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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第91話 手紙Ⅱ

 代表とジャンさんは要件が終わると帰っていった。あの時からまだ二日。色々やる事が山積みなのだろう。

 そんな二人と一緒にセガル様も帰った。というより、すぐにでも手紙を読みたいアンジェがセガル様を追い出していた。


「おまっ!?ちょっ……アイツらのように今生の別れになるかもしれんだろ!」


「師匠はずっとあの道場に居るじゃないですか!問題ありません!」


 代表やジャンさんに慰められながら、セガル様はとぼとぼと帰っていった。

 そんな光景を苦笑しながら見ているとケイトから話しかけられた。


「ねぇ。クロード。一つだけ聞きたかったんだけど……。」


「なんだい?」


「貴方は、アーロン様……ううん、ノリスさんをどうして知っていたの?」


「ああ。知っていた訳じゃないよ。気づいた……いや、思い出したんだ。」


「それは変。おかしい。

あの人の話は少し知ってるけど、鎧を脱いでいる時が滅多に無いのは有名。同じパーティの『流星』でさえ、もう昔過ぎて覚えていないと言った程。」


「ハハッ。俺も見た事はなかったよ。メリル。そうだね……少し昔の話をしようか。」


 クロードは懐かしむように語る。



 クロードがまだ子供の頃、一度だけノリスに会っていた。



 その日は『玄武』を讃えた凱旋パレードが自分の住む街で行われ、父親と一緒に見に行った。父親に肩車してもらい、そのパレードを一目見ると、俺はガン泣きしたらしい。

 らしいと言うのは、幼い頃で俺もあまり記憶が無く、父親からそう聞いたからだ。

 『玄武』はとても強い魔物を倒した凱旋みたいで、巨大で暗い色だが、怪しく光る魔石も『玄武』達と一緒に飾られていた。父親は俺が泣いた理由を見るだけで圧倒される魔石のせいだと思ったそうだ。


 凱旋パレードの最中に子供一人とは言えガン泣きした。流石に目立ってしまい父親は酷く焦ったそうだ。そんな時、パレードの中心に居た全身鎧を纏った一人の男性が、俺の泣き声に気づいて駆け寄った。


「どうした、坊主?何か恐い事でもあったのか?

大丈夫。安心しろ。なにせ俺が居るからな。」


 その男性はとても優しかった。ビクビクと震える俺を元気付けるように、俺の頭を撫でながら心配してくれていた。

 まだグズる俺の対処で、父親はパレードどころじゃないとすぐに帰ろうとすれば、男性はこう言った。


「子供に大人達のパレードなんて見せても、つまらなかったのかもな。

これで美味いものでも食べて、玩具でも買って、子供と一緒に遊んで、楽しく元気に笑っていた方が良い。」


 父親の手を強引に取り、こっそりお金を忍ばせてくれたそうだ。流石にそこまでされるのはと恐縮しっぱなしの父親に、


「なぁに気にするな。俺が誰だか気づいているだろ?俺達は金に困っていないからな。」


 そう軽く言って、男性は背を向け、手をヒラヒラと振りながら、パレードに戻って行った。



 ……あの日から、この話は父親の自慢の一つになった。一字一句間違わず、何度も俺はこの話を聞いた。

 本当に『玄武』が好きになったようだった。『玄武』の物語もほぼ全て家に揃えていた程だったよ。



 クロードは語りながら実家を思い出し、目を細める。親が集めた本を子が読まない訳が無い。当然クロードも『玄武』の物語を何度も読んでいた。


「それだけで、クロードはノリスさんの事を気づいたのですか?」


 エマは不思議そうにクロードへ聞く。その程度で分かるとは思えなかった。寧ろ分かるのなら、もっと広く知られているはずだと思った。


「違うんだ。エマ。

俺達の活動資金をくれた時、ノリスさんはさっきの話に出てくるセリフとほとんど同じ事を言った。俺はその時、全てを思い出したんだ。」


 クロードは首を振って否定した。


「あのパレードの時の俺は、『英雄がどれくらい強いのか見てやろう。』そう思っていたんだ。そして、アレを見て泣いたんだ。」


「あっ!そうか。イドさんが言ってた伝説の晩餐会?」


「その通りだよ。一度目は幼すぎてあの恐怖を記憶から消した。だから、二度目でも気づかなかったんだ。だけど、父親から何度も聞かされたセリフが出てようやく思い出し、確信したんだ。」


「そうだったのね。

『鑑定眼は他人の人生を盗み見る』……だったかしら?

でもそのお陰で、ほとんど知られていないアーロン様の素顔が分からなくても、クロードだけは気づいたのね。」


「フフッ。伝説の晩餐会をちょっと見てみたくなったかも。」


「やめておいた方が良い。俺もアレを見続けていたら、確かにノリスさんのようになるかもしれないと思ったよ。」


「それはダメよ!」


「そうだった。絶対ダメ。」


「アハハッ。特訓で慣れましたけど、あの方は本当に私達を人として見ていませんでしたからね。

さて、話も一段落つきましたし……アンジェもそろそろ戻ってきませんか?」


 クロード達四人がノリスとの思い出話をしている中、アンジェだけはセガルの書いた手紙を読んで一人号泣していた。


「し、師匠……うぅ……。」


「わかる!私達もさっきまでそうだった。」


「アンジェ。セガル様は何て書いてたのよ?」


「グスッ……く、クロードは壁役として長期戦は厳しいから、一瞬のスキを逃さず、可能な限り強力な攻撃で戦闘を終わらせると良いって。」


「セガル様は、俺を……認めてくれていたのか。」


 何だかんだ言いつつも、手紙の中のセガルはクロード達を認めていた。だからこそ、アンジェがどう動けば良いのかアドバイスが送れるのだった。


「うん。最初の頃のブルース様もクロードみたいだったって。

だから、少しでもブルース様が楽になれるよう色々試行錯誤したって書いてある。」


「へぇ。少し意外。」


「ですね。凄く仲が悪いのかと思っていました。」


 アンジェの補足にメリルやエマはセガルの印象が良くなり、感心していると……突然、ケイトが笑いだした。


「フフッ……アハハハハッ!ホントおかしいわ。

あの『青龍』なのに……凄い人達だったのに……こんなにも人間臭いなんてね。」


「ケ、ケイト!?」


「アンジェ。私達と同じよ。ただのボタンの掛け違え。

それを解決したのが私達、出来なかったのがイドさん達。それだけだわ。勿論、私達のはイドさん達が助けてくれたからこそなんだけどね。

だから、アンジェ。貴方は【破龍穿槍】を使えても絶対使わないでね。」


「え!?」


 セガルはブルースの為に、より攻撃力を、より戦闘時間が短くなるように効率を求めていた。その結果が【破龍穿槍】だった。

 倒すのに二十分掛かる魔物を、使えばたった十分で倒す。ブルースが壁役する時間が半分になる。仲間を思いやる、素晴らしい技だ。……当たればだが。


 ブルースは逆に、通常通り二十分戦い確実に倒した方が良いと考えている。外された時の徒労感もそうだが、【破龍穿槍】を使い終わったセガルの疲労が凄いからだった。別にそこまで出し切らなくて良いとさえ思っていた。


 お互いがお互いを思い合っているのにすれ違う。まさにボタンの掛け違えだった。

 『四神獣』の中で一番最初に現れ、その中でも一番なのではないかと言われていた、あの『青龍』がこんな簡単な問題を抱え崩壊したのかとケイトは知る。


「いえ。簡単だからこそ、長い年月で積み重なって解決できなくなったのかも。恐らく二人とも気づいたけど、その時にはもうどうしようもなかったのね。

だから、私達には同じにならないよう、こうして書いてくれたのね。」


 ケイトはイドの書いた手紙をアンジェや皆にも見せつつ、セガルの手紙も皆で読むことにした。

 読み終わる頃には、やはり全員が今回の経験のお陰でケイトと同じ考えに至っていた。


「そうなる可能性があったとしても、俺達はならないさ。そうだろ?」


「ええ。そうね。」


「うん。大丈夫。」


「ですね。」


「ああ。誓うさ!」


 それぞれに残され、手に持つ手紙を胸にしまい、その手紙を書いた者の名を背負い、クロード達は先へ進む。

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