第93話 竜Ⅱ
「おまっ!お前がっ!
ロン!!よくもまぁこの流れで俺の前に顔を出せたな!?」
「んあ?お、おい。どうした?ルース。
何故そんなに怒ってるんだ?そりゃ悪いとは思ってるさ。」
「当たり前だ!」
「いやぁ、俺達ももう少しは続けようとは思っていたんだぞ?」
「……うん?おい。ロン。一体何を言っている?」
「はぁ?俺達『玄武』が年上のルース達より先に解散するのが不甲斐ないと怒ってるんだろ?」
アーロンはこの後に及んで、意味不明な説明をした。
今、この時にコイツがココに居る。もうそれだけで真っ黒だ。俺との飲みが終われば、その足でセガル達と合流するのだろうと確信していた。
「しらばっくれるな!もう全てを知っているのだ。今更、隠しても無駄だ。」
「隠す?なぁ、ルース。さっきから何を言ってんだ?」
「茶番はよせ。こっちは今さっき終わったばかりなのだからな。
俺は『青龍』をクビになった。後はお前が加入するだけだ。」
「は?……クビ?……加入?」
「もう良いのだ……ロン。俺を一人にさせてくれ。」
惨めな俺を置いて、アーロンは先へ行けと、元ライバルとしての最後の意地で送り出そうとした。
しかし、目の前のアテはそれを許さなかった。
「ちょっと待て!何勝手に一人で完結してんだ?
ルースがクビ?何の冗談だ?お前がリーダーだろ。その後の俺が加入ってどういう事だ?」
「だから、俺の代わりにロンが『青龍』へ入るのだろ?それでお前がココに居る。」
「やべぇ……何言ってるのか、さっぱり分からねぇ。
なぁ、ルース。お互いに一旦落ち着こうぜ。まずは状況を整理しよう。」
アーロンは納得がいかないのか、かなり混乱していた。俺が一番納得していないのだが、確かに俺とアーロンの会話が噛み合っておらず、このままの流れで話し続けても一向に終わらない空気は感じた。
何が悲しくて自分がクビになった事情を、代わりに入るであろう相手へ説明しなければならないのか……バカバカしくなったが、渋々俺はアーロンに先程のやり取りを話した。
話し終えた時、アーロンは何故か驚いていた。
「マジかよ。って事は、もしかしてルース。俺が入るとでも思ったのか?」
「違うのか?俺の代わりになる奴など、早々居ない。そんな中、ロンが何故かココへ来たのだ。」
「待て待て。そんな話は一度も聞いたことがない。
と言うかだな。『玄武』が解散したのは五日前だぞ?本当に最近なんだ。
他の連絡はアイツに任せて、俺は直ぐにここへ来たんだ。俺が向かうよりも噂が広がる方が早かったが、それでもルース達とは色々一緒に冒険した仲だから、直接言おうと思って来ただけだ。
てか、さっきルースは驚いていたが、何故知らないんだ?組合で聞かなかったのか?」
「知らんな……そうか。最近、セガル達がやたら協力的だったのは、俺にその事を知らせない為だったか。」
『玄武』が解散した事をいち早く知った仲間達は、それを俺に気づかせないよう動いていたと知った。
「それで?ロンはどうするつもりだ?」
「どうするって、どうもしねぇだろ!
お前なぁ、散々俺にパーティの愚痴を聞かされて、俺が入りたいと思うか?
それにな、これから話が来るのかもしれんが、大体どうやって話が来るんだ?」
「どうやってだと?」
「ああ。俺の素顔を知っているのは、ルースとアイツ……他に居たかな?ぐらいだぞ?
当然、セガル達も知らねぇはずだ。」
「あの鎧を着たら一目で分かるじゃないか。」
「鎧ならもう無いぞ。アイツに餞別で譲ったんだ。
パーティが解散したから、もう生ゴミ達と一緒に行動することもないしな。
ルースが今ココにセガル達を呼ぶならまだしも……例え俺がセガル達の目の前に行ったとしても、そもそも俺だと認識すらされないだろうな。」
「……。」
「な?俺はどうもしねぇし、セガル達にもどうしようもないんだ。」
「……フッ……クハハッ、フハハハハッ!なんて滑稽な話だ!」
「だが、セガル達のアテが俺である確証はないんだろ?別のヤツなんじゃねぇか?
流石に顔を知らない俺をあてもなく探すなんて、あり得ないだろ?」
「いや、ロンのはずだ。アイツらは英雄であることを望んでいるからな。
Sランクの壁役なんて、そうあぶれていないだろう。下のランクの者を強引に引っ張り上げても崩壊するだけだ。」
「あー。そうかもなぁ。
しかし、そうなるとセガル達は俺を探せないんだし、結局ルースへ元通りにならないか?」
「あそこまで言われて俺が戻る訳ないだろ。それにアイツらだってプライドがあるから、言ってはこないはずだ。」
「そうか?ルースがブラブラしてたら、絶対誘われると思うぞ?
……そうだ!ルース。その際、俺と一緒にパーティ組まないか?」
「はぁ?俺が?お前と?」
「ああ。アーロンのままじゃ何かと面倒だと思っていたんだ。ルースもそうだろ?
だから、偽名で冒険者の再登録をしようかと考えていたんだ。」
「ふむ。確かにそうかもしれんな。」
「だろ!」
喜ぶアーロンは手を差し伸べ、俺と組むべく、握手を交わそうとした。しかし、その手を取る前にアーロンの思惑に気づいた。
「待て。ロン……面倒を俺に押し付ける気だろ?
新規登録やランク上げで受付嬢とのやり取りを俺にさせるつもりか?」
「……。」
図星のようでアーロンは無言を貫く。しかし、差し出された手が引かれる事はなかった。
「フッ。やはりか。
だが、そうだな……良いだろう。お前の誘いに乗ってやる。もうどうにでもなれだ!」
「流石、ルース!そうこなくっちゃ!」
アーロンの手を掴み、互いに握手を交わす。
俺は『青龍』をクビになり、アーロンとパーティを組んだ。
数時間後。
俺はイドとして、アーロンはノリスとして……
パーティ『週末のひととき』がここから始まった。




