第94話 竜Ⅲ
ある意味、『玄武』が解散したせいで、俺は『青龍』をクビになった。
そして、付け加えるならば、『玄武』が台頭してきたせいで、俺ら『青龍』がおかしくなったとも言えた。
そんな『玄武』のアーロンと俺はパーティを組んだ。
おかしいと思うか?
だが、俺とアーロン……ノリスは似ているのだ。
特殊な人生を歩んだサウルやエストとは違い、俺とノリスは普通だった。
だから、俺とノリスは気楽な関係でいられたのだろう。
だから、俺とノリスはいがみ合うこと無く、あの時パーティを組んだのだ。
そう。普通なのだ。
ノリスは『玄武』のリーダーである『剣聖』と出会ったからこそ、色々経験することになったが、ノリス自身の生き様は割りと何処にでもある普通だった。
そして、俺も……。
何処にでもある普通の話だった。
地元の街で、幼馴染と組んだパーティ。
それが『青龍』なのだ。
だから全員が同い年であり、子供の頃からの近所付き合いで、共に遊び、共に学び、共に冒険者になる事を夢見て飛び出した仲間達。それが俺らだった。
ある友は槍を持ち、ある友は魔女に弟子入りし、ある友は薬師や呪い師の息子でもあった。
そんな関係だったから、パーティのバランスは悪く、拳闘士だった俺が壁役になるしかなかった。
最初は本当に大変だった。だが、まだ若く、そして楽しかった。
出来ない事も多々あったが、一つずつ、全員が協力し合い、試行錯誤しながら、問題を克服し、かなりゆっくりと冒険者としての高みを登った。
実は英雄になるまでの期間でいうと、俺らは他に比べてかなり遅い部類に入る。
『四神獣』として最初に俺らが始まりなのだが、英雄になるまでだと『青龍』が一番時間がかかっているのだ。『玄武』は平均的で、『朱雀』と『白虎』はかなり早い期間で英雄になっていた。
俺の受け流しもそうだし、セガルの【竜爪】だって、数多の失敗を繰り返して辿り着いたからだ。
そうして、経験を少しずつ積み重ね、少しずつ知名度も上げて、俺らはメンバーが代わること無く、日々を生き抜いた。
ここまでは苦難な道の連続で本当に大変だったが、やり甲斐もあり、その分の賞賛や報酬も少しずつ増えて、俺らの表情は曇ることなく、常に前を向いて、一歩ずつ進んでいた。
そういえば、俺が『清流』と呼ばれ出した頃、一つの真理を知った。そして、「英雄になると何処か狂う。」と周りから言われる意味を理解した。
ノリス達に性欲が無いのと同じように、俺は物欲が無くなっていた。
全てを受け流す。更には敵の力を流して増大させ、制御を狂わせ、傷付けさせる。この方法を覚えてしまうと、武器や防具が要らなくなった。
自らの攻撃は、自らの体を傷付ける。それはどんな魔物も人も変わらない。
例えば、かなりの硬度を誇り、やっかいな防御力を持っている【ミスリルエスカルゴ】という魔物が居るが、その魔物はミスリル鉱石を食べるから、外殻にミスリルを纏っている。なので、その魔物の消化液や噛みつきは、ミスリルも簡単に溶かし、砕く。要するに自身の体も食べれるのだ。
そうして、敵の攻撃こそが俺の攻撃になった。
お陰で、より良い武器が欲しいとか、防具が欲しいとは、微塵も思わなくなった。
ただただ己の技量をひたすらに研鑽すれば良い。それだけになった。
『週末』の装備はほぼ俺の意見でああなっているし、当時の防具も個人的には同じような防具でも良かった。
セガル達から、流石に見栄えが悪過ぎると文句の嵐で、渋々ある程度の装備は着ていたが、正直どうでも良かった。それ程に物欲が無くなっていた。
手で受け流し、足も使い、頭も使う。それでも足りない時は手を増やした。
頭を使う場合は額を使って受け流していたら、少しずつ額が広くなっていった。途中からヤバいと思って鉢金で隠したが、蒸れて更に広くなってしまった。
こうして俺はハゲた。
だが、その甲斐もあり、俺らは英雄になった。
いつの間にか俺らは『青龍』と呼ばれ、Sランクに上がる時にパーティ名も『青龍』に変えた。
俺らは本当に順風満帆だった。
この頃までは……。
だが、歯車はいつかズレる時もある。
最初に言った通り、ノリス達……『玄武』の登場で俺らの歯車は少しずつ狂い出した。




