魔物のAIは自然発生する魔物のものとは違っていた。その性能は人間NPC用のものとほぼ同じ――超高性能AIである。それに加えて、プレイヤーのサポートが出来るように数々のデータを学習させていた。学習するにも時間がかかるため、彼らはそれを無駄にはしたくなかった。つまり、運営はなんとかして正式版にも使いたいと思っていた。
「レベル一からスタートすれば良いんじゃないですか?」
「駄目です。一緒に強くなった経験がなくなるような感覚になるので」
「違う世界から連れてきたせいで弱体化したっていう設定はどうだ?」
「復魂祭の設定と矛盾しませんか?」
「それなら、神殿解放から使役できるようにするのはどうでしょう?」
「それだと以前からの魔物とのレベル差が開きすぎてしまう。思い入れがあっても弱ければ使えないだろう」
提案しては却下され、提案しては却下され……。いくつもの案が出されては潰える。
「レベルが上がりにくければ……。そうだ、使役する魔物が増えれば増えるほど獲得できる経験値が減るようにしよう」
「愛でるための魔物か……。なら、二回目の復魂祭の後に解放する予定だった家の解放を先にしよう」
「待ってくれ。復魂祭後に解放される要素が増えすぎてしまう」
「要素が少ないと不満が出ていたから良いじゃないか。……他にも案があればどんどん出してくれ!」
より良い体験をプレイヤーに届けるため、彼らの戦いはまだまだ続く。




