第90話 手紙
クロード宛にノリスが書いた内容は、以前クロードが聞きたかった事が色々と書いてあった。
実際の盾の使い方や、魔法の盾の効果的な運用法など、文章の為に少し曖昧だが記されていた。
この場合はこうした方が良いと書いても、違う解釈される可能性もある。ノリスはそう考えて、「この場合は注意しよう。」や、「こういう時もある。」など、自身の経験も踏まえた上で、なるべくクロードが自分で考えて実践させるように書いていた。
更に最後には付録がついていた。
「あの『青龍』が……そうだったのね。」
イドが書いた手紙を読んで、ケイトはセガルに聞こえないようにボソッと呟いていた。
イドは手紙の中でケイトへ話し合う事の大切さを、自身の経験を……『青龍』の崩壊を例えにして、説いていた。
クロード達で一番率先して仲間と会話するのは性格的にケイトだ。だからこそイドは、ケイトに自分と同じ道を歩まぬように考えていた。
仲間とは言え、他人と同じ時間を過ごしていく上で、どうしても我慢しなければならない事はある。
それが積もり積もって爆発しないように、話し合ったり、想い合ったり、分かり合ったり、バランス良く付き合っていかなければならない。違うからこそ、我慢する事は仕方が無いのだ。
それに我慢するということは、いつか改善してくれるかも?と期待していることでもある。それはある意味で良い事でもある。
イドはケイトに、諦めないことが一番肝心だと記した。
話し合ってもどうしようもないと諦め、もう分かり合えないと諦め、行動してもいないのに勝手に諦めてしまう。『青龍』はそうして崩壊へと進んだのだとイドは、クロード達もそうならないように願って赤裸々に書いていた。
「うっ……またこの本ですか……。」
エマだけは手紙と併せて、一冊の本を渡されていた。
エマが特訓中に嫌という程、読み込んだ本でもある。
しかし、外装は少し違った。サウルが渡した本は【アナトリス大全】であった。サウルが監修した【シルベスト大全】は流石に渡せないので、市販の【アナトリス大全】を購入し、中身だけ修正した物だった。
サウルは今後もエマに日々知識を蓄えて、回復の助けになればと考えていた。
どうしてもツラかった特訓を思い出してしまうので、エマは泣き言を呟いてしまったが、エマ自身もその有用性は理解していた。サウルのようにほぼ指を鳴らすだけで回復魔法が使える訳ではないが、ある程度知識をつけたエマもほとんど詠唱を必要としなくなっていた。制御も昔に比べ段違いで楽になっていた。
これからも仲間を癒す為には、必ず必要になってくるはず。でも、やっぱりあの頃を思い出してしまう。エマは気持ちのせめぎ合いをしつつも、サウルの手紙を読みながら心を奮い立たせていた。
メリルにはエストが贈る。
弓使いのメリルなら他の者と距離感が違う為、戦闘中に周りを見やすい。なので、どうやって全体をフォローすれば良いのか?一番適任であったからこそ、エストは色々なアドバイスをしていた。
普段、会話をあまりしないエストなのだが、文章では饒舌に書かれていた。
しかし、弓使いとしての技術は結局のところ教える事ができない。だからエストは他を頼った。
「ねぇ。クロード。エストさんが、弓についてはクロードに頼むと良いと書いてあるけど……どういう事?」
「あっ!私もイドさんから同じ事が少しだけ書いてあったわ。」
メリルがクロードに質問し、ケイトも同様に聞いた。
クロードの手紙には、中にもう一つの手紙が入っていた。
「ノリスさんが、もし困った事があれば『剣聖』を訪ねるようにと、その紹介状を用意してくれたんだ。
あの国には、『剣聖』と一緒に『流星』も居るから、剣士のケイトと弓使いのメリルは色々と学べるはずとも書いてある。」
「ホント!?」
「嘘っ!私が……あの『流星』に?教えてもらえるの?」
クロードの答えにケイトとメリルは飛び跳ねて喜んだ。クロードにとっても、似たような構成だった『剣聖』へ色々と話が聞きたかったので、ノリスの提案は本当に嬉しかった。
クロード達四人はノリス達の手紙をもらって読み始めた当初は、手が震え涙を零しながら読んでいた。しかし、読み終えて、ノリス達の想いを受け取ってからは、勇ましくも凛々しい顔つきへと様変わりしていた。もうノリス達を追いかけようとは誰も言わなかった。すぐにでも先へ……ノリス達の期待に応えたい想いでいっぱいになっていた。
そんな四人の表情を見て、ただ一人同じ手紙を手にしながらも読めないアンジェは、何度も書き手であるセガルの顔色を伺って読みたい視線を送るが、セガルから断固拒否され押さえつけられていた。
「アンジェ。頼むから俺が居ない時にしろ。
フンッ。さて、お前らのその顔を見れば、アイツらの予想は杞憂だったな。
ほれ見ろ。俺の言った通りだ。」
「セガル様。では、アレも彼らに……?」
「それはそうだろう。アンジェが居るのだぞ?経験を積めば、すぐにでも到達するはずだ。」
「セガル様……それはちぃとばかし贔屓が過ぎるんじゃないですか?また彼らに怒られませんかね?」
「うるさい!どうせもう会うことはない。それにコイツらも背負った方が良いはずだ。
お前ら!アンジェもだ。コレが俺らからの最後の贈り物だ。
お前らがコレに囚われそうだったら見せるなとアイツらは言ったが、お前らなら踏み越えられるはずとも言ったのだ。それを忘れるなよ?」
ジャン達に突っ込まれ、半ば投げやりになったセガルは懐からさらなる手紙を取り出す。
アンジェも含めクロード達五人を集合させ、全員に見せるように、手紙の中から一枚の紙を見せた。そこにはこう書いてあった。
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クロード、ケイト、メリル、エマ、アンジェ。
この五名による冒険者パーティが、過酷な道を乗り越え、我らと同じ高みに到達した証には『四神獣から認められし者』と我らの名を以て、是を強く推薦す。
又、彼らが希望する場合に限り、冒険者パーティ名を『黄龍』とし、我らは其れを認める。
『青龍』:『清流』ブルース、『竜爪』セガル。
『玄武』:『巨壁』アーロン。
『朱雀』:『不死鳥』シルベスト。
『白虎』:『蜃気楼』ジャック。
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セガルを含めた彼らの真の名前と共に……
まさにこれが本物だと証明するかの如く、それぞれの名前の横にはサインや血判も押されていた。




