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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第三章
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第89話 師弟Ⅱ

「彼らは……この街から去りました。」


 代表はまるでそれが決められた言葉のように淡々と言った。クロードの予感は的中したが、ちっとも嬉しくなかった。


「「えっ?」」


 ケイトやメリル、エマが困惑したままフリーズした。


「クロ坊。おめぇ、分かってたのか?」


 彼らが世話した中でただ一人クロードだけが落ち着いていた為、ジャンは声をかけた。


「いえ……そんな気がしただけです。

ジャンさん。ノリスさん達は、いつ……」


 出て行ったのか?体調が戻った今なら追いかければ間に合うかもしれない。

 何も言えていない。感謝も挨拶も、結局あまり話せなかった。ノリスさん達は何もしてないと言うかもしれないが、ノリスさん達から貰ったものは多い……いや、多過ぎる。

 肉屋との交渉資金から始まり、色んな戦い方や防具、アンジェを取り戻した事、更には自分の命までも……なのに、何も返していない。

 せめて最後に言葉を交わしたかった。その為にも追いかけれ、まだ間に合うはずだ……とクロードは思いジャンに聞く。


 しかし、希望は叶わなかった。いや、叶わないと思ってしまった。


「あの日、俺らとの話し合いが終わった直後から支度していたのだろう。」


「そうですね。昨日の昼前に私達を訪ねてから、彼らは去って行きました。」


 ジャンと代表は軽く言う。

 冒険者には別れは付きもの。あまり深く関わっていないのもあるが、一応ちゃんと別れの挨拶が出来たからこそ、軽かった。しかし、クロード達は違う。


「嘘!?どうして?」


「そんな……何も言ってないのよ!」


「あの時、そんな空気は少しもありませんでした。何故言ってくれなかったのでしょう……。」


 思考停止から復帰したケイト達が騒ぎ出す。

 その勢いは止まることがなく、


「じゃあせめて、私達に教えてくれても良かったじゃない!」


 ノスリ達が挨拶に来た時に、急いでココまで来て伝えてくれても良かったと、かなり理不尽な要求を代表にまで言い詰め寄った。


「彼らからの配慮もありましたが、君達はまだ万全ではありませんでした。クロード君は当然ですが、君達だって魔力を枯渇させて寝込んでいた時ですから。」


「でも!昨日の夕方には皆起きてました!その時で良かったはずです!」


 冷静でないケイト達の発言を特に気にせず、代表が優しく説明するが響く訳もなく、三人は瞳から零れ落ちそうなものを、口から吐き出した。そんなケイト達をセガルは鼻で笑った。


「フンッ。阿呆が。伝えてどうすると言うのだ?まさかとは思うが、追いかけるのか?」


「そうよ!当たり前じゃない!」


「うん。もっと聞きたい事、言いたい事、沢山あった。」


「まだ一日経っただけです!急げば追いつくかもしれませんね!急いで支度しましょう!

……クロード?え?クロード!?どうして?」


 立ち上がって焦り出すケイト達とは裏腹にクロードは椅子に座って顔を俯かせたまま、ピクリともその場から動かなかった。


「ほぅ。お前はよく分かっているのだな。」


 クロードの様子にエマは困惑し、されどセガルは感心した。


「ノリスさん達がそう決めた。なら会いに行くのは違う……追いかけて欲しくないんだと俺は思う……思った……いや、思ってしまったんだ。」


「クロード!!そんな訳無いじゃない。」


「いや、お前が正しい。

俺も含めてお前らも、アイツらとたまたま偶然に出会っただけだ。本来、交わるのが奇跡だな。

アイツらがココに来たのは連携がどうたらとか言ってた。今まで大体は【初心者の街】に居るらしい。

特に何処とは言ってなかったが、次はスキルの練習とかなんと言って、やはり【初心者の街】へ行くような事を話していた。

お前らはこれから先へ進むのだろ?お前らとアイツらの道は全く違う。お前らにとっては戻るようなものだな。戻ってどうする?アイツらに失望されたいのか?

アイツらは、お前らが先に進むのを夢見て送り出したのでは無いのか?」


「で、でも……こんな……何も!」


「何も?逆にお前らは何かしたのか?何かあったのか?何も無いではないか。

フンッ。憎たらしいが、アイツらの気持ちは俺と同じだ。

もしまた巡り会った時は、何かを成し遂げていて、それを一緒に酒でも飲みながら誉めたい。または何か壁にぶつかって迷っているのを、励まし助けたい。師として送り出すとは、そういう想いもある。何も無い、言葉を交わしたい気持ちだけで戻ってくるな。進んだ道を示せ。」


「ブルース様。一応、クロ坊達は彼らの正式な弟子じゃないんだぜ?」


「ああ。そうだったな。だが、似たようなものだろ。

それにコイツは気づいて止まったのだ。十分伝わるはずだ。」


「まぁまぁ。確かに彼らは急でしたからね。クロード君達の悲しみも分からないでもないでしょう?それに、例え師弟でなかったとしても……彼らは薄情ではありません。

クロード君。ケイト君。メリル君。エマ君。

座って落ち着いてください。

……彼らから君達宛に、手紙を預かっています。」


 ジャンと代表が、嘆くケイト達を突き放すセガルのフォローをしつつ、代表がクロード達へ手紙を渡した。


 クロード達それぞれに一つずつ。


 クロードにはノリスが、

 ケイトにはイドが、

 メリルにはエストが、

 エマにはサウルが書いた手紙だった。


 最初こそどの手紙の内容は同じで、急に出て行く事の謝罪から始まり、出会いから別れまでの感想や楽しかった日々の感謝も記されていた。

 後半は個人的なアドバイスなども含まれ、最後には次に会う日を楽しみにする期待と激励で締めくくっていた。


 クロード達四人は、目を擦りながらも手紙を読む。その光景を少し羨ましそうに見つめるアンジェの頭にセガルの手が置かれた。


「アンジェ。お前には手紙ではなく、俺からの言葉を贈ろう。」


「はい!師匠。

でも、手紙だといつでも読めるから私も欲しいです!」


「ふっ!阿呆が、調子に乗るな。」


「おや?セガル様?

彼らの手紙を預かった時に対抗して書いていませんでしたか?」


「ほ、本当ですか!?」


「よせ!言わんで良い事を言うな!」


「師匠。是非、欲しいです!」


「やめろ!そんな目で見るな。

居ないアイツらと違い、俺はココに居るのだぞ?」


「ブハハッ。俺だったらあまりの恥ずかしさで死にたくなりそうだな。」


「フフッ。大丈夫ですよ。セガル様は【英雄】。経験豊富ですものね。」


「クソったれ共!アイツらに毒され過ぎだぞ!」


「そりゃ、あんなけボッコボコに説教くらってたのを見ちまえばねぇ。『青龍』も人だったんだと思ったもんだ。」


「当たり前だ!クソッ。良いか?アンジェ。今は絶対に読むなよ?少しでも読もうとしたら、俺はすぐにでも帰るからな。」


 期待の眼差しでセガルを見つめ続けるアンジェに負けて、セガルは渋々とノリス達に対抗して書いた手紙を渡していた。

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