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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
幕間 竜
95/104

第95話 竜Ⅳ

 英雄……または、Sランクの冒険者。


 それは、冒険者として登り詰めた高み。

 組合での評価の上限値でもあり、その評価はランク制度を採用しているが、順位ではない。

 よって、冒険者同士で競い合うものではない。


 魔物と戦う上で、相対する魔物の危険度を推し量り、冒険者が自身に見合った敵と対峙する基準でもあるのだから。


 断じて冒険者同士で競い合うものではないのだ。



 俺以外の仲間達は『玄武』の台頭によって、それが抜け落ちた。

 


 まぁ、分からなくもない。


 当時や今も、俺達以外の英雄は他にも何組か居た。そこは特に問題は無かった。

 しかし、俺らが『青龍』として活躍し、その後少し経ってから『玄武』が出てきた。どう考えても俺らと類似した名前だ。意識しない方が難しいだろう?

 更に言えば、『玄武』はノリスも居たが、いつ誰がどこから見ても『剣聖』を中心としたハーレムパーティだった。そのハーレムパーティと同じだと周囲から認識されるのだ。

 セガル達が「『玄武』だけには絶対に負けたくない。」と思うのも仕方が無いことだった。


 そして、より強い魔物と戦う為に研鑽する事よりも、後から出てきたある意味後輩冒険者『玄武』の先輩として、俺らが上に立ち続ける事が主体になっていた。

 本来、強い魔物と戦い続ける為に、英雄として……ある種の頂点に登っても、進み続けなければならなかった。しかし、言うなればセガル達は自分達の立場を守ろうとしてしまったのだ。


 当初は俺も、セガル達と同様にその気持ちがまるで無かった訳でもない。


 一歩一歩地道に、一生懸命に、苦難を乗り越え、辿り着いた境地。そこへ常にイチャイチャしているハーレムクソ野郎が同じ立ち位置に至った。

 それだけで、イラっとした殺意が沸き上がったし、周りの人々が俺らを一緒くたにして評価するのもかなり嫌だった。


 だが、実際に『剣聖』やノリス達としっかり会話して俺だけは思い直した。

 俺はリーダーだったので会話する機会が多く、その度に『玄武』の努力を思い知った。彼らは俺ら以上に必死で歩み続けていた。

 セガル達も俺と同じようにすれば、少しは変わったのかもしれない。しかし、会話することすら嫌い、彼らを陰で散々馬鹿にした。


 そこから、俺とセガル達は少しずつズレていった。



 自分の地位を守ることに固執し、かっこ悪く失敗することを恐れ試行錯誤しなくなり、効率を追い求め出した。

 泥臭く研鑽を積むよりも、武器や防具の性能を上げることが重要になり、金遣いが荒くなって買った装備を自慢するようにもなった。



 『玄武』が台頭してきた当初はそれでもほんの少しだけだった。

 その程度なら気にならなかったし、俺らもまだ若く、かつ幼馴染の勢いのままだった為、気軽に意見を言い、笑い合いながら日々を楽しく過ごしていた。

 セガル達の気持ちも理解できたからこそ、俺はそこまで真剣に考えていなかったのが悪かったのかもしれない。


 今思えば、あの頃もっと真面目にちゃんと引き締め直していたら、もしかしたら……なんて仮定の話か。とにかく俺はズレを認識していながらも、放置したのだ。


 その後、『朱雀』や『白虎』まで現れてしまい、よりセガル達の保守的な気持ちが高まり、俺らが年齢を重ねる毎にズレはドンドン酷くなっていった。


 勿論、その間何もしなかった訳ではない。

 何度も話し合い、修正を図った。俺が修正と言ってる時点で、すでに手遅れだったかもしれない。


 その中でも特にセガルは大変そうだった。

 セガルは槍使いな為、俺と二人で前衛を任されていたから俺の気持ちを十分に理解していた。『玄武』に負けたくない気持ちも持っていて後衛の仲間達とも一緒になって駄弁り、セガルは俺らの中間に存在していた。

 だから、俺と後衛の仲間達の間を取り持とうとかなりフォローしまくっていた。

 いや、セガルだけじゃない。俺らは幼馴染で全員が対等だからこそ、セガルに頼りきるだけではなく、俺や他の後衛の仲間達も精一杯繋ぎ留めようとしたのだ。


 しかし、別れた道は交わらなかった。


 俺は物欲が無くなってしまったから、仲間達がより良い装備を求めるのが理解できなくなっていた。



 次第に俺達の関係は、尊重から妥協に……そして我慢に。交流から衝突へ……対立から、最後は諦めに変貌していった。



 それでも『青龍』は続く。


 生活環境は早々に変えられない。幼馴染だから本当に長年付き合ってきた。更にはもう全員が良い歳になった。

 多少の我慢や諦めで日々が続くのならそれで良いと、全員が問題を先延ばしにしていた。


 俺らのギスギスした空気が漂っていようが、周囲の人々は称賛するだけで、何も言わないし言わせない。俺らはSランクの冒険者パーティ『青龍』。誰にも何も言われる筋合いはない。



 そうして誰にも止められることなく、『青龍』の寿命はボロボロと削れていった。



 ついには『玄武』の解散により『青龍』も唐突に終わった。



 やはりセガル達はノリスをアテにしていたようで、顔も知らないノリスを探し、わざわざ『剣聖』のところまで行ってまで確認したらしいが、結局見つけることは出来ず、俺もノリスと一緒にイドとして活動するようになって、戻ることも出来ず、結局解散したそうだ。この前会ったセガルにそう聞いた。

 セガルもまさか俺をクビにした直後に、俺とノリスが一緒に居るなんて想像もしていなかったようで、多少苦い顔をしていた。その後、道場を開いて苦労しつつも成功したようで、そこまで悔しがっていなかったが、気分的に少しスッキリした。


 他の元仲間達も、元『青龍』という肩書を利用して、色々と謳歌しているらしい。寧ろ「一番成功していないのが、お前だぞ?」とニヤリとしながらセガルに言われた。


 趣味で週末にダンジョンへ潜るEランクの冒険者パーティの一人。確かに全く成功してはいない。

 「なら、俺らに勝てるのか?」と笑いながら問いただしたら、「お前、ソレは卑怯だからな。」とセガルも笑って返していた。




 『青龍』は解散した。


 俺をクビという形で。だけど、いつか終わると思っていたから仕方が無い。

 セガルや恐らく他の仲間達とまた会う機会があってもこうして笑い合えるだろう。


 俺らは歳を取った。若い頃に比べ、頑固になってしまったかもしれないが、その分色んな経験もしてきた。笑って許せる余裕もあるのだ。



 だから、これで良いと思う。


 長い間、数々の成功を達成してきた。そして俺らは今も生きているのだから。

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