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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第四章
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第99話 案内

 ノリス達はこの街の現状をある壮年の男性から聞いた。




 あの門の前でのひと悶着は酷いものだった。


 それぞれに並んだ列がまとまって激しい罵り合いが続き、一向に終わる気配が見えなかった。

 その騒ぎを聞きつけて門番の兵士達が駆けつけてきたのだが、その兵士達も胸にそれぞれのエンブレムを付けていたのだ。


 兵士達すらも混ざるのかとゲッソリした表情で見ていたノリス達。

 しかし、一応は治安維持の為なのか、単純に門前で騒がれると入場に支障が出ると思ったのか、互いの列をなだめてくれた。


 暫くして周囲の者達がようやく落ち着いた後、ノリス達へ兵士が話しかけた。


 騒ぎの理由ではないし、根本的な問題は別にあるのだが、原因はノリス達が何も知らずに列に並んでしまったからだ。


「すまんな。俺達はただ先に行きたくて、この街を通りたかっただけなんだ。

だから、あまり街の情報や状況を知らなかったんだ。

出来れば、今の時間的にも街の宿で一泊したいとも思っているんだけどな。」


 兵士の中に女性が居なかったので、誰よりも温厚なノリスがわざわざ頭を下げて謝罪し、説明した。

 兵士達もノリスの言葉を聞いて納得したのか、ため息を吐きつつも微笑ましく受け入れてくれた。そんな中、マッシュ陣営のエンブレムを付けた兵士の一人が、ノリス達を見て、最初に話した冒険者と同じような顔をした後、こう言った。


「そうか。聞いているとは思うが、我々の方はこのエンブレムを付けた者か、その者からの紹介が無い限り、通すことは出来ん。しかし、そうだな……特別にだが、入場の為の税をこのぐらい払ってくれれば、エンブレムも渡すし、入場も許可しよう。」


 兵士の一人は言いながら、ハンドサインで金額を提示した。

 他の街の入場税に比べて数倍はするほど高額だった。


 ノリス達の風貌を見て、大した者達じゃないと判断し、しかし高額だったとしても払える財力があるのならば、それなりに優遇してやろう。いや、良い金蔓になるだろうと考えたようだった。


「おいおい。流石に高すぎねぇか?」


「なぁに、入ってしまえば我々の素晴らしい施設が利用できるのだ。かなり得になるはずだ。

それに隣の列へ行っても構わん。確かにあっちの税は安いのだが、中の施設も安い、臭い、悪いで有名だぞ?」


 最初に話した冒険者と同じように兵士はヴァンフ陣営を馬鹿にした。


「貴様!?嘘をつくな!

そう言うお前らのところは見た目だけ。中身はスッカスカじゃないか!」


「なんだと!?」


 今度は兵士同士が揉めだした。ノリス達はもうお腹いっぱいだった。


 それだけで終わるのならば、まだ良かった。だが、ヴァンフ陣営が対抗して入場税をマッシュ陣営よりも値上げしだした。それに反発し、マッシュ陣営も更に値上げ……まるで子供の喧嘩のように値上げ合戦を繰り広げ、何故かノリス達の入場税があり得ない程、馬鹿みたいな金額にどちらもなっていった。


 ノリスもイドも資産的に払えない訳では無いが、街に入る為だけにそんな金額を払おうとは微塵も思わなかった。宿で一泊というか、他の街なら家が買えるほどだ。バカバカしさも限界突破している。

 ほんの少し前まで、数日ぶりに野宿から解放されてベッドで寝れるかと気分良かったのに、こんな事なら街を迂回してその辺で野宿した方がまだマシだと思った。


 ノリス達は顔を見合わせて頷き合い、まだ収まることのない兵士達の二回戦を放置し、街を迂回すべく列から離れようと来た道を戻ろうとした。



 呆れ果てながら戻る際、ヴァンフ陣営の長い列をなしていた中から、一人の気の良さそうな商人風な男性から声をかけられた。

 その男性が言うには、今目の前にある正面の門から横にしばらく進む場所に、どちらの陣営にも属さない者達が使っている小さな門があるとのことだった。そこならノリス達も問題なく街へ入れるだろうと断言した。


「良いのか?アンタだってこの列に並んでいるということは……」


「ハハッ。彼らのやりとりを聞いて、今並べとは流石に言えませんよ。ですが、街に入ってからでも加入は出来ます。こうして私が助言したと記憶してくれれば、良い方へ転ぶかもしれませんしね。」


「かもな。ありがとう。助かった。」


「いえいえ。助けたとは思ってませんから。

どちらの陣営にも属さない者達はこの街でかなり少数派です。ですので、街へ入ってもあまり期待はしない方が良いでしょう。

だから、入った後にもし良ければ私の店を訪ねてください。色々紹介できると思いますよ。」


「ま、とりあえず入ってから考えるさ。」


 ノリス達は気の良い商人から手書きの店の場所を貰い、お互いに笑顔で手を振り別れ、言われた通りにどちらの陣営にも属さない者達の門を目指した。



 そうして、教えられた通りに門を見つけ、一般的な入場税を払って街に入った。

 入った瞬間にノリス達は気の良い商人の言っていたことを理解した。


 どちらの陣営にも属さない者達はかなり少数派。それは本当だった。恐らくノリス達が目に見える範囲一帯ぐらいしか居ないと感じた。

 正面に割と大きな宿屋風な建物と、向かいに商店が建っていた。その周囲を普通の民家が立ち並ぶ。その全てがボロボロではないのだが、取り巻く空気が重かった。近くの道を歩く者達もスラムの住人みたいな恰好はしておらず普通なのだが、表情だけはスラムの住人と大差なかった。


 どちらの陣営にも属さない者達とは、どんな人なのか?

 対立が嫌いな人かと言うと、正しくない。

 マッシュ陣営にもヴァンフ陣営にも、対立が嫌いな人は存在している。恐らく気の良い商人もその一人かもしれない。しかし、どちらかに入らなければ街での生活が成り立たないから入っているのだろう。友人、家族、周りの影響を考えて、特にどちらでもどうでも良いが、とりあえずどちらかに入っている人だって居るはずだ。

 だから、どちらの陣営にも属さない者とは、それら全て捨てたとしても対立するのが嫌で嫌で仕方がなく、疲れ果てた者達だった。


「なるほど。これは確かにあまり期待できんな。」


「イド。あまりハッキリ言うなよ。こっちまで気が滅入る。」


「まぁまぁ、二人共。宿は大きそうですし、とにかく泊まれるか行きましょう。」


「……うん。」


 サウルとエストにせかされて、宿屋風な建物に入るとやはり宿屋だった。

 値段も相応で、設備も悪くない。店員の表情筋が死んでる程度は気にならなかった。

 軽く事情を話し、宿の説明を受け、宿泊費を払い、受付を済ます……ここまでは普通の宿屋だった。しかし、その後に宿の管理者と面談があると言われ、店員は奥へ下がっていった。数分で代わりに戻ってきたのは、一人の青年と付き従うように一歩下がった壮年の男性。


 ノリス達はその壮年の男性から、この街の現状を教えてもらったのだ。

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